《渡り鳥》
書けたら書く!
2025..5.29《渡り鳥》
《さらさら》
「……綺麗だな」
「は?? 何が?!」
とある日の放課後。私、熊山明里が幼馴染でクラスメイトで、最近私の彼氏になった齋藤蒼戒と歩いていると、ふと蒼戒が口を開いた。
「あ、いや……、綺麗な髪だな、と思って」
私がびっくりして聞き返すと、蒼戒は少し恥ずかしそうにそう答える。今日は風が強くて私の長い黒髪がさらさらと風に靡いているからそれを見て言ったのだろう。
「あー、そゆことねー」
「そういえばお前、出会った時からその髪型だが伸ばしているのか?」
「んー……、まあそんなとこ。切るタイミング失っちゃってさ」
本当は何度か切ろうと思ったことがあるが、昔天望公園で蒼戒に出会った時がこの髪型だったこともあり、『あの時の少女』としての面影を消さないよう、ずっと切らずにいたのだ。
「そうか……」
「何、違う髪型見たいわけ? それなら乾かすの面倒だしいいい加減切っちゃおうかしら」
「いや……、そりゃ短いのもいいと思うが、そんなに綺麗なんだ。本気で切ろうと思うまで待つべきだと思う」
「……そうね。もうしばらくこのままでいいわ」
蒼戒が綺麗だと言ってくれたのだ。切るに切れないじゃない。
「ああ、それがいい」
蒼戒はそう言って私の髪の一房をそっと手に取る。
「しかし綺麗だよな……。さらさらだし……」
「………………」
蒼戒は私の髪をめちゃくちゃ褒めているが、私はその言葉でつい真っ赤になってしまう。
「ん、お前顔が赤いぞ? 熱でもあるのか?」
蒼戒がふと私の顔を見て言う。
「〜〜〜!! あんたのせいだからね!」
私は声にならない声をあげて蒼戒から距離をとる。
「? 俺何かしたか?」
「んもー! こーの天然人たらしー!!」
さっぱりわからないと言いたげな顔をしている蒼戒に私は言う。というかこれ他の人にやらないでよ?!
「? ……なんかすまん」
「そーゆー問題じゃない!」
そんなこんなで何気に青春っぽい会話をしながら私たちは家路に就いたのだった。
(おわり)
2025.5.28《さらさら》
《これで最後》
※最終決戦
「……あれ、私一体何を……」
上も下もわからない、ふわふわした白い世界。そんな中、私(熊山明里)は薄く目を開く。
「あ、そうだ……。私ネバーを追ってて……」
ネバーワールドナイトを追っていたはいいものの、ネバーワールドナイト側が持つ宝石の力で特殊な結界空間に閉じ込められた、というのがおそらく今の状況。
「とにかくここから、抜け出さなくちゃ」
私はそう呟いて泳ぐように空間を移動する。どこかに、『滅びの石』があるはず。それを見つけ出せれば。
「あっ……」
しばらく移動すると、走馬灯のようなビジョンが見えた。
「これって……」
真っ白なウエディングドレスを着たなつが、タキシードを着た紅野くんにお姫様抱っこされて笑っている。でもその周囲にいるのは私やサイトウたちじゃない、まったく知らない人たちで、なつたちがいる場所も日本の結婚式場とは言いがたい雰囲気。
「夢……?」
別のビジョンには、お姉さんと思われる女性と金メダルを掲げて笑っている蒼戒とそれを見て号泣しているサイトウが映っている。その近くには銀メダルを首から下げた須堂先輩も。
他にも、無邪気に笑ってクラスメイトと青春する美架さんや、ハッキングなんて覚えないで、友達と校庭を駆け回っている雷くんもいる。
そして……、
「これ……」
家族で和気あいあいと過ごしている『私』の姿が。
「そうか……、これはネバーワールドナイトが存在しない、もしもの世界……」
世界に闇なんてない、夢の世界。
きっとネバーワールドナイトが存在しなければ、なつや紅野くんは日本に来ることもなかったし、私に出会うこともなかった。もしかしたら生まれることすらなかったのかもしれない。
双子は大切なお姉さんが死なずに済んだし、あんなに苦しむこともなかった。
美架さんや雷くんだって、無邪気で楽しい、子供時代を過ごすことができたはず。
それに私だって……、家族みんなでいられた。
「…………っ……」
私の頬を、熱い涙が伝う。
ネバーワールドナイトが存在しなければ。
そんなもしも、考えたって仕方がないけれど。
「もしかしたら、この方がいいのかもしれない……」
ネバーワールドナイトがなければ、私たちはきっと出会うこともなかっただろう。でも、きっとその方がよかった。
それなら……。
「このままでも、いいよね……?」
私がみんなと過ごした日々が、あの日常が、なかったことになってしまったとしても。
「バカ言わないでよ、明里。あたしは明里と、みんなと過ごした日々がなかったことになるなんて絶対にイヤ」
凛とした声が割り込んだ。
「……なつ……?」
なつだ。嘘みたいにいつも通りの、なつ。
