「あと いちねん。」
夢に出てきた犬が、そう言った。
ボクはそこで目が覚めた。
時計をみると、5時。
今日は出かける予定がないので、もう少し寝ていたいな、とまた目を瞑る。
カーテンの外は少し明るく、鳥のさえずりが聞こえる。やけに、のどかだな。
うとうとしながら、さっきの夢について思いを巡らしてみる。内容が全く思い出せないんだけど、犬のひと言が、やけにリアルに音として耳に残っている。
昨夜はいささか飲みすぎたかなあ。
そもそも、犬が喋るなんて…
ほとんど眠りの世界にまた入りそうなときに、トントン、と誰かに布団を叩かれた。
?
??
???
この部屋にはボクしかいないし、寝ぼけているんだろう、とスルーして再び眠りの世界に入ろうとしたとき、
トントン♪トントン♪
と、また布団を叩かれた。
どう考えてもヘンな状況で、おばけかもしれない、と怖がってもおかしくないのだけど、トントン♪トントン♪と、たたく感じがリズミカルでなんだか可愛らしく、ボクは目を開け、叩かれた場所をそっとのぞいてみた。
そこには、さっき夢でみた犬がいて、
「あと いちねん。」
と、また言った。
その言い方がおかしくて、ボクは思わず吹き出した。なんというか、棒読み、なのだ。しかも、その犬は口角が上がっていて、にっこりと笑っているのだ。
ボクは身体を起こし、犬にたずねてみた。
何があといちねん、なのか?
と。
案の定、
「あと いちねん。」
としか、犬は言わなかった。
まあ、そういうものだ。
ただ、よくみると犬は首に何かを巻いていて、気になって外してみると、それは大判のハンカチだった。そこにはある写真がプリントしてあり、その画像にボクは正直びっくりしたけど、その風景をみて、″あと いちねん″の意味がようやく分かった。
ハンカチをまた犬の首に巻いて、ボクはその犬にお礼を言った。
あといちねんで、ボクがやることがたった今決まったんだ。まず、白くてふわふわのこの犬を大切に飼うこと、それから、あの場所に向かうためにできる限りいろんな人と話すこと。上手くいくかどうかなんて関係なくて、ボクがこれからやっていくことに意味があるんだよな、と思った。
昨日までのボクは終わりだ。
今、ここから新たなボクが始まるんだ。
″あと いちねん″後の未来のために。
虹の橋が架かっています。
橋のたもとには、ふわふわとしゃぼん玉たちが漂っています。
この色は、ワクワクかなあ?
これは、シクシクかなあ?
わあ、これはドキドキかも!
わー、きっとキラキラだ!
しゃぼん玉たちは、みな、いろんな気持ちを味わうために、これから好きな色の道を渡っていくのです。
1番最初にスタートするしゃぼん玉さんが、青色の橋を選んだようです。
さあ、旅のはじまりです!
「この凍りを溶かすことができるのは、ただ1人選ばれたものだけ、と言い伝えられています。」
白く固まった鏡を指さして、添乗員は言った。
ボクは今、年末謎解きツアーに参加している。分かっているのは集合場所だけで、どこに行くのかは分からない。ネットで見かけた広告に興味をもち、面白そうだな、と1人で申し込んだのだ。当日、指定された時間に、とある駅前に集まったボクたち参加者は″ミステリ謎解きツアー″とポスターが
貼られたバスに乗り込み、小一時間ほどバスに揺られ、着いた邸宅の中に案内され、今この鏡の前にいる、というわけなのだ。
「実は、この参加者の中に、その″選ばれたもの″がいらっしゃいます。今日はその方をみなさんで見付けてほしいのです。」
添乗員は、参加者を見わたし、にっこりと微笑んだ。
参加者は、13名。ひとりひとり胸に好きな名前を書いたネームプレートをつけている。簡易な名前が多く、みな本名ではなさそうだ。男女比はぱっと見半々、といったところか。いや、男女の判断をしてしまうのはこのご時世ナンセンスかもしれないな、と思う。
添乗員は、参加者にQRコードがいくつか載っているプリントを配り、それぞれ好きなものを選び質問に答えていくよう指示した。ボクは右下のQRコードを読みとり、質問を読んだ。身長体重、朝食べたもの…なんだか健康診断のようだな、とおもいつつ最後までいくと、送信ボタンをぽちっと押した。
全員が終わると、添乗員はひとりひとりに小声で何かを伝えはじめた。みな、びっくりした顔をしている。ボクの番になると、「選ばれたものは、あなたです。」と、添乗員は言ってまたにっこりと微笑んだ。
「今から、シンギングタイムです。この邸宅の中にヒントがあります。お好きなお部屋など入っていろいろ探してみてください。お食事は食堂にあります。いつでも召し上がっていただけるようになっております。時間制限はありません。ご自由にどうぞ。」
…時間制限はない?
