※閲覧注意※
タイムトラベラーなモブちゃんの気持ち。
何でも許せる人向け。
《届かぬ思い》
そう遠くない未来に、死を以て退去する事が判っている人たちを前に、転ばぬ先の杖も差し出せない自分がもどかしい。
(その時はどうか、苦しみが少しでも減って、穏やかな時を過ごせますように。)
傲慢な祈りとは解っているけれど、それでも願わずには居られない。
苦しさを取り除きたくて傍に侍っていた相手の、最期の呼吸を確認した。
(どうか、望まれるままの黄泉路を辿れますように。迷わず、次の世へ巡る事ができますように。)
そっと、その手を胸に掻き抱いて、白木の香木で作った数珠を握らせた。
(お疲れ様でした。ゆっくりと、お休みください。)
溢れる涙が煩わしくて、乱雑に内衣の袖で目元を拭う。
「逝った、か。」
簾越しに影が動いて、去っていく足音を見送った。
4/14見逃し分↓
《神様へ》
どうかこの身をお使いください。
この身を使って、この世を平らかにして下さい。
すべての人が、あまねく心安らぐ世界となります様、祈りを捧げましょう。
その為ならば、この身がどうなろうと構いません。
あるべき場所へ帰りたいと思う事もありましたが、それが夢のまた夢だとあなたが仰るならば、叶わぬ夢と掃いて捨て置きましょう。
どうかどうか、正しい道を示して下さい。
この身を慈しんでくださった、大切なあなたを喪う未来しかなくとも。
私の未来が喪われようとも。
あなたが選ぶ最善が、人の世の最善と正道である事を、願います。
※閲覧注意※
軽率なクロスオーバーとIF歴史。
モブちゃん2号。活きが良い方。
好戦的な野生児。
神様は容量が大きいので、人間2人分に分けたよ。
《快晴》
「見るべきものは、見た―――。」
退去と覚悟が決まった、その合図。
水面を揺らして、海底へと堕ちていく体躯。
沈むための細工を施したのは、絢爛な死装束。
「あんな派手な死装束じゃ、地獄の門番も黙ってないよな。」
黄泉路でも、きっと華々しく大立ち回りして、獄卒たちと喧嘩三昧だろうなぁと、苦笑いする。
「さぁて。こちらも、お役御免かな。」
元現代っ子としては、切腹とか自害とか怖すぎるので、海には入るけど!
「ドザエモンも、ホントはヤなんだけどなぁ…。」
他人を傷付けるのも、苦しいのも痛いのも本当はイヤでイヤで堪らなかった。
でも、生きる為には仕方がないと、ストンと納得してしまった。
「グレちまったなぁ…。ちゃんと生きて行けるのかね、あっちで。」
真っ当に生きる自信がなくなった、なんて家族がひっくり返る未来しか浮かばない。
「うへぇ、何でこのタイミングで思い至るワケ?だー!何が何でも帰ってやるぞ、コンチクショウ!」
手当たり次第、近くにいた可哀想な敵方の雑兵の首根っこを掴んで、海の中に飛び込んだ。
まだ生きていたい雑兵達は、自分を足蹴にして海面へ戻って行った。
(これで、ホントに戻れんの?)
沈んでいくのを感じながら、一抹の不安が過ぎる。
(おーい、龍神様やー?ちょ、マジで死ぬんだが??)
死ぬ判定が必要なやつか?これは。
『ふぁあ、おはよう。世話になった。ありがとう。私は、空へ還ろう。息災でな。』
のんびりとした声が響いて、鈴の音が鳴り響いた。
美しいせせらぎの音から、水面を藻搔く繁雑な五月蝿い音に変わり、溺れる様な感覚から、陸へ打ち上げられた魚の様に意識が衝撃を以て浮上した。
「大丈夫ですか?聴こえますか?」
救出されたばかりの溺れかかった体が、酸素を欲しがってはくはくと口元を揺らす。
(溺れ死んだかと思った。…生きてる?)
声にならない声。周りが思ったよりも五月蝿くて、掻き消されそうだ。
「どうしました?声が聴こえますか?」
こくりと頷くと、乾いてベタつく口腔内を無理矢理動かして、鈍い声帯を無理矢理震わせて、絞り出す。
「すいません、寝てたみたいで。」
か細い蚊の鳴くような声が、ひよひよと出てきた。
周りを忙しなく動いていた女性たちが、どっと笑う。
「うん、寝ちゃってたのね?起きられて、良かったです!良かった、良かった!」
バイタル?が落ち着くまでの処置が終わって、まだ少し血圧が低いのと、同じ様な事があると手狭だから、部屋が変わると説明されて、ベッドに寝かされたまま、何処かへ移動した。
取り敢えずは、戻って来れたらしい。
※閲覧注意※
軽率なクロスオーバーとIF歴史。
モブキャラが普通に居るよ。
何でも許せる人向け。
《遠くの空へ》
良くあると言われる兄弟喧嘩という名の手合わせが、眼の前で繰り広げられている。
雅な広い屋敷の中にある広い庭に不釣合な、激しい剣戟の音が響き渡っているのだ。
「よさないか、お前たち。御子が怯えている。」
暖かくて大きな掌が、恐怖に震える背中を擦ってくれる。
恐る恐る振り返って見上げると、優しい面立ちの男性がふわりと笑った。
「いつも弟達が、すまない。毎度のことながら、気にしないで貰えるとありがたいが。…ふむ、しかし終わりそうにないな。」
どうしたものか、と思案顔をした青藍の瞳がすっと細められた。
「御子殿、ご一緒戴こう。あぁ、ご覧戴きたいものがあるのだ。」
青色の着物に包まれた腕に、体ごと抱き上げられてしまう。
『はわゎ!あ、歩きます!ごめんなさい、重たいから、降ろしてください…。』
だいぶ高い位置に抱き上げられてしまい、困惑するやら怖いやらで、結局抱き上げてくれた眼の前の人に縋る。
「いい加減にしなさい、ふたり共。御子殿は、私が預かるからね。」
剣戟の音を背に、その場を後にする穏やかなその人。
「落ち着いたら、迎えに来させよう。」
始まると長いのだと言って笑う青色を纏うその人に、身を委ねた。
(腰が抜けてるの、バレてるんだろうなぁ…。)
妻子も余裕もある大人な男性が、血の繋がりもなく擬似的に伯父となるのは、不思議な事に思えた。
「あぁ、そうだ。あまねの君にも、話をしておこう。御子殿を怖がらせる愚弟には、灸が必要だろう。」
剣戟の音の向こうから、女性の声がした。
「聴こえていたか。あまねの君に、挨拶をしても良いかな。」
振り返ると、庭の中ほどに銀色の髪がキラキラと光を反射していた。
剣戟の反射は影を潜めて、音も静かになっていた。
抜ける様な青い空が、広がっていた。