たろ

Open App

思い出と昔話と。ほぼ実話。
ばぁちゃん、やたら詳しかったな(笑)。
古典の授業、むっちゃ助かったやで!←おい

『ひなまつり』

幼い頃、祖母から聞かされた遠い昔のおとぎ話。
「このお雛様は、お前の写し身。良く触れて遊びなさい。お前の厄、悪いものを引き受けてくれるのだから。だから、お前が嫁に行って母親になったら、このお雛様とはお別れするんだよ。間違っても、自分の娘にやってはいけない。新しいものを買ってやるんだ。その子のお雛様をね。」
それが、お雛様の本当の意味だとは知らずに、良く遊んだ。
「お内裏様は、お雛様の夫。三人官女は、この夫婦に仕える女房たち。身の回りの世話から、お仕事のお手伝いまで、何でも出来る才女だよ。五人囃子は、雅楽の奏者。今風に言ったら、オーケストラかねぇ。お抱えの音楽家たちだ。右大臣と左大臣は、文武の長。貴族と武士ってとこかね。一番下の三人は、丁仕。庭師と言ってね、外回りの仕事をする人たちだよ。昔は、下男と呼ばれていたかね。」
役割と地位がそれぞれに与えられていた事も、昔話の中の物語には職業選択の自由は無かった事も、いつの間にか教えられていた。
「選びたい人には辛かったろうけど、これからは自由に選べと言われて辛いだろうね。自由とは難しいものさ。でも良いものだ。」

手垢のたくさんついた、幼い頃の遊び相手と私は、さよならをした。
「たくさん、たくさん、遊んでくれてありがとう。」
色んな事を教えてくれた祖母も去り、私自身はまだ嫁にも母親にも成っていないけれど。
「色んな事を、あなた達を通して学びました。私を護ってくれて、ありがとう。」
華やかな宮廷生活は望まないけれど、お仕事を手にして何とか生きている。
「本当に、ありがとう。お疲れ様でした。」

新しいお雛様は、いつか自分の元に来てくれたら。きっと祖母の話もしようと思う。
「子供は、最初神様や仏様のもので、時々幼い頃に空へ還ってしまう子がある。その子たちは、ただ呼び戻されただけだから、悔やむ必要はない。誰の所為でもないのだ。」
時代錯誤と呼ばれようとも、何処か意固地になっていただけかもしれないけれども、何かを伝え残そうとしていた様に見えた祖母の姿。


今はない、お雛様と祖母を思い出す。
そんな、ひなまつりの日を過ごした。

3/3/2024, 12:29:20 PM