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___一體全體, 私は何處に居るのだろうか.
意識さえ朦朧としている.
唯一入る情報は
錐體細胞と杆體細胞で感じる光のみだ.
感覺の無い腕を,どうにか伸ばす.
その行爲が成されたは判斷の仕樣がない.
然し,何故か私は確信したのだ.
掴んだ未來への鍵を.
ふわりと,全身が何かに包まれる感覺.
不思議と惡い氣はせず,
其れ所か安堵感さえ覺える.
「はぁっ___!」
息を吸い込む.
上半身が勢い良く起き上がったのが分かった.
先程の空閒より,
何千倍も激しく眩い光が視界を覆った.
失明してしまいそうな其れに,
本能が何度か瞼を上下させた.
暫くすれば,その光に目が慣れ出す.
そこは病室の一角であった.
窗は開いていて,
外に見えよう景色は,一面見事な銀世界だ.
現實離れした其れに,
思わず,數分目を奪われてしまった.
元の世界に戾された切っ掛けと言えば,
私が大きな嚔をした故だ.
病人が起きて其の寒風に當たっていれば,
體を冷やすのは當然だ.
何度か身震いし,
慌てて窗へ腕を伸ばす.
すると,目に入ったのは,
外に積もる雪より,餘っ程白い入院著に,
何とも病人らしい色の惡い肌であった.
何本か刺された硝子の點滴を見れば,
どんな鈍感な者でも,
重傷であると察せられるだろう.
窗を閉める事を忘れ,
自身の身體へ視線を落とす.
純白のシーツに純白の入院著.
無機質な光を反射して何とも輝いて見える.
さらりとした肌觸りの其れは,
普通の生地より何倍も良いものだと云う樣だ.
私は再び嚔をする.
今度は確りと窗を閉めた.
ほんの少しづつ,熱の籠りつつ有る部屋で,
私は考える.
矢張り,私は幸運なものであると.
何度か其れを實感した人生であったが,
今囘程そう深く思った事は無いだろう.
眞逆あの樣な重體から蘇られるとは.
隨分と永い夢を見ていたようだ.
不思議な事に,
悠久の時をそこで過ごしていたようなのに,
まるで何一つ覺えていない.
折角黃泉の國を探索したのなら,
小說家として
其れを何處かに記したいものだが___
とまぁ,覺えていなないのであれば,
先ず無理と言うものだ.
菟も角,ナースコールでも押そうか.
私はどれ程の閒休んでいたのか聞かねばならない.
序に窗が空いていた件に付いて,
文句でもたれてやろう.
お題:未来への鍵
2025.1.11
この一時の平和に、
祈りを捧げたい。
永遠の平和を求め、
尽きぬ生涯を尽くしたい。
唯の普通は、
何よりも特別で、
永遠を望むことは、
何よりも罪深きこと。
それでも私は、
今日も悪魔として祈るのだ。
「どうか神よ、罪深き私の命ひとつで、
この世界に永遠の平穏を、平和を。」
黒い喪服を着た悪魔は、
羽の付け根を神に晒す。
誰よりも永遠を望む、
罪深き者。
不変を望む強欲な悪魔。
民から恨まれ、
全員の悪意を自身に向ける。
それでいい。
それでいいのだ。
誰も彼もが、
永遠に幸せな世界で。
お題_永遠に 2024.11.1
彼からは何時も、
優しい紅茶の香りがする。
そしてどこか、
その香りは、
私の気持ちを落ち着かせ、
安心させてくれるのだ。
午前11:59分
あと1分で午後となるお昼時。
私は彼のいるであろう書斎へ遊びに来ていた。
遊びに来ていた、と言えば幼稚に聞こえるが、
彼に会いに来たと言えば、
一途な恋人に聞こえるだろうか。
私の予想通り、彼は書斎のデスクに座り、
難しそうな書類と睨めっこをしていた。
「少しは休んだら?」
私がそう言うと、
「いいや、君との時間を取るためだから。」
休むわけにはいかないんだ。
と、小っ恥ずかしい言葉を、
簡単に言ってのけた。
私がそんな言葉に赤面していると、
ことりと受け皿から
ティーカップを持ち上げる音。
少し動きがあったからか、
そのティーカップから
部屋へ紅茶の香りが広がる。
すうっと鼻先を通り、
体に染み込むその香りは、
彼が淹れた紅茶でなければ、
香ることは出来ないだろう。
会話がなくとも、
落ち着いて、リラックスのできる空間。
特に気まづい訳でもなくて、
唯幸せを享受することの時間こそ、
