18.静寂に包まれた部屋 黒大?
※オチもクソもないです
月曜日の早朝、祝日なのを忘れて切り忘れていたアラームで目が覚める。せっかくの休日だからと二度寝に興じようとしたが、こういう時に限って眠りに落ちることが出来ない。
仕方が無いからまだ力の入りにくい体を無理やり動かして顔を洗いに行く。5月上旬の今日日、朝はまだ肌寒い。キッチンでインスタントコーヒーをいれ、体を温めつつゆっくりと脳を起こしていく。
窓から射し込んでくる朝日が、閑静な部屋を朱鷺色に照らし出している。30分ほどかけてコーヒーを飲み干した頃には思考もクリアになっていた。
コーヒーの入っていたマグカップを片付けてからは買いだめていた本を読んでいく。昔は趣味として数多の本を読破してきたが、社会人になってからはどうしても読書のような時間のかかる娯楽は避けるようになってしまう。それゆえ、買うだけ買って放置という状態の本が大量に溜まっていた。
昔から追っているとある作家の時代物の小説を読み終わり一息つこうと顔を上げる。日はかなり昇っており、先程まで静静としていた街も祝日ならではの喧騒を完成させようとしていた。改めて次の本に手を伸ばそうとした時、机に置いていたスマホが着信を伝える。最近は電気書籍というものもあるようだが俺は機械類には疎いし、何より紙の本の方が好みなのでなかなか手を出せていない。
スマホを手繰り寄せ画面を確認すると、どうやら黒尾からの電話のようだ。直ぐに通話ボタンを押しながら廊下へ向かう。別に部屋の中でもいいのだが、廊下の方が気の持ちようがいいのだ。
『久しぶりだな』
『そっちこそ元気そうで良かったよ』
黒尾とは高校卒業後も細々と交流が続いていた。とはいえ社会人になり時間の自由がききにくくなってからは直接あえていない。
『え?結婚?』
『残念ながらそういう気配は全くないよ。お前の方こ そどうなんだ』
『ほら、お前もないんじゃないか』
『へえ?アイツが結婚か。それはめでたいな』
黒尾は相変わらずおちゃらけたような雰囲気で話しているが、友人の結婚に電話越しでもわかる程度には浮かれているらしい。
『お前先越されてるけど、そこんとこどうなんだ?』
『そんなもんか。こっちも親からの圧がちょっと気に
なるな』
そろそろ30も見えてくる年齢になると、親から結婚して欲しいという圧がそれとなくやってくるようになっていた。それは向こうも同じようで辟易していると言う言葉が返ってくる。
『それで?なんで俺に連絡よこしたんだ』
『アイツが?俺を?なんでまた』
『まあ、予定はないが』
『わかった。じゃあまた。』
どうやら大学時代の知り合いが俺にも結婚式に参列して欲しいと話しているらしい。ソイツとは大学のうちに何度か会いはしたが、結婚式に呼ばれるほど仲が良いかと聞かれれば、素直に頷くことが出来ない程度の仲である。まあただ黒尾や海とは結構仲良くしていたし、そういった繋がりなのかもしれない。
それにしてもなぜ黒尾が電話をしてきたのは謎である。今まで結婚式というものに参列したことはないが、大抵の場合招待状が家に届くものではないのだろうか。住所が分からないにしてもなぜ黒尾が……。
ぐぅぅ〜
腹が減った。
腹が減っては何とやら。とりあえず昼飯を作ることにする。冷蔵庫を開けて使える食材を物色していく。
そういえば昨日使いきれなかったほうれん草があったな。ベーコンと牛乳もそろそろ消費したい。
野菜室の底で眠っていたパスタを使ってホワイトソースパスタを作ることにした。ベーコンは1センチ幅にカットし、玉ねぎは薄切りにする。ほうれん草は根元を切り落としてから大体4センチ幅に切り分けていく。
下準備が終わると二口あるコンロの片方にフライパンをセットし、贅沢にバターを敷く。玉ねぎをしんなりしてくるまで炒めつつ、もう片方で湯を沸かす。クタクタの玉ねぎがさらに食欲を掻き立てる。
フライパンにベーコンを投入し、いい感じのタイミングでほうれん草、薄力粉、牛乳を入れる。湯が沸いたら塩をいれ、パスタを茹ではじめる。作り慣れていない料理なのに、調子に乗って麺茹でとソース作りの工程を同時に行ったせいで、ソースが少し焦げてしまった。
