「ご注文はミルクティーですね。では、あちらの棚からお好きなティーカップをお選びいただけますか?手にとって重さや手触りを味わってくださいね。お時間気にせず、ゆっくりお選びください。」
うちの喫茶店は、心が疲れてしまったお客さまが来る。なぜかは分からないが、そういう人しか来ない。ボクが生まれる前からそういうシステムで、今は店主になったボクがこの店を受け継ぎ、来店するお客さまたちの心の光を灯す役割をしている。
ミルクティーのお客さまは、棚の前に歩いて行ったものの、ただその場に立っているだけだった。しかもずっと下を向いたまま。ボクは声をかけず、黙って見守る。
…30分くらいたった頃、ゆっくり顔を上げたお客さまは目の前のティーカップをそっと手に取った。そして、カウンターにいるボクに差し出した。ボクはそのティーカップを大切に受け取り、
「ありがとうございます。では、お席でお待ちくださいね。」
と声をかける。お客さまが席に座ったのを見届け、丁寧にティーカップを洗う。ミルクティーの準備をし、ただただ“光”をおもい、ミルクティーを入れ、お客さまのテーブルに運ぶ。
たいていのお客さまは、こんな感じ。
ミルクティーのお客さまも、帰るころには身体全体からゆるやかな輝きを増したようになった。ほんのり笑顔になっているから不思議だ。
さて、今日はもう閉店の時間。一日の注文の最後はボク自身に。何を飲もうかな?ティーカップは、あれにしよう。右上のとびっきりお気に入りのやつに。
あの子がいなくなってしまった朝、ボクは寂しくて、膝をかかえて泣いていた。涙がぽとり、と落ちた場所に、小さな小さな石があった。なんとなくその石を見つめていると、石がボクを見つめ返して、笑った。
その朝から、その小さな小さな石とボクはいつも一緒だった。寂しくなると右ポケットに手を入れ、石をそっとなでる。そうすると、とてもとても安心するのだった。
街では争いが続いていて、とうとうボクも戦いにいくことになった。幼い子どもも兵士になる、この世はなんて残酷なんだ。
あちらこちらで人々が倒れていき、周りにはなんにもない。ボクももう動くことができなかった。必死で右ポケットに手を入れる。石を取り出し、飲み込む。涙の味がしたが、もう寂しくはなかった。
ボクは人のハートメーターが見える。
相手がこれ以上触れられたくないにところに話が進むと数値が100をぎゅいん、と超える。
会話中にあちこち揺れるハートメーターにどうしても目がいってしまうため、なかなか人の目を見て話すことができない。しかも、胸にあるメーターの数値をチラチラみながら話題を変えるから、相当ボクは怪しい人間だ。友だちになんかできるわけない。(ちなみに、鏡をみて自分に話しかけても自分のハートメーターはみえないのだ。)
たまーに、ボクの胸あたりをチラチラみながら話をする人がいる。もしかしたら、その人もボクみたいにハートメーターがみえているのかもしれない。今度そういう人に出会ったら、“胸に何かみえますか?”って思い切って聞いてみようかな。友だちになれるかもしれないから。
久しぶりに図書館に行った。
ぷらぷらと館内をめぐり、ふと目に入った本を1冊だけ借りた。
近くのコンビニでサンドイッチとオレンジジュースを買い、公園のベンチに座ってその本を読み始めた。数ページ進んだところで、何かがはらり、と落ちた。足元を探したが見つからない。
気のせいか、と本に目を戻すとキラリと光る栞が挟まっていた。羽根のかたちの美しい栞。そっと手にとると辺りが輝きはじめた。目の前の噴水も近くの木々も人々もみな消えていく。僕だけが、その輝きの中にいた。
…気がつくと懐かしいあの場所にいた。
大好きだったお姉ちゃんが、僕に絵本を読んでくれていた。僕は姉と二人暮らしで、寝る前のこの時間は幸せだった。とても、とても。笑顔で本を読む姉の顔を見つめていたら、たまらなくなり涙が溢れた。
……目をこすると、元の公園にいた。姉はいない。ただ、姉が読んでくれた絵本が僕のこの手元に残っていた。
幼くして亡くなってしまったもの
人や動物、植物もいろいろな理由でこの世を去った魂たちが
あちらこちらから やってくる
夜になると
ほのかな光とともに火が灯され
魂たちは輝きはじめる
命があった間の素敵な出来事だけを思い出し、思う存分味わって
さいごは 笑顔で旅立つ
明け方
たくさんの光が
ゆらゆらと 天にのぼってゆく
迷い子の森の ひみつのおはなし。