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3/28/2025, 12:10:27 PM

「おめでとうございます!あなたは、建国してから1兆人目の入国者です!」

大学の夏休みのある日、旅行好きな友人に誘われ、私は中東のとある国に来ていた。

入国ゲートを通り抜けた瞬間、万雷の拍手と共に祝われた。

飛行機による長旅の影響で、最初は何のことか理解することができなかった。

「えー!!!Bちゃん、凄いじゃん!1兆人だって?!」

友人は祝われたことで、ぼんやりしていた私は我にかえった。

「、、、ええええええ!!!Dちゃん、え、わたし!?1兆人目?!?!」

1兆人なんて、地球上に住んでいる人数を数えても足りないだろうとみなさんは考えるかもしれない。

しかし、この国の風習として、外からの来訪者を建国以来から数えているため、1兆人はありえない数字ではなかった。

建国から3000年にも関わらず、国は盛者必衰の理に反して、食物に困ることなく、経済的に栄えてる国であった。

そんな国で、運良く、私は1兆人目の来訪者として祝砲を浴びたのであった。

まぁ、運がいいと言えば、昔からよかったのかも知れない。

その日から、旅行の間、私は豪華絢爛な服で持て囃され、盛大な食事を食べ、金殿玉楼の豪華な部屋で過ごした。
ついでに友人でもある。

正直に話すと、大学生活からは考えられなかった優雅な生活であった。

「Dちゃん、そろそろ帰国しなきゃ、、、」

数日後、そろそろ私は夏休み明けの大学に向けてかえる必要があることを思い出していた。

「えー、別に帰らなくてもいいんじゃない?」

「いや、、、帰らないと大学の課題とかさ、、、」

「でも、この国にいたらずーっと、このままの生活を送れるって、国の偉い人が話してたから別にいいでしょ。」

「で、でも、私、実家にも顔だす予定あるし、、、」

「っ、実家の人もこっちに呼べば、住む話でしょ!」

その後も、帰ろうとDちゃんを説得しようとしたが、彼女は頑なに帰ることを拒否した。

確かに今の生活は昔の生活とは考えられないほど、幸せの絶頂と言えるような生活だろう。

でも、偶然からの産物の結果は、望んだ幸せとは言わない。

本当の幸せとは自らの手でつかみ取った先にあるものなのだ。

嫌がるDちゃんをその後も何度か説得して、なんとか帰るという方針に決まった。

「アナタタチニ、カエルコトハユルサレテイマセン」

帰ろうとキャスター付きのトランクを引っ提げて、ホテルを出ようとしたら、ホテルマンに片言の日本語でそう言われて、引き留められた。

「あなたに止める権利なんてないと思いますけど、、、」

私とDちゃんは怪訝な表情をした。

その後、いろいろあって、国の首相にまで止められることになった。

「あなたたちが帰ることをこの国は望んでいません。生活や必要なものに不自由させないようにするつもりなので、どうか帰らないでください。」

首相は、どうか頼むと言った感じでこちらに頭を下げられた。

「どうして、そんなに引き留めようとするんですか?私たちも家族に会う予定とか、大学の課題とかあるんです。」

半分怒り混じりに私は話した。

「、、、仕方がない。おい、、、地下牢に入れておけ!!」

首相はさっきまでの態度を変え、私たちは地下牢に入れられることになった。

「あー、やったわ。呪術師に頭弄くられてた」

地下牢に葬りこまれたBちゃんは冷静になると、状況を理解して、呟いた。

「は、呪術師?そんなものが現実に存在するの?」

「まんまとやられちゃったよ。歴史が古い国だと、いないこともないと思うよ。油断して、呪具の供物でも、食べちゃったのかも、、、」

「えぇ、、、私と同じ食事してたのに、じゃあ、なんで、私は無事なの?」

「運がいいからじゃない?」

あっけからんとDちゃんは私に話した。

確かに運はいいけれどもさ、、、

「で、どうしよう?何とかして脱出しないと、映画とかだと、ヘアピンをこうして、、、」

