お題 自転車に乗って
「じてんしゃ、に乗れるんですのね、貴方」
「まぁな」
「どこでなら乗れますの?」
「お前は乗れないの?」
「違います私はほらあの、定期券?もICカードも買ったことありませんもの仕方がないでしょう…?」
「……自転車に定期券もICカードもいらねぇだろ」
「……えーと、免許がないので。15歳ですし」
「そういや俺も持ってねぇな。やべ」
「む、無免許ですの!?!?いえ、敷地内!敷地内でぶいぶい言わせていたのでしょう!?」
「いや公道も走ったし隣の家の庭も横切ったし」
、
ねむかにまけまして後日加筆します
お題 心の健康
健康とは。健やかであること。穏やかであること。患っていないこと。虚でないこと。何もかも満ち足りて不足のないこと。
常日頃心がけを推奨される健康というものは意外と面倒臭いものである。そんな完璧なものまず無理だろ。最近では身体に飽き足らず精神面、心の健康なる言葉まで出てくる始末。
妥協しとけよ。何日か前のお題で「上手くできなくたっていい」、だったじゃないか。生きてりゃどこかしら病むわ。7割元気ならそれで良くないか?だめか。
逆に体がダメでも気力、精神面は元気なんだからいいだろ?病は気からって言うじゃないか。気が元気なら病にはならないだろ?ダメ?そこをなんとか。
「矢車殿、その辺で。看護師さんが困っていますわ」
「柳谷のお嬢じゃねぇの、奇遇だなこんな所で」
ここらじゃ見ない制服は隣の県の私立のでかい学校のものである。
幼稚園から高校までエスカレーター式、日本中のお嬢様が集う女子校。編入組がちらほら。彼女の潜入先である。
ラノベでしか見たことねぇぞこういうシルエットのヤツ。
いかにもお嬢様、といったそれは彼女によく似合う。
奇遇、のあたりで不服です、と言いたげに頬を膨らませる。
童顔も相まって完全にガキである。中学生はガキだが。
「明日付で出さなければいけない書類がありまして。ハンコと署名をいただきに」
「はぁん。学校お疲れチャンだな」
「…………普通の学校って初めてですので。大変興味深く」
通常の教育機関に通ったことのない彼女である。今回のそれは通常じゃねぇのよ。俺も保護者役で一回入ったけどあれは普通じゃねぇんだよ。俺が中学生の時なんか校舎のガラス全部割れてたし。
落書きし過ぎて壁の色わからんレベルだったし。
それはそれでだいぶ普通からかけ離れてる?ははは、まさか。
免許取り立てのバイクで走り回って、ツーリング中迷い込んだ森で助けてくれたのが俺の師匠である。
それはそれとして。
「本音は?」
「常時帯刀は出来ませんし周囲の目線がうるさいですしこの口調をからかってくる人は後を立ちませんし!興味深いのも嘘ではありませんけれど!精神的苦痛の方が!100倍はありますわー!!」
ワ!と両手で顔を覆って俯く彼女だったが泣きはしない様だった。疲れてんな。疲れ過ぎると泣けなくなるよな。
「たまには休めよ、石蕗にも言われてんだろ」
「だからこそ、ですわ。甘えてばかりはいられませんもの」
「……常時帯刀ってのは?」
「あの学校、の。澱みですわ。いけないものが湧いて、湧いて」
のみこまれて、しまいそうで。
言えなかった、言わなかった言葉の先は想像がつく。
言わないように必死なのも。
言葉にしたら、誤魔化せない。
「見えるか」
「…………はっきりとは。でも、感じます。」
「出来るか?」
「その為の私です」
「うし、頼んだ」
「ただ、やはり刀の持ち込みが難しいのではないでしょうか」
「ん?その為に剣道部入ってたんじゃなかったか?」
「去年で廃部になってましたわよ」
「…………マジで?」
完全に当てが外れた。いやだって去年まではあったじゃん。
この間の土砂崩れで剣道場が埋もれた?顧問のじいちゃん先生も腰を悪くして教員を辞めた?部員が他の部に取られて立ちいかなくなった?厄日かよ。日って言うか年。
顧問の爺さん無念だったろうな。ああ俺あの爺さんと面識あるから。いやまて。
「もう立ち上げちまうか、新生剣道部」
「……いえ、無理なのでは…」
