谷間のクマ

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《未来図》

「《未来図》、ですか……」
「何々どしたのー? 紅野くん」
 とある日の国語の授業のあと。僕、紅野龍希が作文のお題に頭を悩ませていると、たまたま通りかかった夏実さんが興味津々に声をかけてきた。
「あ、いえ、作文のお題が《未来図》なんですよね……」
「あー、あの選考基準謎の作文ねー。紅野くんは《未来図》だったわけか」
「そうです。夏実さんは?」
「あたしは《ヒーロー》。もう書けたよー」
「早いですねー。ちなみに何書いたんです?」
「昔好きだったヒーローアニメの話」
「自由ですね……。《未来図》って何書けば……?」
「さあ……。もうテキトーでいいんじゃないの? ハルなんて《謎》で心霊現象について書いてたよ」
「何やってんですかあいつは……」
「ハルいわく、『心霊現象も謎のうちだろ!』だってさ」
「ハルらしいと言えばハルらしい……。それじゃあ僕は《未来図》で理想の未来でも書いときますかね」
「将来計画図みたいな?」
「いえ、車で空を飛んでみたいなー、とかそんな感じの」
「ああ、よくアニメとかで見る感じの」
「そうです。いいですよねー、夢があって」
「そだねー」
 とそこまで話したところで『キーンコーンカーンコーン』とチャイムが鳴った。
「あっ、もうこんな時間! じゃあね紅野くん!」
 夏実さんはそう言って慌ただしく自分の席に戻っていく。
 僕は一度作文の紙をしまって、次の授業の教科書を出した。
(終わり)

2025.4.14《未来図》

4/15/2025, 9:43:51 AM