Iben

Open App

ささやかな約束

ささやかな約束だと思った。

好きだったあの子に告白をした。
彼女は物腰柔らかく、
いつも場の雰囲気を和やかにさせる人だった。
僕はそんな貴方を尊敬していると、
傍に居たいと、伝えた。
彼女は一瞬、戸惑った顔をしてから笑い、
嬉しい、と言ってから僕をフった。

それから数週間後、彼女は突然話しかけてきた。
「今日の夜、君の家の窓から外を見ててよ。」
何故?なんて問う前に口は返事をしていた。
顔が熱いことに焦っていた僕なんか、
微塵も気にしていない彼女は優しく諦めたように微笑み
「約束ね。」
と言った。

恋は盲目。
今、僕は彼女とのささやかな約束を思い出し、
本当にそうだなと身にしみて感じた。

僕の家は10階建てのマンションだ。
僕の部屋の窓から見えるのはビル。

約束の夜、彼女はそのビルから飛び降りた。

僕は約束を守って、窓から外を見ていた。
ああ、絶対に無事では無いなと、
知識がなくてもわかる、嫌でもわかる衝撃音が響いた。
血の気が引いて、冷たい汗がつーと背中を伝う。
止まらない震え、耳に木霊する音、冷えきった空、
彼女の笑顔。
あのささやかな約束の事。

11/14/2025, 10:37:05 AM