最後にソースの味をコンソメ、塩コショウで整え、湯掻ったパスタをソースと絡める。少し不格好だがそこそこ旨そうに出来上がった。
このレシピは昔黒尾が教えてくれたものだ。アイツは大概のことはなんでもそつ無くこなすことが出来る奴で、料理も例外なく上手かった。
「澤村は毎日カップラーメンとかお惣菜とかで済まし
そうだから」
なんて言って置いていったおかずのレシピ達は、あまり時間のかからないものが多く重宝していた。
このホワイトソースパスタのレシピは黒尾から貰った最後のレシピであり、記憶には残っていたのだが最近は作っていなかった。
オチはないよ('ω'×)ナイヨー
17.終点 だいやち
ついにこの時が来てしまった……。そう、親への結婚のご挨拶だ。今回は私の母に挨拶をしに行く。結婚相手である大地さんの実家には来週末伺うことになっている。
少し気の強い母のことを思うと母の住むマンションへ向かう足取りがちょっとばかり重たくなる。太陽が見せかけだけの温もりを振りまく中、冷たい北風が吹き抜けていった。
目の前に迫った玄関の扉が、かつては私に家に帰ってきたという安心感を与えてくれるものだったのになんだか恐ろしいものに思えてくる。
緊張して震えそうな足に力をいれ、斜め上に視線を動かすと少し硬い顔をした大地さんの顔が目に入った。
(そっか。大地さんも緊張してるんだな)
そう思うともうちょっと踏ん張りが効くようになったと思う。
「じゃあ、いくぞ」
大地さんの言葉に頷くと横にあるインターホンが押された。いよいよ逃げ出すことも出来なくなってしまった。
暫くすると玄関のドアが開きお母さん……ではなく昔から馴染みがあるお母さんの部下の佐藤さんが顔を覗かせた。その事に驚きつつ、ここに突っ立っている訳にも行かないので玄関に入った。
お母さんは玄関の中にいて、家に入ってきた私たちを一旦は歓迎して部屋まであんないしてくれた。
「はじめまして澤村大地と申します。こちらお好きだと伺ったので」
大地さんは顔に作った笑顔を貼り付けて手土産を渡していた。勧められるままソファに腰掛けるとお母さんと佐藤さんが机を挟んだ反対側に腰を下ろした。どうやら佐藤さんも参加するらしい。
「すみませんが僕も参加させてもらいますね。ああ、僕は佐藤一平と言います。よろしく」
そこから暫くは雑談をして、話も途切れてきた頃を見計らって大地さんが本題を持ち出した。
「仁花さんと結婚したいと思っています。2人の結婚を許していただけますか?」
「わ、私からも……お願いします!」
その言葉を聞くとお母さんの顔が少し険しくなったように思う。
「そうね……。澤村くんは警察官なのよね?私は仁花からまだデザインの仕事は続けたいと聞いているのだけれど、その辺話はできているのかしら。まあそれに限らず今後のことはしっかり詰められているかしら」
「はい。仁花さんの気持ちも共有できていて、仁花さんの気持ちを尊重することになってます」
大地さんは緊張した面持ちでただしっかりとそう答えるとお母さんはこちらに顔を向けてくる。
「私も、警察官の特性だったり不安定さは理解してるし大丈夫だよ」
そう言い切ると、大して喋った訳でもないのにとてつもなくかわいてしまった喉を潤すべく出されていたお茶を飲む。ほっと一息、と落ち着く間もなく新しい問いが投げかけられた。
「確かに互いの思いを尊重するのも大切だけど行き過ぎて疎遠になったり、居心地が悪くなったりしたらどうするの?それこそ浮気とか」
「いえ、尊重するからって放置したり遠ざけたりはしませんし、浮気なんかさせません」
お母さんの発した浮気という言葉に私が反論する前に大地さんが素早く言い切った。
「仁花は私のものだ!ってそういうことかしら」
「ええ、まあ。そういう感じです」
お母さんがニヤリと言う言葉がぴったりな表情でそういうと、大地さんは訝しいといったようにそう答えた。
「なるほどね。じゃあ、あなたは仁花を貰えるわけだけど仁花は何を貰えるのかしら?」
