アサギリ

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6/11/2023, 11:05:58 AM

【街】


この街には色んな人が住んでいる。

昔灰被り娘と呼ばれた老婆。

海の奥底に住み、王子様と恋をした子孫。

昔、ある王族の王妃様に献上したとされる林檎農家の息子。

色んな人がこの土地を訪れ、集い、やがて町となった。

今でも色んな風習が入り交じるこの街。

それもこれも先人達の生活の知恵だったり、昔、昔の教訓故だったり。


今日も今日とて、朝が来た。
物語の最初の街で。
物語の終焉を迎える人達が集う街で。

6/10/2023, 12:44:12 PM

【やりたいこと】


やりたいこと。やるべき事。成さねばならぬ事。

隠し事。嘘に虚言。戯言や、遊戯(あそび)言葉。

世界は色んなもので、溢れ返っていて。
少し窮屈で、息が詰まる。

この日もそうだった。
お客さんと言葉遊戯をして、戯れて。
心根を隠し、嘘で取り繕う。

多分。傍から見たら詰まらない奴なんだろう。
何者にも慣れず、何も残せず。

稽古や、仕事も一生懸命に頑張ってる子にはかなわない。
私みたいに、その場をのらりくらりと水の様に。霞のように【ある】。それだけの私には。


夢を持ちたいとは思ったことがなかった。
希望を持つ。なんて事、この世界では到底無理な話だからだ。
足抜けはご法度で。
お金の為に売られたのに、自由になるにもお金がかかる。
……なんと、残酷で、理不尽で、身勝手で、欲望にまみれた世界なのだろう。

…それに、慣れきってしまった、自分自身の成れの果てが今の私だ。…私はそんな人間だ。




今日も今日とて夜がくる。
真っ赤な灯りとほんのりと黄色の灯りが私達を照らす。

カツン。カツン。

カラコロ。カラコロ。

シャン。シャン。リン。リン。

今日は何処の何方の、行列が見られるのだろう。
どんな飾りで、どんな紅を引き、どんなに美しいんだろうか。

男達は、誘い込まれるようにこの世界を、訪れる。
それが一夜の夢物語であろうとも。
夢見る彼女らは、待ち続ける。
寄り添えたい殿方と出逢い、この世界を抜け出す事を………。

6/9/2023, 11:17:40 AM

【朝日のぬくもり】


ピッピッピッピッ

ピッピッピッピッ

薄暗い部屋の中。

電子的な音が部屋を支配する。

怠い体を何とか起こして。

カーテンを思いっきり開け放つその瞬間。

朝日が、温もりが、眩しさが私を目一杯包み込む

誰もいない部屋の中。

小さな声が、小さく響いた。


「おはよう。」

6/8/2023, 12:59:26 PM

【岐路】


生まれた瞬間からふたりぼっち。
片方が微笑むとこっちも嬉しくなって。
片方が大泣きするとつられて涙腺が緩んだ。


いつも、一緒。 どこまでも、一緒。

何をするにも、誰と会うにも、どこかへ行くにも。

いつも。いつまでもふたりぼっちの世界。


◾︎


夢を見た。幼い時の夢だ。ふわふわで、のんびりで陽だまりの中に、軽やかに流れる優しい夢。

僕と姉は、男爵の位を持つ家に産まれた。
レンガ調がとても素敵な街で、近くの森には、キラキラ光る湖が目一杯に広がる。

カートレット領

それが僕達の住んでる所であり、家名だ。

僕達ふたりの道が別れたのは6歳の頃。

家を守るために剣の道を進む僕と
家を繁栄させるため社交の世界の勉強をする姉。

力を地位を財力を示さなければならない僕。
家を家長を領地の民を護らなければならない姉。

交わるはずのないふたつの道。
志は同じなのに、離れて歩く道。

僕はその毎日が辛くって、屋敷の庭の大きな気の木陰に隠れて泣いてたっけ。
手のひらは剣だこが出来て、いつも痛くて。
父上の方針で毎日、帝王学の授業を家庭教師の先生方から教えを得た。

辛かった。悲しかった。
姉はいつもお茶会や、ダンスのレッスン。
キラキラ、ふぁふぁしてる世界が眩しく見えた。

なんで、僕だけ?
僕の事。嫌いなの???
なんで、一緒な姉は楽しそうなのに、僕はこんなに辛いの???


騎士団長様は言う。
「ビル様は将来、この領地を治める素晴らしい方になるのです!!」

執事のセバスは言う。
「お父上様も昔は、坊っちゃまと同じ様に悩んでおりました。」

父上は言う。
「お前は、いずれ私の後を継ぐ大切な存在だ。だからもっと頑張らねばならぬ。」

母上は言う。
「毎日、毎日。よく頑張っておりますね。これからもこの国のため、民のため。励むのですよ。」


誰も、僕を見てくれない。

……誰も!!!!!僕を!!!!!!



