「一緒の地獄に堕ちよう」と放った言葉に君は頷いた。
輝く光を目に焼き付けながら、同じ場所へ深く深く堕ちていこうな。例え共に居られなくとも。
既読をつけてください。
既読をつけてください。
既読をつけてください。
何でも構わない。呪詛でさえ受け入れるから。
返して。返せ。返してください。
既読をつけてください。
既読をつけてください。
既読をつけてください。
神でも悪魔でも構わない。どんな代償も支払うから。
返して。返せ。返してください。
君を奪わないで。此処じゃなくて良い。
お願いします。君を返して。
既読をつけてください。
ブラウン、イエロー、レッド。
木々を彩るこの三色が秋の代表的な色だろうか。
秋の色といえば、曇天の白が浮かぶ。
夏の曇天は限りなく黒に近い灰色に対し、秋は──というより冬に近付くにつれ、曇天は白く染まっていくような気がする。
生温い空気を揺らす、ひんやりとした風。それ等全てを包み込む淡いグレー。この色こそが秋を代名する色ではないかと。
青の底を望んだ君は黒の中へ消えて、暫くしないうちに、なんでもない顔を覗かせた。雲の隙間、目が合った。刹那、まるで宇宙空間に投げ出されたかの様な窒息感が一気に失せた。
走り疲れた。どれだけ離れようとも着いて来る君と並んで歩くことにした。君は相変わらず遠い空の彼方でにこにことこちらへ笑い掛け、自分もまた、目を伏せ笑う。こちらは君が満ち欠けることを知っている。
薬指の輪を翳し見た。君も同じように翳してみせる。
どんな気持ちで見ているのだろうか。君も、自分も。
ほんの二文字しかない君の名を呼ぶ。呼ぶ。幾度なく。
返事が来るのはあと何度なのだろうか。
君がまた溺れていくのは、いつなのだろうか。
この輪を見上げ続けるのは、どちらなのだろうか。
此処に来れば、何かがあるはずだった。
強い陽射しを耐え、青の境界線を目の前に立ち尽くす。煌めきが揺れているのにも関わらず、取り巻く空気はじっとりとした熱気を帯びたまま、動かない。匂いや音などの五感は遠く、まるで他人事のようだった。
此処には何もなかった。わかりきっていたことだった。
何の理由もないまま、半ば衝動的に向かったまで。単なる自己満足の結果は実に虚しく、視界を埋め尽くさんとする青に嘲笑われている。
己を包み込んだまま微動だにしない空気に、じわじわと蝕まれていく。そこかしこから雫が垂れるも、水分を補給する気にもなれず、暫しの間立ち尽くしていた。
動けなかった。動けずにいた。互いに、夏の風だった。