君とみた虹
「お、天気雨」
「狐の嫁入りとも言いますわね」
「占いできるやつだろ、最近覚えたぞ」
「蛸嶋くん宅の本にありましたね」
「なんでもあるよなあの家…核シェルターもありそう」
「………通信販売にこってますよね、彼」
「へんなのばっかり買うよな」
「土産物屋でも使い道が不明なものを選びますよね」
「お面の部屋入ったことある?」
「蛸嶋家七不思議、「北側2階の突き当たり」の話なら聞きませんわよ」
「バカでかいアサリの貝殻で作ったお面てのがあってさぁ、被ってみたら取れなくなってよ」
「私のいないところで大事件が…」
「開き直って嗅いでみたんだよ」
「…………どうなったんですの?」
「味噌の匂いした」
「それで?」
「『酒蒸しがいいな…』って溢したら取れた」
「よかったですわね…」
「今からでもさぁ、あのお面からなんとかしてバカでかいアサリとれねぇかな……お嬢もくいてぇだろ、でかいアサリ」
「多分その部屋に入れたのもそのお面にであったのも完全に運だと思いますわよ、2度はないかと」
「ダメか…」
「あと私どちらかと言えばホタテの方が好きなので」
「ホタテも…うまいよな…」
「虹が出てますわよ尾上君、何かおねがいごとしますか」
「今日の晩御飯海鮮がいいです」
虹を見ると思い出すあの日の君と晩御飯
明けない夜は無い。
そして夜明け前が最も暗い。
希望はいつだって、私たちの胸の内にあるのだ。
夜をかける陰陽師なら、この言葉を忘れたことは無いだろう。
気休めに過ぎないと思っても縋らずにいられない瞬間があっただろう。
夜は妖の、化け物たちの時間だから。
私達はその中で戦って生き残らねばいけないから。
例えどんな巨悪が私たちの前に立ち塞がろうと。
一夜ずつ乗り越えていくしかないことを知っているから。
この先もずっと繋いでいく。
そうして、いつのまにか迎えた朝が、なによりも眩しいのだ。
静かな夜明け
えいえんのはなたば
1番になろうとしなくても、あなたは最初からたったひとりの特別な存在である、そんな歌がある。
後日加筆します
おわらないものがたり
冗談じゃねぇ、と思う。
終われよ物語なんだから。
めでたしめでたしでいいだろ。
俺たちの戦いは永遠に続く、だなんてそんなのは。
そんなのは、酷いじゃないか。
「ねぇ尾上君、大学生って何するんですか?」
「……サークル活動、飲み会、あと何…しらん…まだ高校生だし俺…」
「言い方を変えます、尾上君、大学生になったら何したいですか」
「まず入学式で爆睡だろ、そんで隣に座った奴と友達になりたい、どの講義取るってぐだぐだ言いたい、あとゲームわかる奴と友達になって放課後マックでだらだらしたい、成人したら酒を飲みたい」
「勉強は?」
「するわ!!いや勉強は1人でも出来ないことないだろ、まぁ限界はあるけどさ……あの大学じゃねぇといない先生とか講義とかあるし。でも同年代と同じ場所に通うって久しぶりだし俺の大学生のイメージがそんな感じってのもある」
「まぁ私も大学行ったこと無いのでその辺りわかりませんけど」
「高校生の考える・知ってる大学ってそんなもんだよな」
「でも楽しそうですわね、よいことです」
「入学前からネガはねーな」
「うふふ」
入学前、大学合格後に出された課題に四苦八苦してる俺といつもの通り護衛のお嬢。あと2ヶ月で俺は柳谷邸を出る。
笹本さんから家事を教わり、石蕗さんには物件選びを手伝ってもらい、お嬢から対怪異妖あれそれを、蛸嶋君から家具家電の選び方やなんかを教わっていたあの頃。
出会った当初と思えばオバケとの遭遇率がかなり低かった。
体質がマシになったのかと思っていたが多分そんな事はなく。
あれは裏でたくさんの人が頑張ってくれていて、あと俺もちょっとした事なら自分で対応できるようになったから騒がなくなったんだと思う。
穏やかな日々だった。
俺がテキストを進める傍らで編み物に精を出すお嬢、時折挟まれる雑談。あと2ヶ月で失われると知っていたけれど、最初から知っていた別れはさほど寂しく無い。
「大学、楽しみですわね」
「お嬢は大学どこ行くの?」
「私進学しませんよ」
「……マジで!?」
「色々事情がありまして。このまま陰陽師に就職ですし」
「陰陽師には大学ない的な…」
「宗教的な大学はありますが、まぁ私達所属してる所が所ですからね…一般的な大学にはいきませんわね」
「最終学歴高校!?」
「陰陽師就職には支障ありませんから」
「あぁまあそっか…そうだよな」
「これからも、尾上君達が平和な生活を送るのをお手伝いしますわよ、まぁ日の目は見ませんけれど」
「そりゃ心強い」
「そう言ってくださって何よりです」
それから新居に入るまで柳家邸に世話になって。
大学入って会わなくなって。
一緒に入学した五月君もそこまで見なくなって。
大学卒業して。
入社した所がわりかしやべぇとこで。
今もきっと、この闇夜にかける星のように。
人知れず人を助ける人々がいるのだと。
最初から道は分かれていた。
そっちは俺の道じゃなかった。
もう何も知る事はできないけど、
どうか穏やかな日があればと願うよ。
やさしいうそ
枠だけしつれいします