「……嬉しいから」
胸がいっぱいでそれしか言えなかった。
姉のように武勲で身を立てる事は叶わず、
妹のように天真爛漫で愛されることもない。
平凡な無能力者。
そう、影で嘲笑されている事を知っていた。
優秀な姉妹と比較され心は疲弊していく。
もう、疲れた。
生きることも、何もなかったかのように取り繕うことも。
何もかもが嫌になった。
そして戦火に紛れ逃げ出した。
私の事を誰も知らない国へ。
____逃げた先で出会ったのが、彼だった。
紅鳶の髪に金色の瞳の騎士。
柔和な笑みを浮かべながら、瞳の奥に寂しさを宿していた。
多くの時間をともに過ごすうち彼が、願ってくれた。
生涯、側にいてほしいと
希われて流れた涙はきっと嬉し涙で、
胸に宿る温もりは彼への愛。
8/19/2025, 12:33:29 PM