《ひとひら》
桜の花が、散っている。それはまるで、雪のように。
「そっかー、もうそんな時期なのねぇ」
どこからともなく飛んできた、ひとひらの桜の花びらを見て私、熊山明里は呟く。
桜の花の寿命は短く、咲いたと思ったらすぐに散ってしまうのだ。並木町の桜も例に漏れず、早咲きの桜はほとんど散ってしまっている。
「この花びらも、きっとどこかの早咲きの桜のものなんでしょうね」
この辺りには桜はないから、かなり遠くから飛んできたものだと思う。例えば学校のソメイヨシノとか。
「あ、明里、お前髪に桜が……」
並木の桜もそろそろ咲くかしらー、などと思いながらのんびり歩いていると、後ろからそう声をかけられた。
「え、ああ、蒼戒」
声をかけてきたのは蒼戒。私と同じく下校中のようだ。
「ああじゃなくて、桜がついてる」
「取ってよー」
「わかったわかった」
蒼戒はそう言ってそっと私の髪に触れる。
「はい、取れたぞ」
蒼戒が取ってくれた桜の花びらはそのまま風に乗って飛んでいく。
「ありがと。ところであんたの肩にも桜が乗ってるわよ?」
「え、ああ本当だ。さっき学校の桜が散っていたからそこでついたんだろう」
「でしょうね。見事な花吹雪だったし」
「ああ。今日は風が強いから余計にな」
また、ひらひらとどこからかひとひらの桜の花びらが飛んできた。
桜の時期ももう終わりねぇ、と思いながら私は蒼戒と歩き出した。
(終わり)
2025.4.13《ひとひら》
4/13/2025, 5:16:35 PM