私の至福の時間だろう。
しかし、暇というものは時に苦痛で、
私は本棚に並ぶ本を眺め、
気になった一冊を手に取った。
彼の方を見てみれば、
変わらず書類と
睨めっこをしている最中であった。
手に取った本は不思議なことに、
題名はあれど、
著者や出版社が書かれていない。
古びているその本は、
もしかしたら昔のものなのかもしれない。
であれば著者や出版社は、
長い年月の中で風化し、
消えていても不思議では無い。
私はその本の第1ページ目を開いた。
そのページには、
私が大好きな紅茶の匂いが染み付いている。
退屈から本を手に取った私だが、
文字を読むことが得意な方では無い。
あえて言うなら、苦手なほうだろう。
そんな私だから、
その本の1ページ読むのに、
普通の人が読み終えるであろう
倍の時間を要した。
最後の一言まで読み終えて、
感の悪い私はこの本の著者に漸く気づいた。
「あれ、その本読んでたの?」
ふと頭上から聞える声、
彼だ。
どうやら書類との睨めっこは終えたようで、
私の事を本の内容と共に覗き込んでいた。
「もしかして、紅茶飲みたいの?」
そう、このページには
紅茶のレシピが載っていた。
どうして気づかなかったのか、
この本の文字は、彼の筆跡とそっくりだ。
ペラペラと捲れば、
次のページには紅茶の写真とケーキの写真。
次のページには恐らく
前ページのケーキのレシピ。
なるほど、
これは彼が書いたレシピ本だったのか。
にしてもなぜこんなところに置いているのだ
疑問を浮かべながらも、
彼からの嬉しい質問に、
「お願いしてもいい?」
と上目遣いをしてみる。
「もちろん、折角なら一緒に作るかい?」
更に嬉しい提案が帰ってきたことに、
心の中で大喜びしながらも、
言葉で返事する代わりに、
彼へ抱きつき、行動で返事をしてみる事にした。
すると彼はそれに答えるように、
私の頭を撫でてくれた。
すると、タイミングがいいのか悪いのか、
私の腹からぐぅと飯時だと知らせる音が鳴った。
「あっはは! そうだね、もうお昼だし、
先にご飯にしようか 」
彼が優しく笑っている。
私は笑われたことが恥ずかしくて、
彼の胸をポコポコと叩く。
まるで効いていないと言うように、
彼は私を抱き上げ、
そのままリビンへと連れ去った。
お題:紅茶の香り 2024.10.28
d!の薔薇話です。
苦手な方はほんとごめんなさい
公開されるって知らなかった💦
日が昇る少し前 ,
まだ空は暗い時間 .
ふと意識が起きた .
目を開けて見れば ,
隣には愛してやまない彼がいた .
ただその日常の些細な幸せが ,
何よりも嬉しくて ,
可愛らしい寝顔を晒す彼に抱きついた .
彼の体温が伝わる .
少し低めで ,
でもどこか温かい .
彼らしい , 彼の体温 .
また段々眠気が起こる .
「おやすみ」
小さく呟いて ,
私は再度眠りに落ちた .
「ん … 」
嗚呼 , 現実だ .
今度は外がとても明るくて ,
カーテンから差し込む光が
とても眩しい .
でもどこか , 優しくやわらかな光は ,
彼を思わせる .
懐かしい夢を見たからか ,
あの頃を懐かしんで ,
感傷に浸る私がいる .
もう泣かないと決めたと言うのに .
しかしまぁ ,
今日ぐらいはいいだろうか .
なんてったって , 今日は彼の命日なのだから .
久しぶりに戻らない日常を振り返って ,
頬に涙を伝わせる .
戻らないとわかっているから ,
やり直せないと分かっているから ,
ああしておけば ,
ああ言っておけば .
伝えていれば ___ ,
「泣かんで」
ふと背中に彼の体温を感じる .
夢でも幻でもない .
彼の声 , 彼の体温 .
思わず振り返ったが ,
そこには誰もいなかった .
嗚呼そうか ,
彼は逢いに来てくれたのだ.
夢の中でも , 現実でも ……
「ゾムさん , 大好きです」
涙を無理やり引っ込めて ,
嗚咽混じりに呟いた .
それに応えるようにして ,
空いた窓の隙間から ,
優しい風が流れてきた .
彼は , どこまでも優しい .
いつまでも ,
いつまでも ……
彼は愛おしい唯一の人 .
お題:やわらかな光 2024.10.17