「どうしてそんなところで突っ立ってるんです」
雨がコンクリートとぶつかりザアザアと音を立てる中、歩道橋の上で傘もささずに佇む少女の姿があった。
ずぶ濡れになりながら俯く彼女にそっと無地の傘をかかげ、優しく声をかける。私の声などはなから聞こえてはいないのか、それとも雨音でかき消されてしまっているのか。
彼女はそこに突っ立ったまま体をピクリとも動かさない。
「風邪をひいてしまいますよ。
どこか屋根のあるところへ行きませんか」
「……雨が止むのを、待ってる」
はらり、と落ちた長い髪の隙間から、黒く憂いに染まった瞳が見えた。
私は思わず後ずさった。あまりにも空虚で何も映さないその瞳が、以前失踪した私の知り合いにひどく似ていたから。
雨に佇む.
8/27/2022, 10:25:11 AM