『10年後の私から届いた手紙』
今、あなたは何を夢見ているのだろう。
10年後のあなたに、私は何を渡せるのだろう。
『今の自分が、10年後の自分自身を形作るのだ。』と、誰かが言った。
10年前、何をしてたっけ。
もう少し若くて、もう少し友達と過ごしてたなぁ。
10年前のあなたが思い描いていた私には、成れているような成れていないような…。
もう少し、頑張ろう。
【バレンタイン】
最近は、友達や家族、恋人からも公然と交換したり、立場が逆転しても問題視されなくなってきた。
「良い時代になったねぇ。」
とは言うものの、まだまだ男性がチョコ売り場に居るのは、肩身が狭い。
「…そうかもな。」
男ふたりで一緒に買うのは、まだ浮いている様な気がした。
「わぁ、気にして欲しくなかっただけなのに。逆効果!」
チョコが大好きなあなたは、甘い物が苦手な自分にも食べられそうなチョコを探してくれている。
「自分の分を、選びなよ。」
迷うだの、甘くなさそうなのが良いとか、言いながらも楽しそうな横顔に、無理に自分の分を選んでくれなくてもと考えてしまう。
「うん、大丈夫!ちゃんと選ぶよ!…あっ、コレ可愛い!」
周りにいる女性たちも、それぞれに嬉々としてはしゃぎながら選んでいるが、それに負けないはしゃぎようが、なんとも可愛らしい。
「うん、可愛い。」
喜色を載せて振り返るあなたが、目を輝かせている。
「だよね!コレください!プレゼント用で。」
あれよあれよと会計が終わって、紙袋を手渡される。
「…え、違った?」
その手首を掴んで、売り場の端に避難した。
「これは、ありがたく戴きます。…ごめん。はしゃいでるのが可愛くて、誤解させた。」
謝罪の為に、頭を下げた。
「あは、びっくりした。ありがとう。でも、もうちょっと付き合ってくれる?全部買たいいくらい、迷ってるから。」
嬉しそうにはにかむあなたに手を引かれて、また甘い香りのチョコレート売り場へと戻っていく。
「ねぇ、ひとつで良かったの?」
甘い香りのキッチンで、手作りのチョコレート菓子をふたりで作って食べたのは、今や昔である。
「…俺、ふたりで作ったアレが食べたい。」
戦利品の数々を抱えて、嬉しそうにしているあなたに、つい懐かしくなって零してしまった。
「アレって、子どもの頃の?」
レシピあったかなぁ、と呟いて、迷いなく製菓用品の売り場へ足を向ける。
「チョコ、持つから。」
買い物カゴを手にするあなたに付いていく。
「一緒に作ろう!」
嬉しそうに笑うあなたが、粉やら板状のチョコレートやらをどんどんとカゴに入れていき、会計を済ませて袋詰めして、あっと言う間に帰路に着いた。
このイベント前後の結構な期間、家の中は毎日チョコレートの香りが漂っている。
(今年も、季節だなぁ。)
なんて、毎年思っているのは、あなたには内緒だ。
あなたが作る手作りのチョコレート菓子が、一番好きなのだと、バレンタイン当日に白状させられたのは、言うまでもない。
【待ってて】
「ちょっと、待って。」
大好きな幼馴染みのあなたが良く口にする待っては、時に恥ずかしかったり、心が追い付かない時の反応だったりもする。
「うん、待つね。」
じっと隣で待っていると、落ち着いたあなたが、ゆっくりと声を掛けてくる。
「―っ、待って。やっぱり、待ってて。」
たまには、時間が掛かることもある。
「うん、大丈夫。待ってるから。」
稀に、逃げられちゃう事もあるけれど、落ち着いたら、こっそり戻って来てくれるのも知っている。
「―――っ。」
最近は、のんびり待つことにして、あまり追い掛け回さない様にしている。
陽だまりと暖かな陽気に誘われて、眠気がおいでおいでと手招きしている。
「…ふわぁ、あふ。」
瞼が仲良ししてしまって、目が開かないなぁ、と思いながら微睡む。
ふわりとブランケットが体に掛かって、人の気配が近づく。
頬を掠める口付けが、そっと唇に落ちた。
「しゃぁわせ、だなぁ…。」
眠たくて堪らなくて、起きたいのに起きられない。
幸せな夢が見られそうだ。
※閲覧注意※
IF歴史?
