凍える指先
豪雪の夜。
シャクシャクと水混じりの雪を踏む音がする。
何も感じない。
凍える指先が触れる。
貴方の頬からは何も伝わらない。
「ああ…寒いよ、冷たいよ。」
キラと光ったあれはなんだろう。
雪の光だろうか。
刀の光だろうか。
暖かい。
その暖かさで僕は貴方と一緒に眠ってしまった。
落ち葉の道
私の好きな木、ケヤキ
森にある公園の奥で見つけた大きなその木に、
私は心を奪われた。
悩みも不安も何でも包んでくれる、
重厚なこの木に私は体を任せて静かに目を瞑る。
秋になっていつものように彼に会いに行く。
公園から森に行く途中に、
赤や朱色に染まった落ち葉の道が出来ていた。
彼の一部を広い集めながら、その道を進む。
私の好きな木、私が恋した木
樹木性愛と言うらしい
この自然に包まれている感覚、
幸せに満たされる感覚のことだろうか。
落ち葉の道を進んだ先には、葉が落ちた彼が居る。
私は毎年、秋になればその落ち葉の道を進むだろう。
私の寿命が尽きるまではずっと。
君が隠した鍵
良いんだよ隠して。
そう、僕が分からない所に
君が隠してくれれば良いんだ
そんな悲しい顔しないでよ。
また会えるって、ね。
それとも君は僕に会いたくない?
あぁ、答えなくていいんだよ
そんなこと聞いたら僕ここに居たくなくなっちゃう
じゃあ、そろそろ行った方がいいよ。
君が隠した鍵、
僕が絶対に見つけられないように
隠してもらった鍵、
ここから逃げ出さないようにかけられた鍵。
あぁ、僕っておかしいんだって。
異常者なんだって。
だからここに居なくちゃいけないんだって。
君は自由でいいなぁいいなぁいいなぁ。
大好きな君を傷つけたくない。
羨ましいけど、本当の僕はそんな事したくないの。
だから大好きな君に僕の鍵を渡した。
でもね、君が隠した鍵見つけやすかったよ。
恨みがましいことしてごめんね。
鍵を隠してくれてありがとうね。
でも、鍵だけあっても鍵穴がなければ役に立たないよね。
ささやかな約束
ささやかな約束だと思った。
好きだったあの子に告白をした。
彼女は物腰柔らかく、
いつも場の雰囲気を和やかにさせる人だった。
僕はそんな貴方を尊敬していると、
傍に居たいと、伝えた。
彼女は一瞬、戸惑った顔をしてから笑い、
嬉しい、と言ってから僕をフった。
それから数週間後、彼女は突然話しかけてきた。
「今日の夜、君の家の窓から外を見ててよ。」
何故?なんて問う前に口は返事をしていた。
顔が熱いことに焦っていた僕なんか、
微塵も気にしていない彼女は優しく諦めたように微笑み
「約束ね。」
と言った。
恋は盲目。
今、僕は彼女とのささやかな約束を思い出し、
本当にそうだなと身にしみて感じた。
僕の家は10階建てのマンションだ。
僕の部屋の窓から見えるのはビル。
約束の夜、彼女はそのビルから飛び降りた。
僕は約束を守って、窓から外を見ていた。
ああ、絶対に無事では無いなと、
知識がなくてもわかる、嫌でもわかる衝撃音が響いた。
血の気が引いて、冷たい汗がつーと背中を伝う。
止まらない震え、耳に木霊する音、冷えきった空、
彼女の笑顔。
あのささやかな約束の事。
心の境界線
芸術というものは、
自分と向き合うという辛い行為をする。
自分の感情や考え方、生き方。
芸術はそれを形にする。
形になったものは誰か、他人が触れられる。
だから芸術は生死がかかっている。
自分の柔らかく、形の無いものをかたちに起こすから、
それを人に触れられてしまうから。
それを自分が、自分の心の境界線を超えて、
形に出来そうなものを、心の奥深くまで探ってしまうから。