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心と心

「私ね、心がないの」
君は、いつもの貼り付けた笑顔で言った。綺麗な長い黒髪が、月に照らされてキラキラ光った。

「でも今、笑ってるじゃないか」
どう返したらいいか分からなくて、多分、間違ったことを言った。

「うん、そうだね。私いま、笑えてる」
君は先程と全く表情を変えずにそう言った。

「ねぇ、心を分けて欲しいって言ったら、どうする?」
そっと手を重ねて、君は僕の目を覗き込む。彼女の瞳には、間抜けな顔をした僕が映っていた。

「どうって、言われましても」
そう返すと、彼女はコロコロと笑った。

「あはは、心って何か、わかった気がする。ありがと」
何が分かったのかは分からないけれど、君はまた、貼り付けた笑顔で言った。

心と心を繋いで、分け与えるなんて僕には無理だったみたいだ。

12/12/2024, 10:17:52 AM