二次創作?
軽率なクロスオーバー?
ごちゃ混ぜバンザイ!
創作モブが普通に居るよ。
《伝えたい》
声が出ない。
気が付いたら、誰にも声を掛けられなくなっていた。
誰も気が付かない。
呼び掛ける声は、空気を少し押す程度で、誰にも伝わらなかった。
「―――っ!」
(どうして?どうやって話してた?喉を痛めて声が出ないんじゃない。)
声が、ないのだ。
(なんで、こんな事に…。)
「何故、ここにお前がいる?」
茫然と座り込んでいると、後頭部から声が降ってきた。
ざりざりと地面を踏む音が近付く。
(なんて説明したら…。だめだ、伝わらないのに、どうしよう。)
地面に指が触れる。はっと思い出して、指で地面をなぞる。
(書いて、見てもらえば…。)
大きめに、ゆっくりと腕を動かす。
「こえが、でない…?」
後ろへ体ごと振り返り、首を縦に振って見せる。
「…巫山戯て居るのか?」
ひゅっと喉が鳴った。見ていたであろう男性の瞳が、至近距離で剣呑に細められている。
竦み上がる身体を叱咤して、首を横に振る。
「あまり、人様をからかうなよ。死ぬぞ。」
ひょいと男性の腕に抱き上げられて、そのまま連れ出されてしまった。
運んでいる間に意識を手放したらしい子どもが、突然に滔々としゃべりだした。
「此の子は、私を預かると約束してくれたから、大切にしておくれ。私を結び付けるのに、此の子の声を使わせてもらった。不便だろうから、あなた達には伝わるようにしよう。意地の悪い事をしたら、相応の報いがあると、そう心得よ。」
己を神だと宣う子どもは、胸を張って得意気である。
「…人が良すぎるのも、考えものだな。」
仕方がないと応える男性に、子どもは怪訝そうに首を傾げた。
「子を護れば、神も護れると言う事ならば、さしたる変わりはない。承知した。」
子どもは嬉しそうに笑って、頼んだ!と言い放ち、それきり脱力して気を失った。
「…唐突だな。」
脱力する体を引き寄せて、再度担ぎ上げる。
ふわりと風が通り抜けて行った。
※閲覧注意※
IF歴史?
うっすら二次創作?
クロスオーバー?
ごちゃ混ぜ、創作モブが普通にいる。
《この場所で》
昔々、或る所に―――。
おとぎ話の冒頭部分に良くあるくだり。
優しいお爺さんとお婆さんは出て来ないけれど、何故か新婚さんっぽい若夫婦に拾ってもらって、お手伝いさんみたいな人たちにも良くしてもらって、やっと生きている。
生活習慣は全く異なっていて、馴染むのもひと苦労だ。
七五三以来の着物も、見たことがないシロモノで、何が何だか判らない食べ物も、作法なんて何ひとつ解らない。
自分で身の回りの事をしようとしても、少しも上手く出来なくて、結局すべての面倒を看てもらっている。
緊急事態の時は、どうしたら良いのだろう。
困る事しか思い浮かばない。
ここを去る日が来たら、きっと何も出来なくて困ってしまうだろうなぁと、取り留めなく考えていた。
「考え事かい?難しい面してさ。」
着付けとお風呂の介助をしてくれる女性が、ふと着付ける手を止めて訊ねてくる。
首を横に振って、にっこりと笑ってみせる。
女性は安心したように笑って、着付けを再開した。
(きっと、この場所で生きて行くのだろうな。)
帰る方法も判らないのだ。元いた場所には戻れないと考えるのが妥当だろう。
(出来るだけ早く、馴染まないと。)
頑張ろう、と思えた。