《まだ知らない世界》
書けたら書く!
昨日の《手放す勇気》と5.8の《届かない……》は書いたから読んでくれると嬉しいです!
2025.5.17《まだ知らない世界》
《手放す勇気》
好きな人ができた。いや俺、齋藤春輝にじゃなくて、双子の弟に。
相手は俺もよーく知ってる、熊山明里。俺達の幼馴染で、クラスメイト。どこか姉さんに似てて、さっぱりした性格のすごくいい奴。多分明里も蒼戒が好きで、本人たちに自覚はないようだが、両想いなのは側から見ててもよくわかった。
内心すごく複雑だ。明里はいい奴だし、蒼戒の幸せを思うと全力で応援したい。
でも、そうなったら俺は蒼戒から離れないといけない。そのことだけは、どうしても認めたくなくて。
「あ゛ーーー……どーすりゃいいんだ俺……」
深夜1時過ぎ、俺は暗闇の中ひとりで小さく唸り声をあげる。万が一にも隣の部屋で寝ているであろう蒼戒を起こしてしまわないように。
いや俺だってわかってる。蒼戒から、離れなきゃ。手放さなきゃ。あいつは俺や過去に、縛られてちゃいけない。自由に、羽ばたかせてやらなきゃならない。
結局、あいつを縛っているのは、俺なんだから。
「でもやっぱりさ……」
離れられないよ。さみしいよ、蒼戒。
ずっと、隣にいた。ずっと、一番そばで支えてきた。そのことに対する自負も誇りもある。蒼戒のために自分の人生を棒に振る覚悟だって。
「いや何ウジウジしてんだ俺……。わかってる、わかってる。もう、あいつは小さな子どもじゃないんだから」
明里は言っていた。私の中のあの子だってとっくに大きくなってるんだ、と。
俺だってそうだ。俺の中のあいつだって、もう小さな子どもなんかじゃない。隣に立って、対等にものを言い合える、世界で一番大切な人だ。
「よし、大丈夫、大丈夫……あいつならきっと……」
隣にいるのが俺じゃなくなっても、うまくやっていける。
「春輝……?」
小さく声がかかって、俺はハッと顔をあげる。暗闇に目を凝らすと、珍しく閉まっていた俺と蒼戒の部屋を仕切るふすまから蒼戒が少しだけ顔を出していた。
「あれ、蒼戒? どしたの、もう随分遅い時間だぜ?」
「それはこちらのセリフだ。読書してたら声が聞こえて心配になって来てみれば」
「え、お前寝てたんじゃなかったの? てか寝ろよ」
「お前が言うな。寝ようと思ったんだがふと銀河鉄道の夜が読みたくなって……」
「お前好きだよなあ、銀河鉄道の夜」
てか蒼戒に心配されてるようじゃ、俺もおしまいだな。
「いいだろ別に。それで、お前大丈夫か?」
「んー、大丈夫大丈夫。ちょっとストレッチしてただけ」
「そうは見えんが……。俺が言えた話じゃないが体調悪いならゆっくり休んだほうがいいぞ」
「その言葉そっくりそのままお前に返す」
体調が悪いときでも、それを無視して動いてるのが蒼戒だからな。
「わかってはいる。それじゃ、おやすみ」
「あーうん、おやすみ」
そのまま無情にもピシャリとふすまが閉められる。多分まだ読書をしてから眠るつもりなのだろう。夢中になって徹夜でもしなければいいが。
それはそうと、やっぱりもう少しだけ、蒼戒の隣に、いてもいいかな。あいつを手放す、覚悟ができるまで。手放す勇気が、持てるようになるまで。
そしていつかその時が来たら、思いっきり背中を押してやるからさ。
「絶対幸せになれよ、蒼戒」
俺は閉められたふすまに向かってそう囁くと、布団に潜り込んだ。その時頬を伝った一筋の涙には、気づかなかったふりをした。
(終わり)
2025.5.16《手放す勇気》
《光輝け、暗闇で》
上も下も、右も左も分からない、真暗闇の中。泥にでも足を取られているのか、うまく身動きが取れない。
「くそっ……、なんだこれ……」
下へ下へ沈んでいくような感覚を覚えて、俺、齋藤蒼戒は必死にもがく。
「いやだっ……、誰か、」
助けて。
