しるべにねがうは

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すすき

「団子はねぇの?」
「お月見は先々月に終わりましたわよ」
「…………いやススキあるなら団子がセットだろ?」
「お花見はお弁当がないとできないと思ってる人ですわね」
「だって花瓶にススキ飾るんだろ」
「行事がなくても花瓶に植物飾りますわよ」
「団子は」
「お腹減りましたか」
「いやだって団子があると思ってたから……」
「あると思っていたものがどこにも無いと分かった時の虚無感って大きいですよね……」

ぐう、と腹の虫が2人分。
夕日が差し込む廊下に伸びる影も2人分。

「台所になんか無いか…?」
「つまみ食いは減点30ですわよ!!」
「それたまったらどうなんの?飯抜き?」
「明日の朝のココアがなくなります」
「思ったよりしょぼい罰だった」
「マシュマロ入りですのよ!!」
「じゃあ俺だけで行くからいいよ」
「ずるいですわ尾上君だけ!!私もお腹が減りました!というか貴方のせいですわよ!お団子お団子って言いましたもの!」
「どっちを取るんだよ、今日のつまみ食いか明日のココア」
「諦めませんわ、両方です!」
「嫌いじゃ無いぜその強欲」

台所を目指して廊下を進む。笹本さんはまだ買い出しに出てるからつまみ食いなら今のうちだ。バレなければバレない。
玄関に差し掛かったところでガラリと戸が引かれた。
帰ってくるの早すぎだろ!?血の気が引いたが、そこに立っていたのは意外な人物だった。
特徴的なうねりの赤い髪、首に墨色のヘアバンド。

「何悪巧みしとんねん……」
「あ、蛸嶋君だ」
「蛸嶋君こんにちは」
「挨拶できて偉いなァ、ちゃうねん、俺は石蕗さんに頼まれて来たんやけど…おらんの?」
「呼んだら来ますわよ」
「柳谷女史だけやろそれ」
「何持ってんの蛸嶋君、団子?」
「よう分かったな!?エスパーか自分」
「マジ!?!?」
「あ、LINEきた…『お疲れ様です、お嬢様と尾上君と分けてください』……いやなんやのあの人急に団子買って来て欲しいて…」
「え、俺ら食べていい団子?」
「巧妙な罠かも知れませんわよ尾上君、油断大敵ですわ」
「自分なんやとおもてんねん…あ?ススキなんに使うん、月見?団子ってこれか?」
「ここにも月見にススキ派が」
「石蕗がOKだしたなら減点なしですわね」
「団子やるから場所貸してえな。月見すんやろ、縁側行こうや」
「月見過激派だ」
「文句言うなら団子無しやぞ」
「蛸嶋君万歳!」
「よッ、月見奉行!」
「初めて聞いたわその呼称」

その後、縁側にブランケットを広げ花瓶と団子を並べ、月が出るのを待った。新月の日だったのでススキを見ながら団子を食べて終わった。

「俺ら何するって話してたんだっけ」
「ススキを見る会では?」
「寒い」
「お嬢様、カロリーオーバーですので明日のココアは無しです」
「さ、笹本ぉ!?そんな殺生な!!」
「無しです」

11/10/2024, 11:55:51 AM