「はい、これ。」
と、その子が差し出したのは、小さな花をいくつか輪ゴムでくくったものだった。
「おたんじょうび、なんでしょ。ばあばからきいたの。」
にっこり笑ったその子はバイバイ!と手を振って行ってしまった。
どこかで見たことのある、人懐っこい笑顔だった。
ボクは、あっけにとられ、しばらくその可愛らしい花束を見つめていた。
うーん。
今日誕生日だということ、誰かに話したっけ?…と、頭をめぐらしていたら、馴染みのお弁当屋さんでのさっき会話を思い出した。
いつもカレー弁当のボクが、珍しくカツカレーにしたもんだから、仲良しのお店のおばちゃんに、
「なんかいいことあったの?」
って聞かれてさ、
ボクが、
「誕生日だから奮発しました!」
って言ったら、
おばちゃん、にっこりして、
「そりゃあ、おめでたいねー!」
って、コロッケを2個もオマケしてくれたんだよ。
ああ、あのおばちゃんの孫かあ。
笑った顔、ソックリだったなあ。
嬉しいなあ。
なんていい日だ。
あの子にお礼、いいそびれちゃったな。
「ありがとう。」
と、お弁当屋さんがある方に向かってボクは呟いた。
さ、まだお弁当あったかいな。
うちに戻って食べよう。
悪魔と契約したからさ、ボクはホントには笑えなくなっちゃったんだよ。
ま、周りから見たら、ちゃんとしたタイミングでそれなりの笑顔を作ってるから、ボクがホントは笑ってないことは誰にも分からないだろう、と思ってたんだ。
それがさ、唯一、キミは気づいちゃったんだよねー。びっくりしたー。
しかも、キミは天使と契約してるって。
なんだかなー。
悪魔と契約した、ボク。
天使と契約した、キミ。
ある意味いいコンビだよね。
これからどうする?
キミがしたいことはある?
ん?
本気でボクを笑わせてみたい、って?
ははは、大丈夫。
もう笑ってるよ、大爆笑さ。
だってさ、こんな出会いなんて、面白くてたまらないじゃない。
見た目じゃわからないよ、悪魔と契約したボクの笑いは、この後ろの顔で出てるからね。
そ、背中のスマイルマーク、みてみて。
めちゃくちゃ笑ってるでしょ。
ボクもはじめてみたよ、こんな笑顔。
″どこにも書けないこと、をどうぞ″
と、ノートの表紙に書いてあった。
古びた喫茶店の一席に、このノートはひっそりと置いてある。
ページをめくると、
「わたしは ずっと 怒っている
わたしが ずっと 生きていることに」
と、書いてあった。
見覚えのある、美しく整った文字だった。
これは、彼女が書いたものだ。
ボクは、コーヒーをひとくち飲み、大きく深呼吸をする。
そして、もう一度、書いてある文字を読む。
「わたしは ずっと 怒っている
わたしが ずっと 生きていることに」
天国にいる彼女は、
もう怒ってはいないのだろうか?
いまは、
穏やかに笑っているのだろうか?
ボクが死んだら
この時計の針は
止まるのだろうか
ははは
止まるわけないか
この時計の針は
電池が切れるまで
ずっと ずっと
動き続けるだろう
そういうものだ
弟は、
大好きなものが目の前にくると、
たちまち色が変わる。
ホントに不思議だ。
色が変わるのに気づいてるのは、
姉である私だけ。
ちなみに、
どんな色に変わるかというと…
お母さんは、ピンク
お父さんは、みどり
おばあちゃんは、あか
おじいちゃんは、あおみどり
お兄ちゃんは、きいろ
そして
私が目の前にいくと、
なんと、にじいろに変わるのだ!
(なんか特別感があって嬉しい)
弟はまだ産まれて間もないし、きっと溢れる思いを身体全体で表してるんだろうなあ…
と、私は勝手に思っている。
私の大切な大切な弟は、
本当に見ていて飽きないのである。