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「おめでとうございます!あなたは、建国してから1兆人目の入国者です!」

大学の夏休みのある日、旅行好きな友人に誘われ、私は中東のとある国に来ていた。

入国ゲートを通り抜けた瞬間、万雷の拍手と共に祝われた。

飛行機による長旅の影響で、最初は何のことか理解することができなかった。

「えー!!!Bちゃん、凄いじゃん!1兆人だって?!」

友人は祝われたことで、ぼんやりしていた私は我にかえった。

「、、、ええええええ!!!Dちゃん、え、わたし!?1兆人目?!?!」

1兆人なんて、地球上に住んでいる人数を数えても足りないだろうとみなさんは考えるかもしれない。

しかし、この国の風習として、外からの来訪者を建国以来から数えているため、1兆人はありえない数字ではなかった。

建国から3000年にも関わらず、国は盛者必衰の理に反して、食物に困ることなく、経済的に栄えてる国であった。

そんな国で、運良く、私は1兆人目の来訪者として祝砲を浴びたのであった。

まぁ、運がいいと言えば、昔からよかったのかも知れない。

その日から、旅行の間、私は豪華絢爛な服で持て囃され、盛大な食事を食べ、金殿玉楼の豪華な部屋で過ごした。
ついでに友人でもある。

正直に話すと、大学生活からは考えられなかった優雅な生活であった。

「Dちゃん、そろそろ帰国しなきゃ、、、」

数日後、そろそろ私は夏休み明けの大学に向けてかえる必要があることを思い出していた。

「えー、別に帰らなくてもいいんじゃない?」

「いや、、、帰らないと大学の課題とかさ、、、」

「でも、この国にいたらずーっと、このままの生活を送れるって、国の偉い人が話してたから別にいいでしょ。」

「で、でも、私、実家にも顔だす予定あるし、、、」

「っ、実家の人もこっちに呼べば、住む話でしょ!」

その後も、帰ろうとDちゃんを説得しようとしたが、彼女は頑なに帰ることを拒否した。

確かに今の生活は昔の生活とは考えられないほど、幸せの絶頂と言えるような生活だろう。

でも、偶然からの産物の結果は、望んだ幸せとは言わない。

本当の幸せとは自らの手でつかみ取った先にあるものなのだ。

嫌がるDちゃんをその後も何度か説得して、なんとか帰るという方針に決まった。

「アナタタチニ、カエルコトハユルサレテイマセン」

帰ろうとキャスター付きのトランクを引っ提げて、ホテルを出ようとしたら、ホテルマンに片言の日本語でそう言われて、引き留められた。

「あなたに止める権利なんてないと思いますけど、、、」

私とDちゃんは怪訝な表情をした。

その後、いろいろあって、国の首相にまで止められることになった。

「あなたたちが帰ることをこの国は望んでいません。生活や必要なものに不自由させないようにするつもりなので、どうか帰らないでください。」

首相は、どうか頼むと言った感じでこちらに頭を下げられた。

「どうして、そんなに引き留めようとするんですか?私たちも家族に会う予定とか、大学の課題とかあるんです。」

半分怒り混じりに私は話した。

「、、、仕方がない。おい、、、地下牢に入れておけ!!」

首相はさっきまでの態度を変え、私たちは地下牢に入れられることになった。

「あー、やったわ。呪術師に頭弄くられてた」

地下牢に葬りこまれたBちゃんは冷静になると、状況を理解して、呟いた。

「は、呪術師?そんなものが現実に存在するの?」

「まんまとやられちゃったよ。歴史が古い国だと、いないこともないと思うよ。油断して、呪具の供物でも、食べちゃったのかも、、、」

「えぇ、、、私と同じ食事してたのに、じゃあ、なんで、私は無事なの?」

「運がいいからじゃない?」

あっけからんとDちゃんは私に話した。

確かに運はいいけれどもさ、、、

「で、どうしよう?何とかして脱出しないと、映画とかだと、ヘアピンをこうして、、、」

偶々、持ち合わせていた針金で鍵穴を適当に回す。

ガチャ、、、

「あ、あいたぁ!?そんな、適当で開くの?!私でもそのタイプだと、1分はかかるよ、、、相変わらず、ありえない運だよ、、、」

Dちゃんはありえないといった表情をしつつ、牢から出て周囲の通路を警戒する。

幸いにも、誰もいないようだった。

私たちは最低限の荷物を確保して、この国から脱出することを決めた。

必用な荷物とかは運良く、民家から拝借することができた。

行きは空路だったが、帰りは陸路を通って帰国することになった。

後日談として、Dちゃん曰く、キリ番の入国者は運がいいものとして、国に囚われるらしい。

国は運がいい人間を内包することで、国の繁栄と歴史を積み上げてきたのだ。

今回、1兆人目の来訪者ということで、絶対に返したくなかったのだろう。警備は厳重だったが、運良く帰ってこれた。

それもこれも、特異的な技術を持っていたDちゃんが運良く居てくれたお陰だったとしみじみ思う。

確かに国で過ごした幸せを享受する日々は間違いなく最高だった。

しかし、大学の課題を終わらせた後に食べるプリンの細やかな幸せには負けるかもしれない。

【小さな幸せ】


















3/28/2025, 12:10:27 PM