ラストが苦手だ。どんな文章を書くときでも。
作文や小論文ならまだ良い。とりあえず最初に話したテーマをまた持ってくれば良いだけなのだから。けれど小説やこういった独白ではそうばかりじゃいけない。
無理に纏めようとすればする程、ただ冗長な文となり延々と終わりが遠のいていく。読み返してみれば文章同士の繋がりも希薄で、何ともまあ、とりとめのないものと化している。
それらはまるで、己の人生そのものだった。
強烈なシーンだけ浮き上がっていて、間にあたるものはすっかり抜け落ちている。そしていつまでもダラダラ、ダラダラと終わりなく駄文を綴っている。
わからないんだ。
物語をどう締めくくれば良いのか、生を全うした肉体がどう朽ちていくのか、魂はどう消滅するのか。
せめて手中の筆先だけでもラストをコントロールしたいものだが、一体どうすれば良いのだろうか。
誰か、教えてくれないか。
小さな頃、冬の日は起きるとすぐにベランダに向かっていた。雪の降る日を心待ちにしていたのだ。
はらはらと雪が舞う日、一面に見える屋根や道路を真っ白に染め上げた日は身支度もそこそこに朝一番に飛び出した。
寒さなんて露知らず、白銀の中で踊る。まるで雪の精霊と戯れるが如く、ひとり笑っていた。
久し振りに、雪が振る日に外へ出た。
雪は今も昔も嫌いじゃない。
服の隙間から雪や北風が入り込んでは身体を冷やしていくのを感じた。
もう、精霊は見えないのだろうか。
別れの際には言うべきではない。
最後に放つその言葉は呪いとなってしまうから。
情と贖罪を伝えてしまえば相手は忽ちに遅効性の毒で苦しむことになる。
真に相手を想うのであれば、冷酷非情に佇むべきなのだ。
呆れられるように、憎まれるように、演じろ。
怒りへと昇華させれば相手は楽になれるのだから。
チンケで噛ませ犬な悪役に徹する。
決して口には出さず、心に留めておくのだ。
ありがとう。ごめん。地獄の様な舞台の主人公様。先にオールアップといこうじゃないか。
少しくらい、恨んでいても良いだろ。
お前の代わりに飲んだ毒が酷く苦いのだから。
諦めと切り替えは早い方なんでね。
お前にも端から期待しちゃないよ。
ほら行った行った。
──それは物真似のつもりか?
目障りだ。
さっさと消えてくれ。
早く忘れさせてくれ。
来る者拒まず去る者追わず。これが昔から変わらない自分のスタンスだ。
用でもなければ自分から話しかけることはないが、相手から話しかけられれば喜んで愛想を振り撒く。付かず離れずの存在だった。
ただ、そうしていると稀に厄介と呼ばれる人物に付き纏われることがある。
こちらの反応など露知らず、一切興味のない話や愚痴を延々とするのみならず、隙さえあれば四六時中隣に居座らんとする奴だ。まあ、こちらとしては害はないのだが。
奴のマシンガンをいなしている間、目を逸らして物思いに耽る。
奴はどうして自分に拘るのだろう。
独りを選ぶ自分と独りにならざる得ない自身とを同一視しているのだろうか。
社交辞令を歓迎と見なしているのだろうか。
人間関係の経験に乏しいが故に、ただのハリボテを友人だと誤認してしまうのだろうか。
このどれか。いや、全てなのだろう。
このぞんざいな態度を見聞きした上で尚も縋り付くその滑稽な様に、なんて難儀な連中なのだろうかと哀れみさえ湧いてくる。
友人達が来た途端に蜘蛛の子の様に散っていった奴の背中を目の端に一瞬うつし、すぐに逸らした。
何故独りを嫌がるくせに多勢に挑もうとしないのだろうか。数をこなせば友人の1人や2人、できるだろうに。
友人から発せられる心配の声。嗚呼それが答えか。
いや、大丈夫だよと本心からの言葉を返した。
あんな関わり方しか出来ない奴等も、そんな奴等に何とも感じない自分も、傍からすりゃおかしいのだろうな。