5/4/2025, 1:38:20 PM
すれ違う瞳
いつも同じ電車に乗っている彼女。
僕はあの人が放つ異様な雰囲気に惹かれている。
登校時間、綺麗な彼女の横顔を見るのが毎朝の楽しみだ。
彼女の存在が、学校に行きたくない僕の家を出るきっかけでさえある。
黒く濃い色の髪からチラと見える長いまつ毛と黒い瞳、その瞳は凛としていてどこかを見ている。
その瞳がゆっくりと動く。
すぅ
僕は息を飲んだ。
彼女の瞳とすれ違う。
いつもどこを見ているかわからない彼女の瞳に、僕が一瞬でも写ったことに高揚感を覚えた。
手に入れたいと思った。
暗い暗い夜空のようで、反射した光が星のように輝いて見えた彼女の目を。
たった一瞬、真っ直ぐその瞳と向き合えた一瞬。
すれ違った瞳が、僕の心を優しく締め付けた。
5/3/2025, 2:40:34 PM
青い青い
「青いね、」
「うん。」
「青いね、」
「…うん。」
「どうしてかな。」
僕は妹に返す言葉を考えたくなかった。
青く青く。
冷たく冷たく。
血色の無くなった母の頬を撫でる。
「青いね、」
「うん。」
「にぃは赤いね。」
「うん。」
妹を真夜中の寒空の下で抱き抱えて、ハエがたかる母の青い青い姿を眺める。
悲しいという感情はなかった。
どうしてか”それ”は、五月の晴れ渡った空の色に似ていて、怒りや悲しみより、美しいという感情がまさっていた。
僕らはまだ赤い。
赤くなった妹の手を握りおやすみと一言言った。
5/2/2025, 9:10:47 AM
風と
風に匂いが運ばれてくる。
なんて詩的に表現してみたけれど、綺麗に写りはしない。
焦げた髪の匂いと、湿った風が僕の顔を撫でていく。
思いっきり息を吸う。
もう、あの日の草木の匂いや、近所の家の夕飯の匂い、お風呂の湯気の匂い、ピリついた僕の家の匂いはしないんだ。
この風が全てをさらって、僕を1人にしたんだ。