《風景》
暖かい木漏れ日、澄み切った青空、時折風に靡いて視界を奪う枝垂れ桜の薄桃色の花弁。
ここは並木町、天望公園。珍しくなんの予定もなく、とてもいい天気なので俺、齋藤蒼戒は一人、お花見をしていた。
「そういえば桜の木の下には死体が埋まっている、って話があったよな……」
いわく、桜がその死体を栄養として綺麗に咲くとかなんとか。まあ鼻から信じちゃいないが。
とはいえここの桜は本当に死体が埋まっているかと思うほど美しい。
「桜花爛漫、だな……」
いや、桜花爛漫は桜の花が満開に咲き乱れている様を表す言葉だから散り始めの今、この言葉を使うには少し遅いか。
と、たまにはのんびりするのもいいなぁ、と思っていたその時。ポケットに入れたスマホ(置いてこようと思ったが春輝に「ちゃんと携帯しろこのバカ!」と押し付けられた)がブーブー、と鳴り出した。どうやら電話がかかって来たようだ。
「はいこちら……」
『おいこの馬鹿野郎! お前今どこにいんだ!』
電話に出ると、開口一番にそう言われた。この声は……、
「なんだ春輝か」
『なんだじゃねーわ! お前今どこにいんの?! もうお昼なんだけど?!』
「え、ああ、本当だ」
春輝に言われて太陽を見上げると、確かにお昼を少し過ぎたくらいの位置にあった。
『お前昼までに帰ってくるって言ってたよな?!』
「言ったような気もするが……」
『だったら早く帰ってこい! おにぎり作って待ってるからな! 俺が餓死しても知らないからな!』
「なぜおにぎり……」
『俺料理できないの知ってるだろ?』
「いや知ってはいるがそんなにはっきり言わなくても……」
『だったらおにぎり握ってるだけ褒めろ! とにかく! さっさと帰ってメシにすっぞ!』
プツッ、と電話が切れる。
まったく、おちおち花見しながら風景も眺めてられないな、と俺はジャングルジムを飛び降りた。
(終わり)
2025.4.12《風景》
4/13/2025, 9:37:04 AM