終焉の音がする。
稲光が大地を裂き、人々は恐れ慄く。守り神に反感を買った者たちの悲鳴がやまない。
御山には龍が棲み、人々を見守っていると伝え聞いていた
「龍を怒らせてはならない。
怒らせたら怖いことが起きる。」
そう、母は何度も言い聞かせてきた。鬼気迫るその姿は、まるで般若のよう。
おとぎ話の龍より怖かったのを覚えている。
私がその意味を知ったのは、それから数年後。
村が未曾有の飢饉となった。大地は干上がり、水の恩恵が絶えた。米も野菜も育たず不作が続く。
それは龍が何かしたからではないのか?
人々の疑念は悪意となり、矛先は非力な私に向けられた。
「命を龍に捧げ村を救え」と告げてくる大人達に逆らう力はない。家族と死別し天涯孤独の私が選ばれた。
【龍の花嫁】などと仰々しい呼び名がつけられたが、要は生贄だ。
白無垢に身を包み、篝火ひとつない山中に放置された。頬に触れる生温い風は吐息のようで、耳に届くのは野鳥と虫の鳴き声。この先訪れるのは、残酷な最期だというのに心は凪いでいた。
「君はまだ生きたいかい?」
背後から目隠しをされ、問われる。静かに迫ってくる存在感に呼吸を忘れた。意を決して一度頷いた。
「……分かった。代わりに君の大事なものがなくなるけれどいい?」
もう一度頷く。
圧迫していた気配が消え、頭上を見上げれば金色の目をした龍がいた。
龍は村を蹂躙し人々を死に追いやった。慣れ親しんだ場所は、跡形なくなり胸が痛む。
少女はただただ呆然と立ち尽くしていた。
毎年、誕生日になると贈られる花束。
花弁からは甘やかな香りが漂い鼻腔をくすぐる。
送り主は無愛想で口下手な婚約者。
律儀な人柄は彼の言動から垣間見える。そんな彼が、
毎年贈ってくれる花束は赤紫色の薔薇。
その薔薇の本数に込められた彼からの愛情。
口では伝えてくれない本心が垣間見える。
「ありがとう。大好きよ。」
花束を抱え囁いた。
※本文内の赤紫色の薔薇はミッドナイトブルーと言う品種の薔薇です。
「……嬉しいから」
胸がいっぱいでそれしか言えなかった。
姉のように武勲で身を立てる事は叶わず、
妹のように天真爛漫で愛されることもない。
平凡な無能力者。
そう、影で嘲笑されている事を知っていた。
優秀な姉妹と比較され心は疲弊していく。
もう、疲れた。
生きることも、何もなかったかのように取り繕うことも。
何もかもが嫌になった。
そして戦火に紛れ逃げ出した。
私の事を誰も知らない国へ。
____逃げた先で出会ったのが、彼だった。
紅鳶の髪に金色の瞳の騎士。
柔和な笑みを浮かべながら、瞳の奥に寂しさを宿していた。
多くの時間をともに過ごすうち彼が、願ってくれた。
生涯、側にいてほしいと
希われて流れた涙はきっと嬉し涙で、
胸に宿る温もりは彼への愛。
生温い風を感じながら
見上げる空には光の大輪の花
風に混ざる火薬の匂い
人々の歓声
夏の風物詩とはよく言ったもの
限られた時間でのみでの光のパレード
また来年も見れたら良いな
胸を苛む想いごと消えてしまえたら
どんなに楽だろう
日毎月毎、あなたを想っても同じ想いは返ってこない
あなたと私では想う人が違うから
振り向いてなんてもらえない
身を焼くような恋情なんて手放すべきなのか
それともあなたを手にかけてしまおうか
狂気に蝕まれ、理性が消えていく
壊れてしまう前にあなたを………