その言葉に異様さを感じたものの、ボクはお腹が空いていたので、真っ先に食堂に向かった。思ったより豪華な料理が並んでいた。ボクの他に5名ほど食事をしている人がいた。とくにみな喋ることをせず、ひたすら口を動かした。
そもそもこのようなツアーに参加するのはボクみたいな変わった人が多いんだろうな、とボクは思った。
お腹が満たされた頃、鏡のある廊下から悲鳴が聞こえた。慌てて行ってみると、凍りついた鏡が割られていた。
怪我人はいないようだが、一体どうしたのか?
そのとき、
「鏡が割られてしまっては、謎解きをすることができません。この謎解きツアーは、謎を解かねば終わりません。そのため、大変申し訳ありませんが、参加者のみなさまはこの邸宅から出ることができないのです。」
と、添乗員が薄気味悪い笑顔を浮かべ、参加者全員に聞こえるように大声でいった。
ボクは意味が分からず、呆然とした。
いや、そんなはずはないだろう。
何かのドッキリか?頭の中でいろいろな考えがぐるぐるする。
数名の参加者が、玄関の方へ走りドアを開けようとした。その瞬間、ビリッと電気が走りその人たちはその場に倒れ込んだ。生きているか、死んでいるか、ここからでは分からない。何をどうしたらよいのか、もうここから出られないのか、参加者みな下を向いていた。ボクは、改めて鏡をみた。まだ壁に残っている部分がある。そこに映るボクをみた。顔面蒼白だった。しかし、良く見るとボクの横に小さな頃のボクの姿が映っている。そして、ボクの右ポケットを指さしている。ボクは自分の右ポケットに手を入れ、そこに入っているスマホを取り出す。
画面をみると、『END』と書いてあった。
ボクは迷わず、画面をぽちっと押した。
…………
気がつくと、ボクは自分の部屋にいた。手にはスマートフォン。画面には、バスツアーの広告。
あれは夢だったのか?
ずいぶん生々し夢だったな…
最近スマホみすぎてるかもな…
冷や汗を拭いながら、ボクはスマホの電源をOFFにした。
「おかあさん、よるがあかるいね。」
外をみたこぎつねは、うとうとしながら言いました。
朝早くから降りはじめた雪は、夜にはこぎつねの体が半分埋まってしまうくらいまで積もりました。しんしん、ずんずん、と、積もっていく雪の中を大はしゃぎで駈けまわり、遊び疲れたこぎつねはもうへとへとです。
「雪は、いろんなものを明るくしてくれるのよ。お前のこころも明るくなって、今日はたくさん遊んだわね。」
と、おかあさんは言い、こぎつねの頭を優しく撫でました。
すでにお目々が半分閉じているこぎつねは、おかあさんのあったかい手を感じながら、…ああさむいけど、ゆきはあかるさをくれて、なんだかぽかぽかしていいきもちだなあ…、と思いながら眠りにつきました。
誰に 祈りを 捧げますか?
何に 祈りを 捧げますか?
誰かや 何かを 大切にすることは
とても 美しい ことかもしれません
しかし
本当に 大切にすべき なのは
自分自身
ということも 忘れては なりません
祈りは 自分自身にも 捧げるの です