感情が爆発する。黒いなにかに覆われる感覚。
真っ黒い。ドス黒い。絡みつくような、黒いなにか。
嫌な気持ちでいっぱいになる。
苦しい気持ちでいっぱいになる。
息が出来なくて、涙が止まらなくて、寂しくて。
心做しか冷たくなっていく身体と心。
僕だけがひとりぼっち。
誰も見てくれない。哀しくて、寂しいひとりぼっち。

………助けて。一人にして。

……比べないで。 もっと上手くやらないと

…僕を見てよ。 こんな僕を見ないで


怖い。恐い。こわい。怖い。こわい。恐い。怖い。恐い。怖い。恐い。恐い。怖い。こわい。こわい。恐い。怖い。恐い。怖い。こわい。恐い。


そんな時だった。
…ふと、感じる暖かさ。
ほんのりと包まれる寮の手のひら。
あったかい、声が降り注ぐ。

「だいじょうぶ。だいじょうぶよ。ビル。」

声のした方へ、そっと顔を上げる。
眩しい光が目の前に広がり目が眩む。
伸縮する瞼にボヤける視界。
目の前には、真っ赤と黄色。それから見慣れた白色があった。

「お、ねぇちゃ…………ねぇ、さま…???」

声が震えたのを感じた。
なんで??
吃驚したから??
でも、それよりも…なんで…。

「…姉様。お歌のレッスンは?なんで、ここに…」

真っ赤なフリルのドレスにつま先までピンッと伸びた背筋。
僕とお揃いの、光に輝く、真っ白な雪のような髪の毛に、目尻の下がった穏やかな瞳。

僕の大好きで、とても憎い片割れの姿がそこにあった。

「わかるよ。ビルがどこにいるのかなんて。」

姉はそう言いながら、僕の隣。芝生の上にそっと座る。いつもはハンカチの上に座るようにしてたのに、今日はドレスのまま。

僕は口をパクパクさせてしまった。

「えっ?!だ、ダメだよ!母上に怒られてしまうよ!!」

僕の慌てぶりに、姉はいつも以上に目尻を下げ大きな口を開けて笑った。
僕は意味がわからなくて、ぷぅっと頬が膨らむ。

「なぁ?!なんで、笑うのさ!!!!ローゼのバカ!!!」

上も下もない僕達だけど、母上や父上がそう言うように言い含められてきた言葉が、ポロッと抜け落ちた。

「だって。ビルがやっと泣き止んだから。」

えっ???

「ビルずっーーと、泣いてたでしょ?おめめとけちゃうよ。」

おめめってとけちゃうの????

姉の言葉にクエスチョンマークがぐるぐる回る。
それから姉は色んな話をしてくれた。
お茶会のマナー。
ダンスのレッスン。
話し方や所作の有無。
社交界での暗黙の了解。

僕以上に色んな人と関わる不安と緊張。
両親や家臣達からの期待の重さ。

楽しそうに話す姉にも同じくらいの悩みがあることを知った。
僕は思ったんだ。………なんだ、姉様……ローゼも一緒だったんだ。
同じ重いを味わって、同じ想いに振り回されて。

思い。想い。重い。おもい。


気付けば、ふたつに別れてた道。
ふたりぼっちの小さな箱庭に、気付けば、色んな【思い】が増えていったんだね。
これからも沢山悩むと思う。
いっぱい苦しんで、いっぱい泣いて、でもふたりなら大丈夫。例え、それぞれの宝物が出来たとしてもふたりなら。

6/7/2023, 12:05:47 PM

【世界の終わりに君と】


ある日世界は告げた。
「生き残りたいでしょ?」
……耳元にはヘッドフォンの向こうからーーー。


その日は随分と平凡で。
ジンジンとアスファルトから熱が伝わり、ミンミンと蝉の鳴き声が世界を包んでるみたいだった。

暇つぶしに聞いてたTVからあの話が流れ出すまでは


「本日、非常に残念な事ながら、この地球は終わります」


泣きながらどこかの大統領は告げた。


地球に住む人類は大混乱。
窓の外は大きな鳥達が空を覆い尽くしてく。
蠢き出す世界会場と波打つように揺れる摩天楼

交差点は当然の如く大渋滞となり、老若男女なんぞ関係ない。
暴れ出す人、泣き出す少年少女
祈りだした神父を横目に追い抜き


私は全てを語る丘に向かう

どこからか声が聞こえる

「あの丘を超えたら、その意味が嫌でもわかる」


謎の声。意味不明な言葉。

でも何故か、動いてしまう両の足。

走る。走る。走る。走る。走る。走る。走る。


残り12分


残り9分


………あと、ーーーー1分!!!!!

息も絶え絶えに辿り着いたその場所からは
その場所から見えたのは白衣姿の数人のヒトカゲ

疑ってしまった。


信じたくなかった。


嘘だと思いたかった。


……だって、ここはまるで………大きな実験施設のような、街だったの、、だから。
私は知ったのだ。
今まで暮らしてた街は、小さな箱庭で。
私達は作られた生き物だった事を。


真実を知ったその時。首から下げてたヘッドフォンから声が聞こえた。


「実験は成功だ」

「この世界は素晴らしい」

「もう不要だ」

「もう必要ない」

「実験は終わりだ。もう……不必要だ。」

彼らの言葉に目眩がする。
巫山戯るな…………巫山戯るな!!!!!

お前らにとっては小さなお遊びだったかもしれないが、こっちは毎日!!毎日!!!!!大なり小なり一生懸命生きてきたんだ!!!!
それを道端に落ちてる小石の如く、軽々と捨て置くのか!!!!
お前らにとってはどうでもいい命なんだろうよ!!!
でも!!!ここに生きてる人にどうでもいい人達なんて居ない!!!命を弄ぶな!!!返せ!!!
返せ!!!!!私達の街を!!!返せ!!!!!


彼らは1つの爆弾を片手間の如く投げ打った。


世界は、この小さな箱庭は燃え尽きていく。

轟々と。熱風が肌を焦がしていく。
人々の悲鳴。
泣き喚く声。

助けて。………助けてと誰かが叫ぶ。

爛れる皮膚と喉を焼く硝煙で、声が出ない。

……あぁ、私、はもう………。

ヘッドフォン越しに微かに聞こえる女の子の声。

その声はもう、彼女には…………届かない。

「𓏸𓏸…………ごめんね。」


ヘッドフォンアクター/じん

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