お母さんの言葉を聞き焦った佐藤さんがお母さんをなだめようとする。
「わ、私は大地さんの全部を貰うんで大丈夫です!」
私の言葉にだいちさん含め全員が驚きこちらを見て固まってしまった。
「そ、そう。まあそうね。今日実際あってみても今まで仁花から聞いていた通り誠実でいい人そうだし、仁花が幸せになれるなら私は大賛成よ」
何とか言葉を発したお母さんは1呼吸おいてからそう言って微笑んだ。
「ふぅ」
緊張の解けた私はやっと体から力を抜くことが出来た。ふと視線を感じ横を向くと大地さんがこちらを見て微笑んでいた。
恥ずかしくなってお母さんたちの方を見ると少し泣きそうになっているお母さんを佐藤さんがなだめていた。
「それじゃあ結婚式楽しみにしてるよ」
私たちを玄関まで送ってくれた佐藤さんは笑顔でそういってくれた。
「それじゃあ失礼しました」
外に出ると冷たい北風がふいてきたが、今回は体のうちから湧いてくる暖かさによってあまり冷たく感じなかった。
*******
2人が帰ったあと
佐「僕は大丈夫だ思ってましたけどね」
母「何よ、このこと聞いた時からずっと心配してたく
せに」
佐「円さん、目が涙で潤んでますよ」
16.蝶よ花よ だいやち
前回のあらすじ!
かくかくしかじかのまるまるうまうまでしばらくの間私の住んでいる部屋で主将と2人、ひとつ屋根の下で生活することになってしまったのだ!
ただし前回なんてものは無い!
(そんなこんなで主将と一緒に生活ことになっちゃったけど上手くやっていけるかな……主に私が)
谷地はお風呂に入りながら頭を抱えていた。別に主将が悪い人というわけではなく、他人と2人で生活することが不安なのだ。
谷地がどんなに気を落とそうが世界はいつも通り動き続けてゆく。谷地がお風呂からあがれば1人うなだれている訳にもいかず、朝が来れば学校にも行かないといけないのだ。
人生ほんとに諸行無常と言うかなんというか……。
そんなことをうだうだ考えていると段々のぼせてきた。もうそろそろお風呂からあがらないと主将にも心配させてしまうだろう。
ええい、ままよ!これ以上考えていても何もなさそうだし、申し訳ないけどあとは主将に丸投げしてしまおう。
そう心に決めたまま谷地はリビングのドアに手をかけた。が、やはりリビングに入るのは躊躇われてしまい、そのまま動くことができなくなってしまった。
数秒、はたまた数分後。体感的には数時間が経った頃谷地からは力を加えていないのにドアが開いた。
「うおっ!」
「ひょえっ!?」
突然上から降ってきた声に驚いて谷地は変な声をあげてしまった。
「谷地さんか。どうかしたか?」
「い、いえ!大丈夫であります!」
慌てて上を向くと少し困ったように微笑んでいる主将と目が合った。
「ほら、取り敢えず入りなよ」
「は、はひ」
あまり客人である主将を困らせる訳にも行かないので一旦リビングに入った。そして動揺を悟られないようにリビングにくっついているキッチンに行き水を飲む。頭を冷やすのはコップ一杯の水には荷が重かったようだ。
主将の分の麦茶をコップに注ぎ、主将の座っているソファの前にある机に置いた。
「麦茶わざわざありがとう。あー、あとすまんな。こんなことになって」
「いいいいえいえいえ。そんな、主将が謝ることじゃないですから」
主将とは反対側のソファに腰かけ下を向いていた私が返答しながら顔を上げると短パンにシャツ1枚とかなりラフな格好をした主将が居た。
その格好は男の人に慣れていない私にとっては目に毒というか……。
「にしても谷地さんの服可愛いな。とても似合ってるよ。あと掃除とかものの整理とか谷地さんがやってるんだろ?部屋、すごい綺麗だよな。なんというか大事に育てられたんだろうなぁ」
どこを見ればいいのか分からず視線が迷子になっている谷地に気付いていない主将は次々と爆弾を落としてくる。
その発言は男の人に慣れていない私には(ry
次回予告!
そんなこんなで始まった主将との同居生活!本当に最序盤から限界ギリギリ!これからの生活、どうなっちゃうの〜?
