「答えは、まだ」
まだ、もう少し。
何とかやりくりして、つかず離れず。
立ち行かなくなる前に、逃れるべきか。
それでも彼の人のつまらぬ戯れ言に振り回されながら、ヤツの為にこちらが折れてやるのも癪だと言い聴かせ、宥め賺している。
迷いながらも、自分の糧になるのではなかろうかと、暗中模索している。
まだ、答えは出ないが、ずっと居る場所でもなかろうとも思っている。
あぁ、今日も今日とて。
トグロを巻きながら、ぐるぐるとロクロを回しているのだ。
【君と見上げる月…🌙】
「一緒に、見よう!」
あなたが大好きな天体観測。
今回は、満月の夜の皆既月食。
早く仕事を終えて、眠る準備を万端にして。
「見えると良いなぁ。」
レモンイエローに光る月が、雲の切れ目から顔を覗かせている。
蚊帳代わりのテントに潜り込んで、天窓代わりの内窓を開けて、ふたりでごろ寝する。
雲間から、薄っすらと紅い月が見えた。
(食われる、とは良く言ったものだな。)
ほんの少し残った黄色が、赤茶色に呑み込まれていく。
「あー、食べられちゃったね。黄色いところ、なくなっちゃった…。」
しょんぼり声が、あなたの口元から溢れ落ちた。
月明かりが消えて、静けさが夜空から落ちてくる様だった。
黄色いお月様が戻ってきたら、きっとまた大はしゃぎで出迎えるのだろう。
【雨と君】
土砂降りの雨の中、立ち尽くす君の背中。
どのくらいの時間、そうしていたのか分からないほど濡れそぼった身体を抱き締めた。
大きな蝙蝠傘の下に冷たくなった身体を招き入れて、屋根の下へ引き摺っていく。
家の中に入れて、濡れた衣服を剥ぎ取って、ざっと濡れた髪と身体を拭って、ぺたぺたと浴室まで手を引いていく。
冷たい水から少しずつ熱いお湯に変えていって、身体を洗う。
湯船に浸けて温まるまで、隣で身体を洗って、ポソポソと他愛のない話をする。
びしょ濡れの衣服を洗濯機に放り込んで、カラカラと洗う。
温かい飲み物を淹れて、暖めた部屋のソファでくつろぐ。
人心地つく頃には、突然のスコールもきっと何処かへ。
【ふたり】
寒い季節は、寄り添って。
こたつもソファも、温かい飲み物も一緒。
熱い湯船に浸かりたくて、いつも競争。
暑い季節は、つかず離れず。
空調を効かせた部屋の床に転がっては、ごろごろと冷たい所を探す。
風呂上がりの扇風機前は、いつも取り合い。
時々は喧嘩もするし、意地を張って別行動することもある。
それでも結局は、誰よりも傍に居たくて、甘えたい。
そんな風に、ふたりは生きていたいのだ。
「心の中の風景は」
嵐が来た。
極寒の冷気。極限のブリザード。
心臓は縮み上がり、ドンドコと生命の危機を叫ぶ。呼吸は浅くなり、脳内に警鐘が鳴り響く。有り体に言えば、動悸である。
嵐が去った。
穏やかな春の陽気。萌木と芽吹きの躍動。
春告鳥は雪解けを連れ、爽やかな風は新しい季節を連れて来る。
心臓はふくいくと全身に血液を送り、生命の連綿を言祝ぐ。熱い血潮が、身体中を満たす。さぁ、前を向き、歩いて行くのだ。
表面上は、スンッとしているが、中身は大騒ぎである。