さんそ
無いと困る癖にありすぎると若干手に余ること
後日加筆しまう
ただ君だけ
「陰陽師かくあるべし」、からなる54ヶ条。
怨霊に対しどう立ち向かうべきか、
弱者とは何か強者とは何か。
何をもって戦い何をもって負けるのか。
そういう細々した埃臭いあれそれが54個もある。
「ぶっちゃけ面倒くさい」
「私暗唱できます」
「だろうな」
「暗唱できるだけですわ、何の為に刀をとるのかまであの決まりに預けておりません」
「意外と不真面目だったんだなお嬢」
「迷った時初心に立ち帰る為のものだと思っていますので。」
道標です、とお嬢は言う。
自分の行動に迷いが出た時。信念が揺らいだ時。
誦じることが出来る絶対のルール。
先人の教え。
「自分が何の為にあるか、何の為に命を使うのか。自分で決めていいんですのよ」
それなら俺は。あの日みた光を守りたい。
きっとこの先もそう思うのは、ただひとりだけなんだろう。
静かなる森へ
生きているものは総じて音がするものである。
息遣いから鼓動から足音から、全て。
ねむる時さえいびきをかく。寝息も。寝相があれば音がある。
音のないものは死体だけ。
もしくは、物理干渉のできない妖霊だ。
不気味なくらい音がしない山中に俺たちはいる。
「と言うわけで本日の舞台はこの森ですわよ」
「帰らせて……帰らせて……」
「熊が出たとの通報でしたが、話を聞けば大型の獣霊だと判断されました。獣霊の退治方法は?」
「まだ習ってねぇ」
「そっか尾上君まだ名前もないですもんね……私はいつ習ったんだったか…」
「退治方法は?」
「祓魔術式を施した武器での殺害、いえすでに死んでいるのですが……おそらくまだ自分が死んだことを理解していないのではと」
「除霊じゃないのか?」
「死んだことをわからせるためにもう一度殺します」
「そしたら成仏すんの?」
「すれば終わりですね。しなければ終わりではないですが」
終わらなければどうするのか。舗装されていない獣道を進みながら会話する。ところで相手が何処にいるとかわかってんの?
猟銃を入れた鞄を緩く持ち上げるお嬢。
「倒れなければ倒れるまでやるだけですのよ」
自分が死んだと、ここで終わりなのだと分かればおわる。
人間の霊のほうが話が通じる分楽ではないか、と一瞬思ったが口に出すまい。駄々を捏ねまくり悪霊に転化するものもあると聞いたことがある。
「俺の仕事は?」
「空間に慣れること、人以外の息遣いを感じること、自分の安全を確保すること……いろんな防具はつけましたよね?」
「重いから置いてきた……嘘だよ嘘」
「笑えない冗談ですわ」
「すみませんでした」
死んでても相手は熊である。防具全装備でも死ぬときゃ死ぬだろうが無いよりマシだ。
「まぁ何があっても傷一つつけるつもりはありませんけれど」
生きようとしなければ意味がありませんからね、と続けられた言葉がうまく頭にはいらない。なんでこの人こんなサラっとさぁねぇ言えんのそう言うこと。
「目標発見、それでは祓魔を開始します」
瞬きの後には誰もいない。そして響く銃声。
その後まだ木が倒れる音と金属音に震える空気。
倒れなかったか。俺たちと熊以外この山にもう生き物がいない。
人里に降りる前にここで止める。
明日の朝には全て元通り、とまではいかないかもしれないが。
静かすぎる森から、静かな森に戻ることだろう。
遠くでメキメキメキメキ、と木が倒れる音がする。
うん、ハゲにならないといいな、と思いました。
ゆめをえがけ
「この俺に将来の夢を考えろと」
「おにぎりほしい!とかでもいいんですのよ」
「それお嬢が今食べたいんじゃなくて?」
「私はどちらかと言えば柏餅が良いですね……今年は食べ損ねてしまったので」
「……お嬢に美味しい柏餅が届きますように、と」
「七夕さんじゃありませんのよ」
んなこと言ったってよ。
当たり前に生きてきた日常は全て夢幻で、人間の恨みつらみ害意悪意虚をじっくり煮込んだあれそれを摂取し続けはや半年。
つまりは「対妖霊組織・白咲」に拾われてから半年。
常識ひっくり返されて対応するのが精一杯だわちくしょう。
まぁ半年もあったんだけど……いやねぇよ。俺3ヶ月くらい意識なかった時期あったもん。修行期間もそれくらいなかったか。どうだっけ。とにかくいっぱいいっぱいでんな余裕がねぇ。
「今はまだわかりません、でもよいのでは?こうなりたいです、が自分の中で定まっていれば話は別だと思われますけれど……なんですの、私の顔に何か……虫とかいますか?」
「………………なんもついてねぇよ」
「ならいいです」
どうなりたい。それなら。
「お嬢て祓魔検定何級だっけ?」
「準二級ですわよ。ついでに術師階級は下から四つめです」
「あんがと。じゃ祓魔検定二級と……術師階級下から5番めはなんてったっけ?」
「肆儀ですね」
「じゃあそれ」
あの日。妖霊に喰われる5秒前の俺を助け出してくれたヒーロー。
たったひとり、あんなでかくてやばそうなお化けを一刀両断してみせた、お嬢。あの日のアンタを超えること。
それが俺の、当分の夢です。
届かない……
「なんの話?宅配クソパリシリーズ?」
「いえ、赤外線で水素水を生み出すキカイというのが当選したらしく、おまけで五千兆円振り込まれるらしいのですが、メールが届いて早3ヶ月、音沙汰なく……まぁあっても困るのですが」
「迷惑メール欲張りセットだ!!メール見せてお嬢、なんかした?」
「何もしてませんわー!登録してる方以外のメールは開かない約束ですので!」
「本当に?返信もしてないしアドレス開いたりもしてない?」
「……………はい!」
「今の間なに?」
「英語は、苦手ですので……多分していませんわ、としか」
「クソーッこの程度の用語理解が微妙なお嬢には何もできないと言いたいけどうまく誘導されたら言い切れないのが悔やまれる」
「大丈夫、不届者なら切り伏せます」
「できりゃ苦労しないよなこの時代……」
ネット越しの悪い奴を全員どつけたらな〜って話
詐欺嫌い