オチなんかないよ。続きもないよ。
15.最初から決まっていた だいやち
10月の某日、中間考査も終わり少し落ち着いていた雰囲気も、文化祭が近づくにつれて活気に溢れたものに変化してきていた。
とうとう明日が文化祭当日となるきょうには、どのクラスもほとんど準備を済ませている。
しかし文化祭本番と同じくらい準備期間というのも楽しいものであり、多くの生徒がこの雰囲気にあやかってはしゃぐなり騒ぐなりしているようだ。
かくいう私もその1人で、段々と打ち解けることが出来たクラスメイトたちと放課後まで残っている。
私たちのクラスは焼きそばとジュースの販売となかなか無難なところに収まりはしたけどやる気がない訳ではなく、みんなやる気に満ち溢れてい。
突然だが私には気になっている人がいる。それは3年の澤村さんだ。澤村さんは私がマネージャーをしているバレー部の主将であり、その大人顔負けの落ち着き具合から部員からすごく信頼を寄せられている。
力尽きたり\( ˙ω˙ )/
14.花咲いて 兎黒大
春休みの、そろそろ桜も咲きそうなそんな時期に俺と木兎は澤村の新しい根城にお邪魔していた。と言っても澤村が東京の大学に進学したのを機に一人暮らしを始めたと言うだけなのだが。ただ実家勢の俺たちからしたらそれは未知の世界であり、お世辞にも広いとは言い難い部屋にもテンションが上がっていた。
澤村の部屋は越してきたばかりということもありものはそこまで多くなかった。俺たちの今いる居間には真ん中に小さめの机と端に本棚やテレビが置かれているばかりである。そんな部屋で男3人が机を囲んでくつろいでいるので部屋はかなり圧迫されていた。
「それにしても澤村がジョーキョーしてくるなんてな〜。てっきりあっちの大学に行くもんだと思ってた」
「まあ実際最後までどうするか迷ったな」
木兎の言葉に意味もなくついているテレビへ傾いていた意識が引き戻される。
「しかも同じ大学だし!澤村が行く大学の名前聞いた時めっちゃ驚いたもん。」
「それ知った赤葦から澤村に伝言で『木兎さんを頼みます』てのを預かってるぜ」
俺の言ったそれを聞いた木兎は「俺にそんなのひつよーねーよ」とさわぎ、澤村は赤葦の苦労を思い返して苦笑している。澤村は元来世話好きなヤツだからそこまで嫌という訳でもないのだろう。
「木兎の世話をしてやりたいのは山々なんだが俺も東京での生活に慣れないとだからそこまで構ってやれないかもな」
「澤村サンたら子供みたいに目を輝かせちゃって、そんなに新生活、楽しみなんですかー?」
目はテレビの画面に向けながら雑な煽りを入れてみれば、澤村がムッとした表情で言い返してくる。
「この季節の新大学生なんてみんなこんなもんだろ。それとも黒尾サンはこんなことも思えないほど心が荒んじゃってるんですか?」
「いやいやー。澤村サンが浮かれすぎなだけですよ」
意味のない言葉の応酬をしていると、テレビを見ていた木兎がふっと呟いた。
「新大学生って言ったらハナガサクってやつか?」
「それを言うならサクラサクだろ」
「しかもそれ合格の電報のやつだし」
俺たちのツッコミにムスッと不貞腐れた木兎はまたテレビに目を向けた。それに釣られるように俺もテレビの方を向くとタイミングよく綺麗に咲いた花が映されていた。どうやら春の花を特集しているようだ。
「まあけどこの時期の将来への希望だったりなんでも出来そうなそんな気持ちはほんとに花が咲くって感じでいいよな」
俺がテレビを見ながらそう言えば、澤村も木兎も嫌そうな顔をしながら「これだからロマンチストな厨二病は」なんて呟いている。これにはさすがに俺も我慢ならない。
「ロマンチストって、これ言い出したの木兎だろ。てか澤村も似たようなこと言ってたし!」
俺がそう反論すればすかさず澤村が応対してくる。
「木兎は何も理解せず言ってただけだろ。あと内容は似てても俺とお前じゃ表現の仕方が全然違うだろ。それに春なんか花粉が幅きかせてて花が咲くじゃないんだよ」
「いや、それスギ花粉でしょ!花関係ないから!あと田舎出身の澤村サンも花粉症の被害者なんですね!意外です!」
「確かにそれは意外だなー。とーだいもと暗しってやつだな」
「「いや違うだろ!」」
〜~完~〜