ね。

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「ご注文はミルクティーですね。では、あちらの棚からお好きなティーカップをお選びいただけますか?手にとって重さや手触りを味わってくださいね。お時間気にせず、ゆっくりお選びください。」


うちの喫茶店は、心が疲れてしまったお客さまが来る。なぜかは分からないが、そういう人しか来ない。ボクが生まれる前からそういうシステムで、今は店主になったボクがこの店を受け継ぎ、来店するお客さまたちの心の光を灯す役割をしている。



ミルクティーのお客さまは、棚の前に歩いて行ったものの、ただその場に立っているだけだった。しかもずっと下を向いたまま。ボクは声をかけず、黙って見守る。
…30分くらいたった頃、ゆっくり顔を上げたお客さまは目の前のティーカップをそっと手に取った。そして、カウンターにいるボクに差し出した。ボクはそのティーカップを大切に受け取り、
「ありがとうございます。では、お席でお待ちくださいね。」
と声をかける。お客さまが席に座ったのを見届け、丁寧にティーカップを洗う。ミルクティーの準備をし、ただただ“光”をおもい、ミルクティーを入れ、お客さまのテーブルに運ぶ。


たいていのお客さまは、こんな感じ。
ミルクティーのお客さまも、帰るころには身体全体からゆるやかな輝きを増したようになった。ほんのり笑顔になっているから不思議だ。


さて、今日はもう閉店の時間。一日の注文の最後はボク自身に。何を飲もうかな?ティーカップは、あれにしよう。右上のとびっきりお気に入りのやつに。

11/12/2025, 1:02:49 AM