たろ

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11/24/2025, 10:40:32 AM


【君が隠した鍵】


「…失くした?」
申し訳なさそうな表情のあなたが、腕の中の小箱を見下ろしている。
「鍵、失くした。だから…。ごめん。」
こどもの時分から、ずっとあなたの宝物が入っている、それはもう大切にされてきた鍵付きの小箱。
「あぁ、そっか。無理、言ったね。ごめん、無神経だった。」
自分が見たいなんて言ったからだ。
「…違う。本当に、失くして!」
青褪めていくあなたの頬が、生白く部屋の照明を弾く。
「大丈夫だよ、かっちゃん。気にしないで。気軽に見せてもらう物じゃなかったよね。ごめんなさい。」
踏み込み過ぎてしまった事を反省して、動揺しているあなたの背中をゆっくりと撫でる。
「ほら、座って?かっちゃん。その鍵、外には持ち出さないでしょう?きっと家の中にあるよ。大丈夫、ちょっとお出掛けしてるだけなんだよ。」
ぎゅうと所在なげなあなたを抱き締めて、背中をぽんぽんと叩く。
「…思い出せない。何処に仕舞ったか全っ然!」
この世の終わりの様な表情で、自分を叱責し始めそうなあなたを抱き締め続けた。
「今日は開ける必要がないって事だよ。小箱さんが、そう思ってるの。今じゃない、って事。」
余裕がなくて、暫く触れていなかったこともあって、あなたは酷く動揺している。
「―――っ!見せたくない訳じゃないのに!」
情緒不安定な精神状態の時に、して良い話では無かった。
「うん、ありがとう。小箱さんが良いよ、って言ってくれるまで待つよ。また今度にしよう。ね?かっちゃん。」
小箱を投げ棄てそうになるあなたの手から小箱を引き取って、ソファの隅にそっと置いた。
(オレが焦ってどうするよ。)
あなたが落ち着くまで傍に居て、ゆっくりと宥める。

11/3/2025, 10:34:22 AM

【行かないでと、願ったのに】

声が出ない。これはきっと夢だ。
『待って!行かないで!』
手を伸ばした先の愛しい人は、ちらりと視線だけ寄越す様に立ち止まるも、一瞥のみを残して冷たく去っていく。
(夢なら、醒めてくれ!)
夢を自覚しても、なかなか醒める事が出来ない。
悪い夢の時はそれが顕著で、魘されども起きる事が出来ずに、悪夢に振り回されてしまう。

「―――っ!」
陸に上がった魚のように、肩で息を継ぐ。
「カズ?」
ベッドの隣を弄って、定位置に居るはずの愛しい人の姿形を探す。
「…いや、泊まりで仕事。」
言い聴かせるように呟いた声は、しんと静まり返る夜の静寂に吸い込まれていった。
「…温かい物。」
ひとつ溜息を溢して、寝具から抜け出す。

悪夢の後は、ほぼ眠気が来ないので、もう眠れそうにはないが。
(無事に帰って来てくれれば良い。寄り道しても良いから…。)
もう一度、眠気が来てくれますように、と願いながら、カフェインが少ない温かい飲み物を用意する。

部屋の照明を絞って、念の為にブランケットに包まって用意した飲み物と一緒に夜の静寂をやり過ごす。
(夢日記ばっかり増えてく…。)
悪夢ほど忘れられず、脳裡に残り続けるので、小さいノートに書き留めている。
吐き出す為に小さいノートいっぱい書き綴ったら、破って燃やしたり捨てたりするのだ。
本当は、良い夢を書き留めたいのに。


携帯電話が、愛しい人からの着信を知らせる。
『ごめんね、かっちゃん。仕事、延長になっちゃって…。帰るの、2日後になる。』
帰ってくるであろう電話と思って取った電話の声は、疲労と悲壮に沈んでいた。
『あー!帰りたいぃ!…帰ったら、ハグしてくれる?よしよしして欲しい。』
電話口の向こうで鼻をすする音がして、べそべそと泣きそうな声が聴こえて来る。
「わかった。残り2日、無事に帰って来て。待ってるから。怪我と風邪は、こっちに戻ってからにして。」
帰って来たら、とびきり甘えさせて、しっかり休んでもらおうと決めた。


帰宅時間を知らせるメールが届いて、最寄り駅まで迎えに行く事にした。
「再延長は免れたー!ただいま!」
最寄り駅の改札前まで飛んできた愛しい人の身体を抱き止めて、止まらぬ勢いのままにくるりと一周回る。
「おかえり、カズくん。お疲れ様でした。」
愛しい人の後頭部をそっと撫でて、延長戦までお伴をしてくれたスーツケースと鞄をつかんで、散逸しないように掴まえた。



10/19/2025, 3:13:24 PM

君が紡ぐ歌

10/10/2025, 10:04:26 AM


「一輪のコスモス」
生まれた日の頃に咲く花。
ふわふわと揺れる一重の花。
綺麗な桃色の花びらと糸のような葉っぱと茎。
繊細な形と風に揺れる姿は、可憐で愛おしい。大好きな花だ。




【愛する、故に】



10/6/2025, 3:10:33 PM


【燃える葉】

ざっざっ、かさかさ。
乾いた落ち葉や小枝を、箒で掃き集める。
こんもりと山になるのを尻目に、木枯らしが悪戯をする前にと火を点ける。
パチパチと乾いた音を立てて、集めた落ち葉の山が燃える。

ゆらゆらと揺れる穏やかな火を眺めながら、用心の金バケツに入っている水の中から、小振りの薩摩芋を取り出す。
アルミホイルの上に白いペーパータオルを敷いて、水から取り出したばかりの芋を載せる。
水切りもロクにしないままの芋をペーパータオルで包み、更にアルミホイルでしっかりと包む。
この一連の工程を、芋が無くなるまで続け、いよいよバケツの中が水だけになったのを確認する頃には、火の爆ぜりも落ち着いてくる。
落ち葉の山の中に、アルミホイルを突っ込む。

「ん〜!いい天気!」
一仕事終えたご褒美を、これから帰ってくるであろう大切な人と頬張りたいのだ。

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