谷間のクマ

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7/26/2025, 10:01:12 AM

《半袖》

※昨日の続き! ちょっと重い(暗い)かも

「あっ思い出した! 《半袖》だ!!」
 蒼戒と作文の話をしてから少し経って、夕飯を食べている時。俺(齋藤春輝)は作文のお題を思い出して大声を出す。
「……は?」
「いや、は? じゃなくて! 作文のお題! 俺《半袖》だったの!!」
「ああ、あれか……。選考基準は一体どうなっているんだ……」
「本当それなー。そーいや半袖と言えばさぁ……」
 俺はふと蒼戒の着ている長袖を見て言う。
「お前まだ半袖着ねーの?」
「? 着ないが?」
 蒼戒は当然だとでも言いたげな顔で小首をかしげる。
「いやそんな顔で言われてもさ。つかそれ暑くねーの?」
「別に。もう慣れた」
 蒼戒はそう言って冷ややかに味噌汁をすする。
「慣れたってお前な……。そのうち熱中症で倒れるぞ?」
「そこはうまいことやってるから大丈夫だ。多分」
「多分じゃ困るって。半袖楽だし涼しいしいいぞー?」
「そう言われても……。今更、着ようとは思わないからな」
「そっか……。でももう、いーんじゃねーの? 半袖着ても」
 蒼戒が半袖を着ているところなんてもうずっと見ていない。腕が見えそうな服を着ているところも。クラT(クラスTシャツ。クラスお揃いで作るTシャツのこと)とか浴衣の時とかでも中に薄手の長袖のインナーを着ている徹底っぷりだ。
「お前……、俺がどうして半袖しか着ないのか知ってるだろう」
「そうだけど……」
 蒼戒がどうして頑なに長袖しか着ないのか。それは蒼戒の、俺たちの、過去に原因がある。
 俺たちが小学校に上がる前の冬、姉さんが亡くなった。警察いわく完全な事故で溺死だったわけだが、姉さんがいないなら自分も死ぬと、蒼戒はそう言って何度も何度も、自殺しかけた。俺がその度にそれを止めたから今こいつは生きてるわけだけど、その時の名残で自傷癖が残った。左手で、右腕を引っ掻いてしまう癖。
 要するに、蒼戒が長袖しか着ないのは、いざって時に自分を傷つけないため、傷跡を他人に見せないためだ。長袖なら、引っ掻きにくいから。相手に肌を見せないで済むから。
 それは当然俺もよく知っているし、なんならいろんな局面でフォローを入れたりもしてきたけど。
「だけどそろそろ、いいんじゃないのかなって。あれからもう10年以上経つだろ?」
「そうだが……」
 蒼戒はそう呟いて困り顔でご飯をパクリ。俺はそれを見ながら味噌汁をすすって言う。
「別に無理にとは言わないけど、そろそろいいんじゃないのって、そう言う話。ごめん、余計なこと言ったな」
「別に……。悪いのはいまだに過去を引きずってる俺だから」
「………………」
「それに、この腕じゃ余計な誤解を招くからな」
 俺がかける言葉を見つけられずにいると、蒼戒はそう言って腕まくりをして見せる。
 そこには大小たくさんの傷があって、俺は思わず目を逸らす。
「……痛い?」
「いや、とっくに痛覚は麻痺してるしどれももう古い傷だからな」
「そっか……。いざとなったらいつでも言えよ。包帯くらいなら巻いてあげるから」
 昔からずっと手当は俺の役目だった。最初はめちゃくちゃ下手だったけど、不本意なことに結構上手くなった。だから包帯くらいなら、綺麗に巻いてやれる。
「ああ、ありがとう」
「いーってことよ。さ、この話はもう終わりにしよ! お前明日の予定は?」
 俺はそう言って明るく話題を変える。
「明日? 明日は確か午前中に生徒会の仕事があって、午後は部活だったはず……」
「まーた生徒会? 忙しいねぇ、男副」
「体験入学が近いからな。あと選挙」
「やー、大変だなー。お前マジで倒れるなよ?」
「望んで倒れる奴がどこにいる」
「いやいないけども」
 というわけで夕飯を食べながら明日は保冷剤でも持たせるかな、と思う俺であった。
(おわり)

2025.7.25《半袖》

7/25/2025, 9:57:10 AM

《もしも過去へと行けるなら》

「そうだ春輝、ちょっといいか?」
 夏休みも目前に迫った7月下旬。俺(齋藤春輝)が自宅で郵便物を選り分けていると、双子の弟の蒼戒が夕飯を作りながら声をかけてきた。
「? どしたの蒼戒」
 蒼戒の方から声をかけてくることは正直あまりないので不思議に思って返すと、「別に大したことじゃないんだが」と蒼戒はためらいがちに口を開く。
「今日の国語で作文の課題が出ただろう。あれのお題、何だった?」
「あ、そっか今回もくじ引きで決めたから全員違うんだっけ」
「ああ」
「えーっと俺はー……、なんだったかな」
「おい」
「いやいやいやいや別にやらないつもりとかじゃないから! 単純にド忘れしただけだから!」
「いや論点そこじゃなくてだな……」
「とすると、お前また厄介なヤツ引き当てたわけ?」
「御名答……」
「え、何当てたの?」
「《もしも過去へと行けるなら》」
「……まーた厄介なの引き当てたねぇ……」
「だよな……」
「むしろ引が強いというかなんと言うか」
 春に似たような課題が出た時、蒼戒は《もう二度と》と言うお題を引き当てていて、その時も何を書くか迷っていたっけ。ちなみに俺はその時《謎》で心霊現象について書いたんだよな……。
「うるさい。ただ本当に何書こうかと思って……」
「《もしも過去へと行けるなら》、ねぇ……」
 本当に過去へと行けるなら、やりたいこと、するべきことはたくさんあるだろう。それこそ、姉さんが死ぬような未来が訪れないように、できることが。
「うーーん、こりゃ難しいねぇ……。嘘書くわけにもいかねーし」
「そこなんだよな……」
「ま、本気で書いたら辛いのが目に見えてるくせにマジでやることないと思うけど」
「それはそうだな……」
「んじゃあそれこそ『あの時』まで戻るんじゃなくて昨日やり忘れたこととかでいーんじゃね?」
「それだ! それでいこう」
「解決した?」
「ああ。ありがとう春輝」
「いーってことよ。んじゃま今度数学の問題教えてよ」
「ああ」
 というわけで蒼戒の悩みはなんとか解決したようで、その日の夕飯はやたら豪華だった。
(おわり)

一応かなり前の《もう二度と》シリーズの続きになってます!

2025.7.24 《もしも過去へと行けるなら》

7/24/2025, 10:05:18 AM

《True love》

書きたいけど時間がない!!

2025.7.24《True love》

7/23/2025, 10:01:38 AM

《またいつか》

書けたら書く!

2025.7.22《またいつか》

7/22/2025, 10:03:25 AM

《星を追いかけて》

書きたい気持ちはあるんだ……!時間がない!!

2025.7.21《星を追いかけて》

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