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煙草に火をつける。今日はこれで5本目だ。

今度こそ、これで最後の1本だと決めて、吸い込む。

再び、脳にニコチンを補充した俺は片手でハンドルを握り、右に回した。

小刻みのいい音楽と共に液晶に写し出された数字は回り、回り、回る、、、

数時間後、夕焼け色染まった空を下に俺は再び煙草を口に運んでいた。

「、、、くそっ、あそこで辞めておけば5万の勝ちだったのに」

5万の勝ちだったはずが、6万も負けた。

スマホを弄りながら、苛立ち独り言を吐くが、消えてしまった金はどうにもならない。

沈みゆく日に向かって、道を歩き、歩き、歩く。

気がついたら、桜並木の道に足を踏みかけていた。

スマホを見ながら歩いていた俺が気づいたのは、足元に桜の花びらが落ちていたからだ。

もう、そんな季節か、、、

夜勤のバイト場、パチンコ屋と家を往復するだけの生活だった俺にそんなことを考える余裕なんてなかった。

見上げると同時に、風が吹き、花が舞い、視界が桜吹雪に覆われた。

思わず見とれてしまい、足を止める。

風が心地よく駆け抜け、ボサボサの髪を揺らした。

ふと、春爛漫という言葉が思い浮かぶ。

どこで覚えたのかは、忘れたけど、今の状況にばっちしだな。

桜吹雪に身を当てて、荒んだ心は、少しだけ和らいだ気がする。

【春爛漫】
















3/28/2025, 8:09:38 AM