スリル 枠だけ失礼します
「平和が1番だわ」
「どうしたんですか急に…」
「……ちょっと前までは人生退屈だったんだよ」
「17でしたっけ?早熟なお子様ですねぇ」
「うるせぇわ16歳」
「自分の方が誕生日早いからって貴方……」
とべないつばさ
とべないつばさになんの意味があるのでしょう
とべない鳥にどんなみらいが待つのでしょう
こわい猫にとられた風切羽
誰に聞いても見つからない
よるがくるよよるがくるよ
とべないとりはにげられない
にげてにげて 遠くへ遠くへ こわいやつが来ないところまで
(引用・たすけてかみさま 23ページ)
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「……ねぇこれラストどうなんの」
「かみさまを嘲笑った罰としてあらゆる災難がふりかかる鳥の話だすか?それとも主人が創造主に逆らったため真っ先に猫にとられた不憫な風切羽の話ですか?」
「そっち目線もあんの…?」
「ありませんわよ。鳥ですね……思い出せません、読んだ後でいいので回してください」
「やだよ俺この先読みたく無い!!怖い!!ハッピーエンドが確約されないと読めない!!」
「勧善懲悪、自業自得の絵本ですので……ラスト、どうなりましたっけ……読んだ覚えはあるんですのよ、表紙に見覚えがありますから」
「今すぐ思い出してお願いそして俺を安心させてくれ」
「無茶苦茶いいますわね……一旦閉じてもいいのでは」
「やだよ怖い!離れてる間にバッドエンドになったらどうするんだよ!!このまま読む!!」
「無茶苦茶言いますわね……」
彼が一年以内に柳谷邸の本を全て読み切ると宣言のは3日ほど前だったか。それまで文学作品というものは学校の教科書でしか触れなかったと言う彼。漫画も絵本も新鮮らしく、蔵にあった本を出せば目を輝かせて喜んだ。
読書は良いものです。時間を忘れるほど没頭するのも悪いことでは無い。呼べば切り替えるし。
ただまぁ、バッドエンド嫌いというか。ハッピーエンド至上主義というか。ご○ぎつねとか読んだら泣きすぎて脱水症状になりそうですわね。隠しておかねば。
「そこから先の展開、思い出したから話しますわよ」
「ネタバレ無しで頼む」
「無茶苦茶言いますわね……!!」
「ハッピーエンドかどうかだけでいい、詳しい話は無しで」
「……バッドエンドですわよ、って言ったら読むのやめます?貴方」
「……考えてなかった」
そんな事だろうとは思っていましたけれども。
「ハッピーエンドか、と問われれば違うと思いますわね。でも救いはありますの。そういう結末ですわ」
「……とりあえず読むか」
「それをお薦めします」
続きを読み始めたのを確認して、自分の手元に視線を移す。豆の潰れた、硬い掌。
嘲笑。罰。罪。
加害者。被害者。
善因善果、悪因悪果。
『あるところに鳥がおりました。
鳥は誰より早く飛び、誰より高く飛び、誰より美しく飛びました。誰より自分が優れていると思っていました。
「君はいつものろまだね」
「そんなに低い所にいて悔しくない?」
「醜いね。生きてる意味とかある?」
友達なんていませんでした。
みんな鳥が嫌いでした。
鳥もみんなが嫌いでした。
優れた自分を愛さない他者など、いない方がマシだと思っていました。
あるとき、鳥が住んでいる山に大雨が降りました。
なんにちもなんにちも降り続け、やがて川が氾濫し、洪水がおきました。
『たすけて!』
鳥は誰かの声を聞きました。巣から見下ろせば、狐の子が泣いています。河岸には母親。どうやら川に落ちてしまったようです。キツネの子はまだ小さいので、あのくらいなら背中に乗せられるかも。鳥は助けませんでした。「俺が飛んでいる姿を褒めなかった罰さ」
母親が飛び込んで助けに向かった頃には冷たくなっていました。母親も河岸に戻れず溺れてしまいました。
『たすけて!』
鳥はまた誰かの声をききました。今度はうさぎのお爺さんが泥沼に落ちてしまったようです。お爺さんはひょろひょろなので、鳥が咥えて飛び立てば沼から出られるかもしれません。しかし鳥は助けませんでした。
「昔、俺に恥をかかせた罰さ」
