たろ

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3/3/2024, 12:29:20 PM

思い出と昔話と。ほぼ実話。
ばぁちゃん、やたら詳しかったな(笑)。
古典の授業、むっちゃ助かったやで!←おい

『ひなまつり』

幼い頃、祖母から聞かされた遠い昔のおとぎ話。
「このお雛様は、お前の写し身。良く触れて遊びなさい。お前の厄、悪いものを引き受けてくれるのだから。だから、お前が嫁に行って母親になったら、このお雛様とはお別れするんだよ。間違っても、自分の娘にやってはいけない。新しいものを買ってやるんだ。その子のお雛様をね。」
それが、お雛様の本当の意味だとは知らずに、良く遊んだ。
「お内裏様は、お雛様の夫。三人官女は、この夫婦に仕える女房たち。身の回りの世話から、お仕事のお手伝いまで、何でも出来る才女だよ。五人囃子は、雅楽の奏者。今風に言ったら、オーケストラかねぇ。お抱えの音楽家たちだ。右大臣と左大臣は、文武の長。貴族と武士ってとこかね。一番下の三人は、丁仕。庭師と言ってね、外回りの仕事をする人たちだよ。昔は、下男と呼ばれていたかね。」
役割と地位がそれぞれに与えられていた事も、昔話の中の物語には職業選択の自由は無かった事も、いつの間にか教えられていた。
「選びたい人には辛かったろうけど、これからは自由に選べと言われて辛いだろうね。自由とは難しいものさ。でも良いものだ。」

手垢のたくさんついた、幼い頃の遊び相手と私は、さよならをした。
「たくさん、たくさん、遊んでくれてありがとう。」
色んな事を教えてくれた祖母も去り、私自身はまだ嫁にも母親にも成っていないけれど。
「色んな事を、あなた達を通して学びました。私を護ってくれて、ありがとう。」
華やかな宮廷生活は望まないけれど、お仕事を手にして何とか生きている。
「本当に、ありがとう。お疲れ様でした。」

新しいお雛様は、いつか自分の元に来てくれたら。きっと祖母の話もしようと思う。
「子供は、最初神様や仏様のもので、時々幼い頃に空へ還ってしまう子がある。その子たちは、ただ呼び戻されただけだから、悔やむ必要はない。誰の所為でもないのだ。」
時代錯誤と呼ばれようとも、何処か意固地になっていただけかもしれないけれども、何かを伝え残そうとしていた様に見えた祖母の姿。


今はない、お雛様と祖母を思い出す。
そんな、ひなまつりの日を過ごした。

3/2/2024, 1:04:29 PM

※注意※
やや胸糞展開あり。
倫理感ゼロの頭と治安が悪いモブがいるよ。
見たくない方は、かっ飛ばしてください。

【たった1つの希望】

『もう少しで家族になるんだから、仲良くしよう。』
始まりは、そんな話からで。
『お前が誘ってきたんだ。』
最終的には、自分の所為になっていた。
どうしてこんな事に。
そう思い始めた頃には、引き返せない所まで来てしまったのだと認識していた。
『イヤだイヤだと口では言うが、本当は嫌じゃないんだ。そうでなきゃ、こんな風にならないんだよ。』
嫌気が差している一連の行為も、穢らわしいと感じる手も、拒絶すれば酷い仕打ちが待っているので、黙って受け入れた。
(早く、終われば良いのに。)
羊を数えるように、楽しいことを思い浮かべようとする。
「お前に付き合ってやってんのに、何だその態度は。」
気がそぞろなのを咎めているのであろう、その声にへにゃりと笑い返す。
好きなだけ勝手に遊んで、満足すれば放り出すのだ。それまで待てば、解放される。
ずっと、待てば良いのだ。
(もう、少し。)
少しでも早く満足してもらうために、身を捩って相手が悦ぶように位置を取り直す。

すっかり満足したのか、さっさと身支度をして帰っていく大人。


放り出された身体を温めるべく、ズルズルと浴室に向かって行く。
ようやく解放された事と大切な人に知られなくて済んだ事が、強い安堵感を引き寄せる。
シャワーで水に流してしまえば、全て終わりなのだ。
希望の塊のあなたを汚したくなくて、それだけを頼りに秘密を抱えて生きて行こうと思えた。

まさか、希望そのものだったあなたが、乗り込んでくる事になるとは思わなかった。
しかも、希望そのものとも言えるあなたが手に入るとは、想像もしなかった。

3/1/2024, 1:48:05 PM


【欲望】

いつからか、大切なあなたを欲しがる様になっていた。
自分の異常性に怖くなって、目を背けようとした。
(駄目だ。壊してしまう。)
同じく壊れるなら、せめて良き友人のままで居たいと、願っていたのに。
「ごめんね。離れたくても、離れられなくなっちゃった。オレが、欲しくなっちゃったの。だから、ごめんね。」
均衡を崩したのは、第三者で悪い大人だった。
ギリギリで繋いでいた理性は辛うじて、あなたに嫌われないようにだけ働いて、他は全てあなたを囲う為に費やした。

我ながら酷いとは思いつつ、最大限あなたを愛して護りたいと想った。

2/29/2024, 10:57:53 AM


【列車に乗って】

その列車に乗れば、終着駅が旅の目的地。
なかなかない旅程だが、複数の路線が相互に乗り入れていて、大変に便利でもある。
ひたすら列車に揺られて行くので、少し良い席のチケットを取った。

ふたり並んで座り、車窓を眺めたいあなたを窓際にして、あなたごと景色を眺める。
お腹が空いてきたら、少し遅めの朝ご飯。
握ってきたお結びを出して、頬張りながら車窓を楽しむあなたの嬉しそうな背中を見詰めていた。
「楽しいね。眠たくなったら、眠って良いよ。最後の駅まで行くから。」
出掛ける時は必ず、景色を良く見ているあなたが、眠ったまま目的地に辿り着くことは一度もない。
「眠るのが、惜しい。」
良い景色だから、寝たくない。
そう言っているようで、笑ってしまう。
「疲れているなら眠って。起こすから。」
真剣にちゃんと起こすから任せろと言ってくれる。
「ありがと。寝てたら、起こして。」
自分で運転しない列車に揺られると、心地好く睡魔が手招きしてくる。
「ゆっくり休んで。」
睡魔と戦う自分を知ってか知らずか、あなたは上着をこちらに掛けてくる。
遠くで、嬉しそうに口角を上げて笑う気配がする。

2/28/2024, 11:23:38 AM


【遠くの街へ】

「温泉…。行きたいなぁ。」
見るともなしに点けっ放しの旅番組を眺めていたら、ぽつりと零れていた。
「ここ、電車で行ける…。行く?」
リモコンを操作しているあなたが、録画を選択している。
「ここじゃなくても、良いし。」
ゆっくり出来れば、温泉じゃなくても良い気がして、ぼんやりしていると、そっと腕を掴まれた。
「ゆっくり出来る処が良いな。泊まって、のんびりしたい。…って、思ってる?」
驚いて目を丸くしたら、あなたは悪戯が成功した時みたいに得意げに笑う。
「顔に書いてある。北でも南でも、東でも西でも。どこでも良いよ。一緒に行って、ふやけるまで温泉に漬かって来よう。」
嬉しそうに日程確認をし始めるあなたにつられて、あれよあれよと言う間に旅程が決まっていた。

久々にもぎ取った長期休暇を最大限活用し、素敵な温泉街を持つ温泉地へと旅立った。

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