偶々、持ち合わせていた針金で鍵穴を適当に回す。

ガチャ、、、

「あ、あいたぁ!?そんな、適当で開くの?!私でもそのタイプだと、1分はかかるよ、、、相変わらず、ありえない運だよ、、、」

Dちゃんはありえないといった表情をしつつ、牢から出て周囲の通路を警戒する。

幸いにも、誰もいないようだった。

私たちは最低限の荷物を確保して、この国から脱出することを決めた。

必用な荷物とかは運良く、民家から拝借することができた。

行きは空路だったが、帰りは陸路を通って帰国することになった。

後日談として、Dちゃん曰く、キリ番の入国者は運がいいものとして、国に囚われるらしい。

国は運がいい人間を内包することで、国の繁栄と歴史を積み上げてきたのだ。

今回、1兆人目の来訪者ということで、絶対に返したくなかったのだろう。警備は厳重だったが、運良く帰ってこれた。

それもこれも、特異的な技術を持っていたDちゃんが運良く居てくれたお陰だったとしみじみ思う。

確かに国で過ごした幸せを享受する日々は間違いなく最高だった。

しかし、大学の課題を終わらせた後に食べるプリンの細やかな幸せには負けるかもしれない。

【小さな幸せ】


















3/28/2025, 8:09:38 AM

煙草に火をつける。今日はこれで5本目だ。

今度こそ、これで最後の1本だと決めて、吸い込む。

再び、脳にニコチンを補充した俺は片手でハンドルを握り、右に回した。

小刻みのいい音楽と共に液晶に写し出された数字は回り、回り、回る、、、

数時間後、夕焼け色染まった空を下に俺は再び煙草を口に運んでいた。

「、、、くそっ、あそこで辞めておけば5万の勝ちだったのに」

5万の勝ちだったはずが、6万も負けた。

スマホを弄りながら、苛立ち独り言を吐くが、消えてしまった金はどうにもならない。

沈みゆく日に向かって、道を歩き、歩き、歩く。

気がついたら、桜並木の道に足を踏みかけていた。

スマホを見ながら歩いていた俺が気づいたのは、足元に桜の花びらが落ちていたからだ。

もう、そんな季節か、、、

夜勤のバイト場、パチンコ屋と家を往復するだけの生活だった俺にそんなことを考える余裕なんてなかった。

見上げると同時に、風が吹き、花が舞い、視界が桜吹雪に覆われた。

思わず見とれてしまい、足を止める。

風が心地よく駆け抜け、ボサボサの髪を揺らした。

ふと、春爛漫という言葉が思い浮かぶ。

どこで覚えたのかは、忘れたけど、今の状況にばっちしだな。

桜吹雪に身を当てて、荒んだ心は、少しだけ和らいだ気がする。

【春爛漫】
















3/24/2025, 12:48:08 PM

「もう二度とこんなチャンスはやってこないんだぞ」

同窓会の前ということで喫茶店に呼ばれた私は、久しぶりにあった高校の友人Fにそう言われた。

事のあらましを説明すると、そいつの友達の友達の友達が、中東で堀当てた油田を軍資金に起業するということで、現地の法律に詳しいやつが必要らしい。

そこで白羽の矢が建ったのは、ちょうど外務省を辞めることになった僕だったわけだ。

三年契約で1億だすとまで言われた。

コーヒーを飲みながら、私はFの人柄について、思いだす。

県では名の知れた学校の中でもFは高校時代から成績が良く、交友関係は多岐に渡っていた。

卒業した後でも、その交友関係は続いている人も一部いると、別の友達からきいた。

おそらく、私が外務省に勤めており、辞めたことも誰かから聞いたのだろう。

Fの昔の人柄を考えると、嘘を話しているようには考えられないかもしれないが、、、

いや、まてまて、どう考えても胡散臭い話だ。

偶々、油田が掘れて、偶々、外務省を辞めたばかりのところに友人が来るなんて、いくらなんでも早すぎる、、、

結局、話し半分で聞き流し、断ってやった。

今回の件で彼に対する心象はあまりよくないものになった。

もう二度と会うものか

【もう二度と】