お爺さんは昔、とっても高く飛び跳ねることができたらしいのです。鳥よりも。鳥は仲間に自分が一番高く飛べると自慢したことがあるのですが、鼻で笑われてお爺さんのことを教えられました。
この山1番の跳躍力でさっさと抜ければいいのに。そのまま沈んだら今度こそ自分がこの山の1番になる。鳥はそう思ってお爺さんを助けませんでした。』
鳥はそうやって山の仲間を見殺しにしていく。
罰だとか、仕方がなかったのだと言い訳しながら、ひとりひとりを助けない。
そうして、同族も親戚も、両親すらも見捨て、鳥は一羽で笑うのだ。
『さて、うるさい奴らが1人もいない。なんて清々しいこころ。おれがこの山でいちばんえらいぞ。』
災害が過ぎ去った山には一羽の鳥しかいなくなった。
そこへ新たな動物が訪れた。
痩せぎすの猫であった。
『やぁ、ちょっと向こうの山が崩れてしまって住処がなくなってしまった。この山に移住してもいいだろうか。』
『やだね。この山はおれのものだ。ほかの誰にもわけるもんか。崩れるような山に住んでたおまえがわるい』
どうしてもこの山に住みたいならば。
毎日おれに飯をもってきて、
毎日おれをほめたたえ、
毎日俺の言うことを全部聞け。
それができるなら許してやろう。
猫は黙って聞いていた。
暫く考え込んだ後、にっこりと笑った。
『お前はそれを選ぶのだな』
選ぶのはお前のほうだろう。
そう言いかけた時、翼に鋭い痛みが走りました。
みれば猫の口元には風切羽。鳥のものでした。
『お前の評判は二山向こうまで轟いておる』
『矜持ばかりが立派で、誰かを思い行動する心がまったくない』
『他者全てを見下して、1人王様のような顔をしている』
『お前が同じ山のものを見捨てていたのをみていたよ、恩のあるものもいただろう、なぜ助けなかった』
『そんなもの知ったことか、俺は俺がしたいようにしただけだ。おれが1番偉いんだ、この山はおれのものだ』
『』
後日加筆します
すすき
「団子はねぇの?」
「お月見は先々月に終わりましたわよ」
「…………いやススキあるなら団子がセットだろ?」
「お花見はお弁当がないとできないと思ってる人ですわね」
「だって花瓶にススキ飾るんだろ」
「行事がなくても花瓶に植物飾りますわよ」
「団子は」
「お腹減りましたか」
「いやだって団子があると思ってたから……」
「あると思っていたものがどこにも無いと分かった時の虚無感って大きいですよね……」
ぐう、と腹の虫が2人分。
夕日が差し込む廊下に伸びる影も2人分。
「台所になんか無いか…?」
「つまみ食いは減点30ですわよ!!」
「それたまったらどうなんの?飯抜き?」
「明日の朝のココアがなくなります」
「思ったよりしょぼい罰だった」
「マシュマロ入りですのよ!!」
「じゃあ俺だけで行くからいいよ」
「ずるいですわ尾上君だけ!!私もお腹が減りました!というか貴方のせいですわよ!お団子お団子って言いましたもの!」
「どっちを取るんだよ、今日のつまみ食いか明日のココア」
「諦めませんわ、両方です!」
「嫌いじゃ無いぜその強欲」
台所を目指して廊下を進む。笹本さんはまだ買い出しに出てるからつまみ食いなら今のうちだ。バレなければバレない。
玄関に差し掛かったところでガラリと戸が引かれた。
帰ってくるの早すぎだろ!?血の気が引いたが、そこに立っていたのは意外な人物だった。
特徴的なうねりの赤い髪、首に墨色のヘアバンド。
「何悪巧みしとんねん……」
「あ、蛸嶋君だ」
「蛸嶋君こんにちは」
「挨拶できて偉いなァ、ちゃうねん、俺は石蕗さんに頼まれて来たんやけど…おらんの?」
「呼んだら来ますわよ」
「柳谷女史だけやろそれ」
「何持ってんの蛸嶋君、団子?」
「よう分かったな!?エスパーか自分」
「マジ!?!?」
「あ、LINEきた…『お疲れ様です、お嬢様と尾上君と分けてください』……いやなんやのあの人急に団子買って来て欲しいて…」
「え、俺ら食べていい団子?」
「巧妙な罠かも知れませんわよ尾上君、油断大敵ですわ」
「自分なんやとおもてんねん…あ?ススキなんに使うん、月見?団子ってこれか?」
「ここにも月見にススキ派が」
「石蕗がOKだしたなら減点なしですわね」
「団子やるから場所貸してえな。月見すんやろ、縁側行こうや」
「月見過激派だ」
「文句言うなら団子無しやぞ」
「蛸嶋君万歳!」
