※天体観測部の二人。見る人によってはBLかもしれないのでご注意。
ただの興味本位で、流れ星マニアの先輩に聞いてみた。
「望先輩って、流れ星に何か願い事とかしたことあるんすか?」
もはや恒例となりつつある、俺が部活後に部誌を書く様を真正面に陣取りニコニコと眺める先輩。丁度ペットボトルのジュースを飲んでいた先輩のその片手から徐にキャップが落下し、軽い音を立て机の上に着地したそれは、衝撃で一度飛び跳ねた後、やがて静止する。しかし、俺からしてみれば軽いと感じたそれは先輩からしたらどうやら地球に隕石が衝突するのと同程度ぐらいには重々しく破壊力に特化したものだったようで、何も言葉を返してこない先輩を不審に思い部誌から顔を上げた俺は、世界の終わりにでも直面したかのような有り様でペットボトル片手に口を戦慄かせる先輩の顔とご対面することとなる。
「······ゆーやくんって、もしかして······大怪我してる人に対して平気で拷問とか出来ちゃうタイプ······?」
「どうしてそうなった?」
もう一度言わせて頂く。どうしてそうなった?
「俺にわけわからん属性勝手に追加するのやめてもらっていいっすか?」
これでもかという呆れ顔を作りながら片肘を机に乗せ頬杖をつきながら先輩を睨めば、「だって!」と先輩はペットボトルを机の上にダンッ! と勢いよく置き、負けじとこちらを見つめ返してくる。せめてキャップを閉めてからにしろ、中身ちょっと机の上に飛んだだろ今。
「落ちていく星の欠片に人間の欲望とかいう汚くて馬鹿デカい荷物背負わせるなんて! そんなの出来るわけないでしょ! そんなのは鬼畜の所業だよ!! 星の欠片が可哀相じゃん!!」
「だからって健全な男子高校生に向かって“平気で拷問出来そう”とかいうクソみたいなレッテル貼るのやめてください」
いつもヘラヘラしている先輩にしては珍しく、口をヘの字にしてムスーッとした顔をしているが、それだというのに尚も醸し出されるこのフニャフニャ感は多分もう魂レベルで刻み込まれてどうにもならないのだろう。「ゆーやくんってほんとデリカシーないよね!」とか言いながらぷんすこしているが、その台詞そっくりそのままブーメランだろうが。
「じゃあこれは仮に、仮にの話ですよ? 流れ星とか全く関係ない仮にの話で、ただ純粋に、何か願い事するなら先輩はどんなことお願いするんです?」
「えーー? そうだなぁ~······星の欠片にお願い事する人間全員滅びますように!」
「物騒」
流れ星マニア······否、流れ星過激派はやはり言うことが違う。過激派って怖いな。今後一切この人に流れ星の話題振るのやめようかな。
「ちょっと~~! 真に受けないでよ~~! 半分しか本気じゃないしぃ~~!!」
「半分本気な時点でヤバいってことに気付いてくれませんかね」
二人の間の見えない心の距離がじわりじわりと広がっていっていることに気付かれたのか、先輩はそんな本気か冗談かわからないフォローを入れてくるが、一つわかったことはこの人はガチでヤバい人間だということだけだ。フォローがフォローになっていない。むしろ墓穴掘ってるよこの人。自分で勝手に自爆してるよ。
「じゃあこっちも聞かせてもらうけどさぁ~! ゆーやくんのお願い事は~??」
「えぇ······」
「もーー! そんなあからさまにダルそうな顔しなくたっていいじゃぁ~ん!!」
「だって、んな急に言われましても······」
「俺だって急に話振られたんだけどぉ~~!?」
理不尽だー! 先輩虐めるのがそんなに楽しいのー! とか何とか喚いてる先輩はとりあえず放っておいて、自分のお願い事について考えてみる。······考えてみた、のだが。
「いやぁ······ないっすね」
「え~? うっそだぁ~! またそうやって、俺のこと言いくるめようとしてるでしょ~~!」
「いや、ガチで何も思いつかなくて。マジのマジで」
「······マジのマジで?」
「マジのマジで。だから······」
顔面にデカデカと「疑ってます!」と書いてあるような先輩の様子を見ていたら、急にここまでの遣り取りのくだらなさに笑いが込み上げてきて、俺は伏し目がちに小さく口の端を持ち上げる。
「望先輩の所にたくさん流れ星が来ますように」
「へ?」
「俺自身のお願い事は特にないんで、これで一旦ファイナルアンサーです」
「······」
「そうすれば、汚くて馬鹿デカい荷物背負わなきゃいけなくなる奴も少なくなるでしょ?」
ね? と首を傾げて問い掛ければ、ぽかんと口を開けていた望先輩の口角も徐々に上がっていって。
「······あはっ。何それ、俺目掛けて星の欠片達が集中砲火? ······最高じゃん」
その光景を思い描いて興奮しているのか、先輩の瞳孔は開き気味で、フニャフニャ感も今は鳴りを潜めている。やっぱ流れ星過激派ってこえーな、なんて感想を改めて抱きつつ。
「ま、いつかそうなるために流れ星に好かれるよう、今度見つけた時にはお願いしとけばいいんじゃないですか?」
「やっぱりゆーやくんて前世で処刑人か何かだった?」
お前達のことをこんなにも愛してくれてる人のこと、ちゃんとお前らも愛してやれよな。
そう、今は見えない星々に願いを飛ばした。
2/10/2025, 3:57:18 PM