「同好会からでもいいだろうし。お前の同年代2人ぶっ込めば人数自体は確保できるだろ」
「…………てっきり、あの……自分で友人を作って剣道同好会を作れ、と指示されるのかと」
「本命は澱みの解消だからな。帯刀の言い訳を現地調達できれば幸運だったがそんだけだ。わざわざいらん所に労力割いてられるかよ」
「一刻も早くあれをどうにかしなければいけませんものね……私、頑張りますので」
「それも間違いじゃねぇけど。お前は明日から休み。ちょっと遠出しなきゃなんだけど俺の足がコレなもんで。石蕗連れて来てくれよ、あいつあれでやっぱ寂しがってるから」
「……それ私いります?」
「当たり前だろ、アイツお前の世話すんのが生きがいみたいな所あるから。石蕗を介助役って事で医者の先生説得しようと思ってんだけどさ、あいつはお前以外の世話すんの断るから」
「もう諦めて入院なさった方が良いのでは……?」
「病院って退屈なンだよ。ゲーム持ってきて盗難に遭うの嫌だし」
「どこに行くご予定ですの」
「北海道までウニ食いに」
「仕事ではありませんの!?」
「書類ちゃちゃっと書くから明日の朝ガッコ寄って出して、そのまま寝台列車のんだよ、そしたら昼間から酒飲めるし」
「…………お、お仕事なら付き添いもしましたのに!完全に観光ですの、いけないんですのよそんな、学校がある日に、病気でも無いのに休むだなんて」
「そ、俺はいけない大人だからそう言うこともやる。そして俺はお前の上司。上司命令は?」
「時と場合により拒否できますのよ」
「最近の奴はその辺しっかりしてんね」
加筆します
「ヘッッタクソ」
「昨日よりは上達してますわよ」
「ヘタクソには変わらないんだよな」
「指運びと息継ぎが上立つしましたので」
「楽器は得意っつってたの嘘か?」
「弦楽器ならできるんですのよ……肺活量関係ありませんもの…」
ごじつ加筆します
古びたバス停。真新しい忘れ物の傘があるものの、他に客はない。
ここで待っていればバスが来ますわ、と案内したのはお嬢だ。
こんな辺鄙な所よく分かったなと思って聞けば以前来た覚えがあるらしい。お嬢前にもここ任務で来てんの?つまり前にも怪異あったのかよ。お嬢が派遣されるレベルのやつが。
数時間前まで野を山を崖を駆け回っていたご本人は別人の如く静かである。血やら泥やらで汚れた一式は全て俺が背負ったバッグの中だ。一刻も早く帰って洗いたい。一般家庭や川で洗うと色々ダメなんだとよ。わからんでもない。
清潔な服に着替えたお嬢はマジで普通の女子にしか見えない。
それどころか。
田園風景をバックに立っているだけでどこか漂う気品。
「絵に描いたような、ゴレイジョー!って感じだよな」
「悪意を感じますわ」
「いや褒めてんだけどよ」
「なら国語力の欠如ですわね。本を読みなさい本を」
「本読んだらどうなるんだよ」
「今よりは賢くなりますわ」
「なぁ本を読んでる御令嬢、悪意を感じるんだが」
「隠し味ですわ」
「隠れてねぇよ!!」
そして悪意の否定はしないのかよ。
まぁ俺も自分の言葉が悪かったことは認めるが。
ツバの広い麦わら帽子に涼しげな紺のワンピース。
傍らに荷物を持った従者、という構図だけなら大体誰がみてもどこかの御令嬢だろう。お嬢は完全にお嬢だが、従者の俺の服装が夏バテ対策した大荷物一般人なので「お嬢様とその従者」より「夏休みに遠出する兄妹」のほうがまぁ、見えやすいか。
「バス二時間後だってよ」
「…………暇ですわね」
「おいやめろ、絶対嫌だからな」
「まだ何も言っていませんのに……」
「『走った方が早いですわね』って言おうとしただろ」
「従者見習いから順調に成長してますわね、石蕗に伝えておきます……主人の思考の先読みができて初めて靴を舐める資格がある、と以前言っていた気が……」
「おい待てそんなん知らんが?俺靴舐めさせられんの?誰の?お嬢の?ヤだよ?人権とかあるだろ?」
「暇ですわ」
「話聞いてる?」
お嬢時々全然人の話聞かない。俺は聞いて欲しい。
なぁ今日帰ったらお嬢様の靴舐めさせられんの?