「よッ、月見奉行!」
「初めて聞いたわその呼称」
その後、縁側にブランケットを広げ花瓶と団子を並べ、月が出るのを待った。新月の日だったのでススキを見ながら団子を食べて終わった。
「俺ら何するって話してたんだっけ」
「ススキを見る会では?」
「寒い」
「お嬢様、カロリーオーバーですので明日のココアは無しです」
「さ、笹本ぉ!?そんな殺生な!!」
「無しです」
いみがないこと
「うふ。それはまた、おかしな話ですのね」
『返す言葉もない。柳子さん、』
「いいんですの、そんな気がしていましたので。ええ、お気になさらず」
にこやかに和やかに穏やかに朗らかに。
しかしお嬢の声色は硬く冷たく氷点下である。
表情も感情が抜け落ちたひどいものだ。
『この埋め合せは必ず』
「……物を贈るのはもうやめていただいて結構ですのよ。無理をさせているでしょう。高価なものは扱いに困りますし、持つべき人は他にいますわ」
『私は、君に似合うと思ったから、君につけてほしいと思って』
「うふ。戦場で?」
『柳子さん』
「戦場は言いすぎました、訂正します」
『そんな事はない、ですよ』
「でも冥土には持っていけませんのよ」
モノも、お金もいらない。
心一つしか持って行けない。
「なんて、これが最後の会話になるのはいけませんわね」
『……申し訳ない』
「良いんですの、この日の為に用意したサンドイッチもケーキもお紅茶も、みーんなうちのもので食べてしまいますので!京志郎様はのど飴とみかんと生姜湯でも飲んで健康に備えてくださいまし。体は資本ですわよ」
『あれ、まだそんな兆候ないんですが。声とか風邪っぽいですか』
「少しだけ鼻声かと。忙しさも立場もあるとは思いますが、ご自愛くださいな」
『敵いませんね』
「女性の洞察力を甘く見てはいけませんわよ」
『肝に銘じます』
「よろしい。では息災で。愛していますわ、京志郎様」
『柳子さんも怪我や病気に気をつけて。僕も愛しています、柳子さん』
ツーツー、と通話終了の音がする。
ガチャリ、とお嬢はそこで受話器を置いた。
「さて尾上君、オヤツの時間ですわよ」
「いや食い辛いわ」
「数時間前まではあんなに食べたがっていましたのに…」
「昨日の夜からなんかウキウキで準備してたから…ローストビーフのサンドイッチとかあるし…」
「メインのお客様が欠席ですからね、片付けませんと」
「…………いつもこうなのか?」
「そうですね、ざっと10年ほどですわよ」
「最後に会ったのいつ!?!?」
「10年以上前ですね」
「そんなサラッと……」
「事実ですもの」
「悲しくねぇの?」
「悲しいし寂しいですわ。今度こそ会えるかもと期待しながら準備しますし。」
「浮気とかじゃねぇの」
「昼ドラの見過ぎでは…?」
「だって10年て、同年代だよな…?何でそんな忙しいんだよ」
「椿財閥の直系ですし、忙しさはお互い様ですので。」
「どこの何?」
「興味ない範囲の話と自分に関係ない話って本当に知らないで生きてますよね。椿財閥は医療系への出資や研究を主に経済を回す財閥です。柳谷も傘下ですわ。」
「……結構デカいとこ?」
「それなりに」
「なんでお嬢がその…椿の直系の婚約者に、って話になんの?」
「父同士の仲が良かったそうで。現代だと家同士の格とかそこまでありませんし」
「……勝手に自分の将来の相手を決められるの、嫌じゃない?」
「私達お互いが初恋の相手ですので。」
「都合良すぎだろファンタジーかよ」
「顔合わせの時ダメならまた考えよう、程度の事だったと思いますわよ、今回はうまく行ったというだけで」
「はーん…」
「ピンとこない顔をしていますわね……」
「ピンとこないから……」
「さ、石蕗と笹本も呼んでお茶会です、今回も自信作なのできっと喜んでくれると思いますわ」
「めっちゃ準備してたもんな」
「ええ、次回はもっと美味しく作ります」
「……嫌いになんねぇの?」
「運が悪かっただけですので。それに京志郎様の心を信じていますから」
寂しさの翳りをまったく見せない笑顔でお嬢は言う。
「例えずっと来れなかったとしても、私はずっと待つだけですし、その期間は無意味なモノではありませんのよ」
あなたとわたし
後日書きます!!枠だけとらせていただきますー!