来る者拒まず去る者追わず。これが昔から変わらない自分のスタンスだ。
用でもなければ自分から話しかけることはないが、相手から話しかけられれば喜んで愛想を振り撒く。付かず離れずの存在だった。
ただ、そうしていると稀に厄介と呼ばれる人物に付き纏われることがある。
こちらの反応など露知らず、一切興味のない話や愚痴を延々とするのみならず、隙さえあれば四六時中隣に居座らんとする奴だ。まあ、こちらとしては害はないのだが。
奴のマシンガンをいなしている間、目を逸らして物思いに耽る。
奴はどうして自分に拘るのだろう。
独りを選ぶ自分と独りにならざる得ない自身とを同一視しているのだろうか。
社交辞令を歓迎と見なしているのだろうか。
人間関係の経験に乏しいが故に、ただのハリボテを友人だと誤認してしまうのだろうか。
このどれか。いや、全てなのだろう。
このぞんざいな態度を見聞きした上で尚も縋り付くその滑稽な様に、なんて難儀な連中なのだろうかと哀れみさえ湧いてくる。
友人達が来た途端に蜘蛛の子の様に散っていった奴の背中を目の端に一瞬うつし、すぐに逸らした。
何故独りを嫌がるくせに多勢に挑もうとしないのだろうか。数をこなせば友人の1人や2人、できるだろうに。
友人から発せられる心配の声。嗚呼それが答えか。
いや、大丈夫だよと本心からの言葉を返した。
あんな関わり方しか出来ない奴等も、そんな奴等に何とも感じない自分も、傍からすりゃおかしいのだろうな。
37度5分の肉と骨を抱いて眠りにつく。ひとより平均が高いのだと君は言っていた。
以前の部屋は欠陥だらけで、夏は暑く、冬は寒かった。
腕いっぱいに眠るそれから温もりを貰っていた。
ピピピと機械音が鳴る。37度5分、風邪をひいたようだ。
今の部屋はエアコンの効きが良い。夏も冬も凌ぐには充分な働きだ。
憂鬱を抱きながら、額に手を当て目を閉じる。
今日はやけに冷えるな。
「お揃いの服が着たい」ということでセーターを買った。
白と黒の横縞に、有名なキャラクターが載ったセーター。どちらも普段全くと言っていいほどに着ないデザインだった。
あれから3年の月日が経ち、衣類整理の際に再び手にした。一度着て、それきり箪笥の奥に仕舞い込んでいたのだった。
何となしに着て鏡を見る。……やっぱり似合わない。
絶妙な太さの横縞は着太りして見える上、ピッタリサイズのセーターはピッタリな故にシルエットがイマイチだ。特にでかでかと印刷されたキャラクターが気に食わないほど合っていなかった。
すぐに脱いで不要と書かれたゴミ袋に詰め込んだ。
あの一度きりの時に見せた君の笑顔は、充足の微笑みだったのか、不格好さを見下す嘲笑だったのか。もう覚えていない。
大抵のことはすぐにわかる。事態を把握し、自身に合った解決策を合理的に導けば良いだけだ。
全てを忘れ、全てを手放す。簡単なことだ。何もかも手放して、特別製のネクタイだって用意した。
頭では充分わかっているんだ。
嗚呼、わからない。
無意識に言い訳をして、他人に愛想を振り撒いて、自分へのプレゼントを棚の奥へと隠してしまう、この感情の対処法が。
宝物は全てゴミに出した。今頃は溶鉱炉に投げ込まれているか、埋め立てられていることだろう。
大切に保管していたつもりだったが、もう必要はない。廃棄すべきだ。
友人だった者、恋人だった者、貰った物、共に買った物。粉々になった硝子は、酷く痛いんだ。
なのに貴女のことは捨てられずにいる。
唯一救ってくれた者、貴女の物。どれだけ傷付きどれだけ液体が溢れ出ようが手放せない。
煌めきが褪せてくれないんだ。