うみうし

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9/3/2022, 1:35:08 PM

例え些細なことでも、
それに気がついてしまうあなたが好きだった。
私が心配をかけまいと隠した心にも、見て見ぬふりをしないで笑いかけてくれるあなたの存在が大きかった。

心に触れた手のひらの温度がやけにあたたかくて、だけどその温度に慣れていく自分に嫌気がさしていた。

いつまで持つのだろうか、この距離感は。
いつか誰も私の心に触れない日が来る頃には、あなたのことを想って首の縄を締めているかもしれない。

例えもしそうなったとしても、今更そんな些細なことを気にしてはいけない。一度見限ったのなら、もう二度と大切だなんて思ってはいけないだろうから。



些細なことでも.

9/2/2022, 12:14:30 PM

両手をかざすと、
ぱちっという音とともに火の粉が手に触れた。

反射で腕を引っ込めそうになったものの、自分の手には火傷の跡ひとつない。
火の粉はじりっとして冷たかった。見た目からは想像もつかないような冷感で、指先がじわりと痛む。

こうこうと静かに燃える青い炎は、近づくものを寄せ付けまいとしていた。誰に似てしまったのだろうか、この炎は。あたたかさで心を溶かすどころか、まるで凍結する心を加速させているようだった。



心の灯火.

8/28/2022, 10:39:09 AM

天気予報が嘘をついた。

土砂降りの雨に、どうどうと唸る凄まじい風。
雨の兆しはないと画面の中で皆口をそろえていたのに、当日になってみればこれだ。
到底外に出られるはずもなく、
家の窓ガラス越しに荒れすさぶ景色を眺めている。

本当は、知り合いがうちに泊まりに来る予定だったのに。
本来とは異なった来客に、私たちはまた頭を悩ませているのだった。



突然の君の訪問。.

8/27/2022, 10:25:11 AM

「どうしてそんなところで突っ立ってるんです」


雨がコンクリートとぶつかりザアザアと音を立てる中、歩道橋の上で傘もささずに佇む少女の姿があった。

ずぶ濡れになりながら俯く彼女にそっと無地の傘をかかげ、優しく声をかける。私の声などはなから聞こえてはいないのか、それとも雨音でかき消されてしまっているのか。
彼女はそこに突っ立ったまま体をピクリとも動かさない。

「風邪をひいてしまいますよ。
どこか屋根のあるところへ行きませんか」

「……雨が止むのを、待ってる」


はらり、と落ちた長い髪の隙間から、黒く憂いに染まった瞳が見えた。

私は思わず後ずさった。あまりにも空虚で何も映さないその瞳が、以前失踪した私の知り合いにひどく似ていたから。



雨に佇む.

8/26/2022, 1:10:45 PM

それは悲鳴に近い叫びだった。

頁に書き殴られたのは血のにじむような想いと、理不尽を呪った感情の羅列。

楽しかったことや思い出を書き留めていたはずなのに、いつからか後ろ向きな気持ちばかり綴るようになっていた。紙をめくっても同じような内容ばかりでつまらない。まるで書き殴った人生そのものだ。


(そんなことを思っても、
また同じような気持ちを筆に乗せるんだろうに)



私の日記帳.

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