水は怖い。息ができないし、何より姉さんの命を奪ったモノだ。
あの日のことがフラッシュバックして、恐怖で体が強張る。このまま、沈みたくない。いつか死ぬとして、水の中では死にたくない。
「 」
そんな恐怖に呑まれて動けない中、声が聞こえた。でも不明瞭で、何を言っているのかまではわからない。
「 」
「誰……?」
また聞こえる。真暗闇の中、小さな小さな光が見える。
「 ぃ」
だんだんと大きく、そしてはっきりとしていく声。
この声は……、よーく聞き慣れた、双子の兄の春輝の声だ。いつも闇の中から俺を助けてくれる、優しい声。
「……はるき?」
「あおい!」
俺がその名前を呼ぶと、答えるようにより一層大きな声が聞こえた。
★ ★ ★
「蒼戒!」
名前を呼ばれ、ハッと意識が覚醒する。
「あれ……、俺、一体何を……」
夢でも見ていたのだろうか。真暗闇の中にいたような気がする。
「お、起きたか。お前またうなされてたぞ。大丈夫か?」
目を瞬いて声のする方を見ると、月光をバックに春輝が立っていた。なんだかその姿が神々しく見えて、俺は一瞬自分の目を疑う。
「春輝……、大丈夫……。悪い、また迷惑かけたな……」
「はっ、そんなこと今更気にすんなって。そーいや今日満月みたいで月がめちゃくちゃ綺麗なんだけどちと見に行かね?」
「ああそれでか……。通りで電気もつけてないのに明るいと思った……」
俺はそう呟きながら立ち上がって春輝と共にベランダに出る。
「おー、やっぱキレイだなー」
「ああ……」
大きな月が、俺たちを見下ろしている。真夜中の暗闇も物ともせず、煌々と輝いている。
「そーいや俺が太陽ならお前は月、ってそう言った奴がいたよな」
春輝が満月を見上げてふと呟く。
「いたな……。誰だったのかは覚えていないが」
「でもいい例えだよなー。わかりやすいっつーか、なんつーか」
「確かにな。…………知ってるか、春輝。月は太陽がないと、輝けないと。見えなくなってしまう、と」
俺はお前がいないと、輝けないと。生きてはいけない、と。
でも太陽は月がなくても、自ら輝くことができる、と。……春輝は俺がいない方が、自由に生きることができる、と。
「知ってるよ。でも、太陽だけじゃ星空は作れない。月がないと、夜空は作れない。……俺はお前がいなきゃ、生きていけない。お前がいない世界なんて、生きたくない」
そこまで伝わってたか、と俺はひとり苦笑する。
俺は春輝にとって自由を縛るような存在でしかないはずなのに、春輝はいつもそれでもいいと、いなくならないでと、言ってくれる。本当に、いい奴なのだ。
「俺も……、お前がいない世界なんて生きたくないな」
月は太陽がないと輝けない。だからどうしても太陽を求めてしまう。それが良くないことだとわかっていても。
「だったらお互い長生きしねーとな! さ、寝るか!」
春輝が明るく言う。やっぱり春輝は、俺の太陽で、光だ。どんな暗闇でも、明るく照らしてくれる。
「ああ。明日もあるし」
「そーいやいい加減議案書と予算案書かねーとだなー」
「お前まだ書いてなかったのか? 締め切り明後日なんだが?」
「ま、なんとかなるだろー」
「なるべく早く出して欲しいんだが?」
「えー」
そんなことを話しながら俺たちは連れ立って部屋に戻る。
光輝け、暗闇で。
お前は太陽で、光。俺は月で、闇。
ふたりでひとつの、世界がある。ふたりでしか見れない、景色がある。
お前は俺の闇を明るく照らしてくれる光だから。真暗闇から救い出してくれるから。
だから俺も、輝いていられるのだ。
(おわり)
2025.5.15《光輝け、暗闇で》
なんかめちゃくちゃだな……てか最近双子の話しか書いてないような……この双子使いやすいんだよね……
《記憶の海》
余力があれば書くかなー
2025.5.13《記憶の海》
《ただ君だけ》
書けたらそのうち書く!
2025.5.12《ただ君だけ》