【君が隠した鍵】
「…失くした?」
申し訳なさそうな表情のあなたが、腕の中の小箱を見下ろしている。
「鍵、失くした。だから…。ごめん。」
こどもの時分から、ずっとあなたの宝物が入っている、それはもう大切にされてきた鍵付きの小箱。
「あぁ、そっか。無理、言ったね。ごめん、無神経だった。」
自分が見たいなんて言ったからだ。
「…違う。本当に、失くして!」
青褪めていくあなたの頬が、生白く部屋の照明を弾く。
「大丈夫だよ、かっちゃん。気にしないで。気軽に見せてもらう物じゃなかったよね。ごめんなさい。」
踏み込み過ぎてしまった事を反省して、動揺しているあなたの背中をゆっくりと撫でる。
「ほら、座って?かっちゃん。その鍵、外には持ち出さないでしょう?きっと家の中にあるよ。大丈夫、ちょっとお出掛けしてるだけなんだよ。」
ぎゅうと所在なげなあなたを抱き締めて、背中をぽんぽんと叩く。
「…思い出せない。何処に仕舞ったか全っ然!」
この世の終わりの様な表情で、自分を叱責し始めそうなあなたを抱き締め続けた。
「今日は開ける必要がないって事だよ。小箱さんが、そう思ってるの。今じゃない、って事。」
余裕がなくて、暫く触れていなかったこともあって、あなたは酷く動揺している。
「―――っ!見せたくない訳じゃないのに!」
情緒不安定な精神状態の時に、して良い話では無かった。
「うん、ありがとう。小箱さんが良いよ、って言ってくれるまで待つよ。また今度にしよう。ね?かっちゃん。」
小箱を投げ棄てそうになるあなたの手から小箱を引き取って、ソファの隅にそっと置いた。
(オレが焦ってどうするよ。)
あなたが落ち着くまで傍に居て、ゆっくりと宥める。
11/24/2025, 10:40:32 AM