昔から雨が嫌いだった。
でも、なぜだか水たまりは好きで、幼い頃は長靴を履いてはバシャバシャと遊び回ったものだ。
理由は自分にも分からない。ただ、理不尽に己を濡らすものよりも安心できたのかもしれない。
それが今、大人になって逆になった。
水たまりは全て避け歩き、雨は甘んじて受け入れ傘もささず、ぼんやりと空を見上げている。
なんとなく、気持ちいいと感じた。
それは多分、隠したいことを隠さなくてもいいからだと思う。
大人になって思う。雨は都合がいいんだ。
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テーマ「空が泣く」
また明日
それが最後のメッセージだった。
また、なんていつのことを思っていたんだろう。
君の描いた明日はまだ来ていないよ。
寝て起きて、寝て起きてを繰り返しても君のいない世界ばかりが続いていく。
気がつけば一年。今日は君が眠る場所へ行く。
失ってから気が付くなんて僕も馬鹿だったと思うよ。
毎日ずっと君からの最後のLINEを眺めみながら、喉をやくほど飲んで、泣き叫ぶんだ。
会いたいよ、明日が今なら、どれほど良かっただろうか。
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テーマ「君からのLINE」
ひとりのひとを愛した。ただそれだけ。
燃えるような熱い恋、といえれば格好良かったかもしれない。私の恋は一方的なもので、ただの友愛だったのかもしれない。
けれど、どうしても。この世でたったひとりのひとを慈しみ、愛し、尊いと思えた。
だから、守りたいと思った。知られなくてもいい――なんて、独りよがりにも程がある。
「ねえ、まって」
不意に、あなたの声がする。
数事交わして、沈黙。嗚呼、そうか、私も、あなたも、好き同士だったのですね。
胸の奥が、かあっと熱くなる。全身の血が沸騰するような高揚感に足元が浮いてしまいそうだ。
ひとつの恋が結びあい、火を灯した始まりの日のことだった。
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テーマ「命が燃え尽きるまで」
空腹に目が覚めた。
鈴虫が鳴き、リンリンと小さな声が絶え間なく聞こえてくる。どうやらまだ陽は登っていないらしい。遮光カーテンの外はまだ薄暗いようだ。
時間は――嗚呼、まだ早い。でも、腹が減った。
寝返りを打ち、深呼吸をひとつ。ふたつ。みっつ。
ぼんやりと天井を見遣り、目を閉じる。
空腹よりも重い瞼が落ちてきて、感覚も泥沼に沈んでいくみたいだ。
おやすみ世界。ぼくはまだ夢の中にいたい。
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テーマ「夜明け前」
例えば、土砂降りの坂道を転がり落ちるような痛みさえも心地よかった。
なにもかも、すべての感覚を愛おしく思えた。
本気だった。
後ろ指を刺されても、影口を叩かれても、なんでもいい。
愛した人に笑ってほしくて、ただ悲しんでほしくなくて。
結果、君のとなりが僕じゃなくても全然いい。
だってこれは、最初で最後の本気の恋だったから。
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テーマ「本気の恋」