《未来図》
「《未来図》、ですか……」
「何々どしたのー? 紅野くん」
とある日の国語の授業のあと。僕、紅野龍希が作文のお題に頭を悩ませていると、たまたま通りかかった夏実さんが興味津々に声をかけてきた。
「あ、いえ、作文のお題が《未来図》なんですよね……」
「あー、あの選考基準謎の作文ねー。紅野くんは《未来図》だったわけか」
「そうです。夏実さんは?」
「あたしは《ヒーロー》。もう書けたよー」
「早いですねー。ちなみに何書いたんです?」
「昔好きだったヒーローアニメの話」
「自由ですね……。《未来図》って何書けば……?」
「さあ……。もうテキトーでいいんじゃないの? ハルなんて《謎》で心霊現象について書いてたよ」
「何やってんですかあいつは……」
「ハルいわく、『心霊現象も謎のうちだろ!』だってさ」
「ハルらしいと言えばハルらしい……。それじゃあ僕は《未来図》で理想の未来でも書いときますかね」
「将来計画図みたいな?」
「いえ、車で空を飛んでみたいなー、とかそんな感じの」
「ああ、よくアニメとかで見る感じの」
「そうです。いいですよねー、夢があって」
「そだねー」
とそこまで話したところで『キーンコーンカーンコーン』とチャイムが鳴った。
「あっ、もうこんな時間! じゃあね紅野くん!」
夏実さんはそう言って慌ただしく自分の席に戻っていく。
僕は一度作文の紙をしまって、次の授業の教科書を出した。
(終わり)
2025.4.14《未来図》
《ひとひら》
桜の花が、散っている。それはまるで、雪のように。
「そっかー、もうそんな時期なのねぇ」
どこからともなく飛んできた、ひとひらの桜の花びらを見て私、熊山明里は呟く。
桜の花の寿命は短く、咲いたと思ったらすぐに散ってしまうのだ。並木町の桜も例に漏れず、早咲きの桜はほとんど散ってしまっている。
「この花びらも、きっとどこかの早咲きの桜のものなんでしょうね」
この辺りには桜はないから、かなり遠くから飛んできたものだと思う。例えば学校のソメイヨシノとか。
「あ、明里、お前髪に桜が……」
並木の桜もそろそろ咲くかしらー、などと思いながらのんびり歩いていると、後ろからそう声をかけられた。
「え、ああ、蒼戒」
声をかけてきたのは蒼戒。私と同じく下校中のようだ。
「ああじゃなくて、桜がついてる」
「取ってよー」
「わかったわかった」
蒼戒はそう言ってそっと私の髪に触れる。
「はい、取れたぞ」
蒼戒が取ってくれた桜の花びらはそのまま風に乗って飛んでいく。
「ありがと。ところであんたの肩にも桜が乗ってるわよ?」
「え、ああ本当だ。さっき学校の桜が散っていたからそこでついたんだろう」
「でしょうね。見事な花吹雪だったし」
「ああ。今日は風が強いから余計にな」
また、ひらひらとどこからかひとひらの桜の花びらが飛んできた。
桜の時期ももう終わりねぇ、と思いながら私は蒼戒と歩き出した。
(終わり)
2025.4.13《ひとひら》
《風景》
暖かい木漏れ日、澄み切った青空、時折風に靡いて視界を奪う枝垂れ桜の薄桃色の花弁。
ここは並木町、天望公園。珍しくなんの予定もなく、とてもいい天気なので俺、齋藤蒼戒は一人、お花見をしていた。
「そういえば桜の木の下には死体が埋まっている、って話があったよな……」
いわく、桜がその死体を栄養として綺麗に咲くとかなんとか。まあ鼻から信じちゃいないが。
とはいえここの桜は本当に死体が埋まっているかと思うほど美しい。
「桜花爛漫、だな……」
いや、桜花爛漫は桜の花が満開に咲き乱れている様を表す言葉だから散り始めの今、この言葉を使うには少し遅いか。
と、たまにはのんびりするのもいいなぁ、と思っていたその時。ポケットに入れたスマホ(置いてこようと思ったが春輝に「ちゃんと携帯しろこのバカ!」と押し付けられた)がブーブー、と鳴り出した。どうやら電話がかかって来たようだ。
「はいこちら……」
『おいこの馬鹿野郎! お前今どこにいんだ!』
電話に出ると、開口一番にそう言われた。この声は……、
「なんだ春輝か」
『なんだじゃねーわ! お前今どこにいんの?! もうお昼なんだけど?!』
「え、ああ、本当だ」
春輝に言われて太陽を見上げると、確かにお昼を少し過ぎたくらいの位置にあった。
『お前昼までに帰ってくるって言ってたよな?!』
「言ったような気もするが……」
『だったら早く帰ってこい! おにぎり作って待ってるからな! 俺が餓死しても知らないからな!』
「なぜおにぎり……」
『俺料理できないの知ってるだろ?』
「いや知ってはいるがそんなにはっきり言わなくても……」
『だったらおにぎり握ってるだけ褒めろ! とにかく! さっさと帰ってメシにすっぞ!』
プツッ、と電話が切れる。
まったく、おちおち花見しながら風景も眺めてられないな、と俺はジャングルジムを飛び降りた。
(終わり)
2025.4.12《風景》
《君と僕》
またあとで書きたい!!
2025.4.11《君と僕》
《夢へ!》
またあとで!!
2025.4.10《夢へ!》