はなればなれ
あの日、ずっと仲の良かった友人が消えた。それはあまりにも突然で、周りも怪しがると思っていたのに。それに気がついたのは僕だけだった。
はなればなれになったとして、何かが変わるといえばそうでも無いけれど。ただ、友人の記憶が段々と薄れて、思い出せなくなっている。
あと百年経つ頃には、全て忘れてしまっているかもしれない。そんな思考もきっと、いつか消えるのだろう。
高く高く
僕は昔、町にある塔はどこまでも伸びていると信じていた。作り物の空より高く伸びるそれは、空が作り物であることを忘れないための物だと、大人になってから知った。
そして今、その塔は取り壊しが行われている。仕方の無いことだ。作り物の空を本当の空としてこの生活を受け入れる人達が増えたんだから。
でも、その塔に登って遊ぶのは楽しかった。てっぺんから偽りの空を見ることが出来た時の喜びといったら、一生をかけても伝えられないだろう。
そんな物が失われてしまうのが、僕には許せなかった。だから、いつか作るのだ。あの塔よりも、もっともっと高い塔を。
偽りの空を超え、宇宙を超え、この世界の果てを超えるくらい。高く、高く、作るのだ。
たそがれ
たそがれはその昔、誰ソ彼と書くこともあったらしい。今となっては黄昏と書くことも少なくなってしまったが、薄暗くなって、顔も見えないようなそんなロマンチックな時間帯が昔はあったらしい。
夜という概念が消えゆくように、黄昏という時間は、もうこの理想郷には残っていないみたいだ。
きっと明日も
きっと明日も今日と変わらぬ日々。黒い太陽が大地を焼き払って、月が消え去って、青い草が生えている。
嫌なことも、嬉しいことも、全部全部溶け去った。
最果ての地で、きっと明日も君を待つ。
終わりにしよう
「終わりにしよう」
彼女はそう言って笑った。
なぜ、こんなことになってしまったのだろうか。彼女の背後に地面はなく、僕は彼女に銃を向けている。
「なんで、君が泣いてるのさ」
滲む視界で彼女の姿を捉えながら、一歩、彼女へと近づく。
彼女は下がることなく、むしろ一歩近づいてきた。
「私、転落死なんて嫌よ」
一歩、また一歩と彼女は近づいてくる。僕は後ずさることも出来ずにいた。
「ほら、あとは引き金を引くだけ。君ならできるよね?」
彼女の咲かせた花は、これまで見たどの花よりも綺麗で、凛々しかった。