《これで最後》
※最終決戦
「……あれ、私一体何を……」
上も下もわからない、ふわふわした白い世界。そんな中、私(熊山明里)は薄く目を開く。
「あ、そうだ……。私ネバーを追ってて……」
ネバーワールドナイトを追っていたはいいものの、ネバーワールドナイト側が持つ宝石の力で特殊な結界空間に閉じ込められた、というのがおそらく今の状況。
「とにかくここから、抜け出さなくちゃ」
私はそう呟いて泳ぐように空間を移動する。どこかに、『滅びの石』があるはず。それを見つけ出せれば。
「あっ……」
しばらく移動すると、走馬灯のようなビジョンが見えた。
「これって……」
真っ白なウエディングドレスを着たなつが、タキシードを着た紅野くんにお姫様抱っこされて笑っている。でもその周囲にいるのは私やサイトウたちじゃない、まったく知らない人たちで、なつたちがいる場所も日本の結婚式場とは言いがたい雰囲気。
「夢……?」
別のビジョンには、お姉さんと思われる女性と金メダルを掲げて笑っている蒼戒とそれを見て号泣しているサイトウが映っている。その近くには銀メダルを首から下げた須堂先輩も。
他にも、無邪気に笑ってクラスメイトと青春する美架さんや、ハッキングなんて覚えないで、友達と校庭を駆け回っている雷くんもいる。
そして……、
「これ……」
家族で和気あいあいと過ごしている『私』の姿が。
「そうか……、これはネバーワールドナイトが存在しない、もしもの世界……」
世界に闇なんてない、夢の世界。
きっとネバーワールドナイトが存在しなければ、なつや紅野くんは日本に来ることもなかったし、私に出会うこともなかった。もしかしたら生まれることすらなかったのかもしれない。
双子は大切なお姉さんが死なずに済んだし、あんなに苦しむこともなかった。
美架さんや雷くんだって、無邪気で楽しい、子供時代を過ごすことができたはず。
それに私だって……、家族みんなでいられた。
「…………っ……」
私の頬を、熱い涙が伝う。
ネバーワールドナイトが存在しなければ。
そんなもしも、考えたって仕方がないけれど。
「もしかしたら、この方がいいのかもしれない……」
ネバーワールドナイトがなければ、私たちはきっと出会うこともなかっただろう。でも、きっとその方がよかった。
それなら……。
「このままでも、いいよね……?」
私がみんなと過ごした日々が、あの日常が、なかったことになってしまったとしても。
「バカ言わないでよ、明里。あたしは明里と、みんなと過ごした日々がなかったことになるなんて絶対にイヤ」
凛とした声が割り込んだ。
「……なつ……?」
なつだ。嘘みたいにいつも通りの、なつ。
「僕もイヤです。確かに苦しいこともありましたが、その分あの毎日は楽しかった」
紅野くん。
「んまー、俺もヤダね。蒼戒が笑ってられるならこの世界もアリかな、って思ったけど、やっぱりなんだかんだ楽しかったもん」
サイトウ。
「俺も……、考えたくないな。お前と出会わなかった世界なんて。そりゃ姉さんがいる世界があれば、とは思うが、それ以上にみんなで過ごした日々がなくなるのはお断りだ」
そして、蒼戒。
ひとり、またひとりとみんなが私の元に集まってくる。
「だからさ、明里。もう、終わりにしようよ、こんな世界」
「ああ。お前がいない世界なんて、真っ平ごめんだ」
「終わらせようぜ、この馬鹿げた戦いを」
「その通りです。みんなで、元の世界に帰りましょう」
ああ、いつものみんなだ。
「……そうだね、終わらせよう。この世界を」
私はそう言ってグッと涙を拭う。
いつの間にか、私の手の中にあの『滅びの石』があった。これなら、この馬鹿げた世界を終わらせられる。
「……これで最後だ。みんなで帰ろう。並木町の、愛すべき日常に」
「うん!」
「ええ。帰りましょう。みんなで」
「やっぱ俺らはこうじゃねーとな!」
「ああ。帰ろう」
5人で『滅びの石』を持って手を重ね合わせる。
「「「「「 」」」」」
声を合わせて、呪文を唱える。次の瞬間、『滅びの石』が強く強く輝き出して、私たちはゆっくりと目を閉じたーーーー。
(終わり)
※今は続き書かないけどちゃんとみんな生きてますのでご心配なく!
2025.5.27《これで最後》
5/27/2025, 2:15:19 PM