うとうとし始めたお嬢に慌てる。この人一回寝始めるとマジで起きないんだよ!!!この人1人背負うだけならいいが今日は荷物が多いから絶対ヤだ。ちょっと曇ってきたし。バスが来るまで寝かすわけにはいかねぇ。そのバスさっき逃したっぽいけど。
「しりとりでもすっか」
「会話の墓場と噂の?」
「のんびりしてて良いじゃねえかよ。俺は嫌いじゃない」
「今これ以上のんびりしたら寝そうですわ」
「割と面白いだろ?」
「路上でできる暇つぶしが少ないだけですのよ」
「夜までにはくるだろ、バスも」
「もし来なかったら走りますから」
「……ら、来週までには来るだろ」
「露骨とまでは行きませんがアウトでは?」
「は?ギリギリセーフだ」
「ダメですわ!明らかに不自然ですもの!再審を要求します」
「……………お二人、何をやっていらっしゃるので?」
「やった、石蕗さんちース、あざーす、トランク失礼しまーす」
「石蕗、ジャッジを!さっきのしりとりアウトですわよね!?」
天の助けとばかり通りかかった石蕗さんである感謝感激雨霰。
話を聞けばこの路線バスはとうに廃止していたらしい。
おいお嬢、バスありますって言ったよな?バス会社も仕事しろ撤去しろバス停。廃止ってデカく書いとけ。ちょっと綺麗だったし真新しい傘とか忘れてあったし普通に待っちゃったじゃねえかよ。
「え、石蕗さんマジでよく通りかかってくれましたね?」
「お迎えに行きますと連絡した所既に出たと言われましたから急いで出てきたんですよ。お嬢様ならこのバス停を目指すだろうと思いましたので」
「流石勤続50年!柳谷家の思考を読める仕事のできる男!」
「ふふん、うちの石蕗は優秀ですので!朝飯前ですことよ」
「あ、お嬢その傘さっきの忘れ物だろ、パクッちゃダメだぜ」
「行くべきところに届けませんと。これも縁ですからね」
「バス廃止してんだもんな。うん」
「石蕗、あとはお願いしますわね」
「わかりました、では10分後に」
「5分で充分ですわ」
お嬢は俺に傘を押し付けて、自分は1人バス停に残った。
石蕗さんは5分間、とんでもないスピードで野を超え山越え崖を越え、乗っていた俺はめちゃくちゃ吐いた。
5分後、また同じバス停の前にお嬢がいた。
あんなに走ったはずなのに。
「お疲れ様でした、お嬢様」
「この程度、なんとも。この方も行くべきところに行けますし」
お嬢が車に乗り込む直前、向こう側に見えたバス停。
植物に呑み込まれたその姿は、俺達が来た時より何年も何十年も過ぎてしまったかのように変わり果てて。
「あのさお嬢」
「なんですの」
「…………なんか見えてた?」
「何も」
もう俺田舎のバス停近寄らない。
絶対に近寄らない。
「今日もノルマ達成ですわね」
「お嬢明日もあるみたいに言ないでねぇちょっと」
お題・麦わら帽子
忘れ物が麦わら帽子のほうがお題に沿っていそうだけど
お嬢に被って欲しかったから……
終点。
しゅうてん。おわり。打ち止め。打ち切り。行き止まり。
どこにもいけないどこにもつながらないどこにもいきつけない。
物事にはいつだって何だって終わりがあるが人生の終わりとなると早々ない。抗いようのない終わりとくれば『死』以外の何物でもないが人生は死んだって終わらないというのが昨今の定説の様な気がする。自分のことを覚えていてくれる誰かがいるなら終わりではないと。忘れられても時折思い出してもらえるなら蘇るのだと。
半分永遠と化した人間は死んでさえも終われない。
終わりたくても終われない。死さえ俺を終わらせられない。
ウーン後日加筆します