見知った景色が変わるような気がした。
形は全く変わらないというのに、夜になっただけで別世界みたいだ。
ギラギラ。ピカピカ。ザワザワ。
五感のすべてが疼く街に一歩を踏み出す。
内心、震える心があったが、これはきっと武者震いだ。きっと、きっとそうだ。
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テーマ「夜景」
一匹の蜂が蜜を求めて飛んでいる。蜜蜂は小さく、他の虫たちにさえ存在をせせら笑われるほど気も弱かった。
だが、彼は仕事に対してとても真摯に向き合っていた。
誰も褒めてくれなくても、小さいからと指をさされるような毎日でも、ひたすらに蜜を運んだ。
ある日、とてもいい香りに出会った。
これは絶対にいい蜜があるに違いない。彼は羽をぶん、と大きく鳴らした。飛んで、飛んで、ひたすらに香りのする方へ全力を出した。
やがてたどり着いた場所には自分の体よりも大きな、とても大きな生き物がいた。誰かが呼んでいたが、こいつらはきっと「人間」という生き物だろう。
こわい、けど、蜜を集めなきゃ。
蜜蜂は雑踏を縫うように飛び回る。人間たちは大きさもバラバラだし、それぞれに色も違う。頭の形も違う、蜂とは大違いだ。
そんな人間たちの周りいくらを飛んでも蜂は密を見つけることができなかった。いや、花は確かにあったが、求めていた香りじゃない。
――探し当てるまで巣には帰らないと決意をする蜂は気づくことができないかもしれない。
人間の纏う様々な香りは時に、花よりも馨しいことに。
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テーマ「花畑」
昔から雨が嫌いだった。
でも、なぜだか水たまりは好きで、幼い頃は長靴を履いてはバシャバシャと遊び回ったものだ。
理由は自分にも分からない。ただ、理不尽に己を濡らすものよりも安心できたのかもしれない。
それが今、大人になって逆になった。
水たまりは全て避け歩き、雨は甘んじて受け入れ傘もささず、ぼんやりと空を見上げている。
なんとなく、気持ちいいと感じた。
それは多分、隠したいことを隠さなくてもいいからだと思う。
大人になって思う。雨は都合がいいんだ。
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テーマ「空が泣く」
また明日
それが最後のメッセージだった。
また、なんていつのことを思っていたんだろう。
君の描いた明日はまだ来ていないよ。
寝て起きて、寝て起きてを繰り返しても君のいない世界ばかりが続いていく。
気がつけば一年。今日は君が眠る場所へ行く。
失ってから気が付くなんて僕も馬鹿だったと思うよ。
毎日ずっと君からの最後のLINEを眺めみながら、喉をやくほど飲んで、泣き叫ぶんだ。
会いたいよ、明日が今なら、どれほど良かっただろうか。
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テーマ「君からのLINE」
ひとりのひとを愛した。ただそれだけ。
燃えるような熱い恋、といえれば格好良かったかもしれない。私の恋は一方的なもので、ただの友愛だったのかもしれない。
けれど、どうしても。この世でたったひとりのひとを慈しみ、愛し、尊いと思えた。
だから、守りたいと思った。知られなくてもいい――なんて、独りよがりにも程がある。
「ねえ、まって」
不意に、あなたの声がする。
数事交わして、沈黙。嗚呼、そうか、私も、あなたも、好き同士だったのですね。
胸の奥が、かあっと熱くなる。全身の血が沸騰するような高揚感に足元が浮いてしまいそうだ。
ひとつの恋が結びあい、火を灯した始まりの日のことだった。
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テーマ「命が燃え尽きるまで」