「僕もイヤです。確かに苦しいこともありましたが、その分あの毎日は楽しかった」
紅野くん。
「んまー、俺もヤダね。蒼戒が笑ってられるならこの世界もアリかな、って思ったけど、やっぱりなんだかんだ楽しかったもん」
サイトウ。
「俺も……、考えたくないな。お前と出会わなかった世界なんて。そりゃ姉さんがいる世界があれば、とは思うが、それ以上にみんなで過ごした日々がなくなるのはお断りだ」
そして、蒼戒。
ひとり、またひとりとみんなが私の元に集まってくる。
「だからさ、明里。もう、終わりにしようよ、こんな世界」
「ああ。お前がいない世界なんて、真っ平ごめんだ」
「終わらせようぜ、この馬鹿げた戦いを」
「その通りです。みんなで、元の世界に帰りましょう」
ああ、いつものみんなだ。
「……そうだね、終わらせよう。この世界を」
私はそう言ってグッと涙を拭う。
いつの間にか、私の手の中にあの『滅びの石』があった。これなら、この馬鹿げた世界を終わらせられる。
「……これで最後だ。みんなで帰ろう。並木町の、愛すべき日常に」
「うん!」
「ええ。帰りましょう。みんなで」
「やっぱ俺らはこうじゃねーとな!」
「ああ。帰ろう」
5人で『滅びの石』を持って手を重ね合わせる。
「「「「「 」」」」」
声を合わせて、呪文を唱える。次の瞬間、『滅びの石』が強く強く輝き出して、私たちはゆっくりと目を閉じたーーーー。
(終わり)
※今は続き書かないけどちゃんとみんな生きてますのでご心配なく!
2025.5.27《これで最後》
《君の名前を呼んだ日》
書けたら書く!
2025.5.26 《君の名前を呼んだ日》
《やさしい雨音》
「雨、か……」
5月もそろそろ終わるとある日の放課後、午後6時すぎ。俺、齋藤蒼戒は学校の昇降口で雨が降っている灰色の空を見上げてため息をつく。
いつもは折りたたみ傘を持っているが、昨日も雨だったこともあり今日に限って天日干ししてるんだよな……。
「あら蒼戒じゃない。どしたの?」
「ん、ああ明里か。お前こそどうした? こんな時間に」
「放送関係でいろいろあってね。蒼戒は?」
「生徒会。終わって帰ろうとしたらこの雨だ」
「あちゃー、結構降ってんねー」
明里は屋根の下から手を少しだけ出して呟く。
「走って帰るには少し厳しそうだな」
そもそも俺は水が苦手だし、できれば濡れたくない。まあ傘がないから仕方ないのだが……。
「いや、このくらいならいけるはず……。ってかあんた傘は?」
「天日干し中。今朝の天気予報では一日晴れ予報だったんだがな……」
「だよねぇ……。あっ、私今日折りたたみ傘持ってるんだ! あんたこれ貸してあげるから使いなさいよ」
「え、いやお前が濡れるぞ?」
「いーのいーの。元々走って帰るつもりだったし差すつもりもなかったし」
私が持ってても宝の持ち腐れよねー、と明里はカバンから傘を取り出す。
「いや差せよ……」
「だーって傘って空気抵抗大きくて何かと面倒なのよねー。そもそも私の方があんたより足速いんだし」
いかにも明里らしい理由。
「それは知ってるが……」
明里はとんでもなく足が早く、なんとびっくり俺より速い。確か春輝と同じくらいだったはずだ。本気で走られたら追いつけない。
「なら問題ないわね」
「いや問題大アリだが?」
「どこが? 私は走って帰れるしあんたは濡れずに済むしウィンウィンでしょ?」
「いやお前が濡れるだろうが」
「へーきへーき。今日は別に足捻ったってわけじゃないしー」
そういえば前に足を挫いた上に傘がないとのことで送って行ったことがあったな。
「いやしかし……」
「大丈夫だって。そもそも私余程の大雨じゃないと傘差さないし」
「いや差せよ……」
なんだか話が堂々巡りになってる気がする……。
「ま、なんとかなるっしょ! ……そういえば洗濯物干しっぱなしだ! 早く取り込まないと……! んじゃ、また明日返してくれればいいからー。じゃーねー蒼戒!」
明里はそう言って俺に傘を押し付けて雨の中に飛び出して行ってしまう。は、速い……。
「え、あ、ちょっと待て明里!」
「へーきだって。これであの時の貸しはチャラねー!」
明里はそう答えてさっさと校門を駆け抜ける。やはり早すぎる……。
「……仕方ない。ありがたく使わせてもらうとするか……」
俺は観念して明里の折りたたみ傘を差して歩き始める。紺色に白の水玉模様の傘で、あいつらしいシンプルだがシンプルすぎない、いいデザインだ。
「そういえばうちも洗濯物干しっぱなしだったような……」
いや、春輝が取り込んでいるか。
そんなことをぼんやり考えながら俺は家路に就く。
いつもは大嫌いな雨も、明里から借りた傘のおかげかいつもよりは嫌じゃない。
いつもはうるさいだけの雨音が、今日に限っては少しやさしい音に聞こえた。
(おわり)
2025.5.25《やさしい雨音》