しるべにねがうは

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お題 心の健康

健康とは。健やかであること。穏やかであること。患っていないこと。虚でないこと。何もかも満ち足りて不足のないこと。

常日頃心がけを推奨される健康というものは意外と面倒臭いものである。そんな完璧なものまず無理だろ。最近では身体に飽き足らず精神面、心の健康なる言葉まで出てくる始末。
妥協しとけよ。何日か前のお題で「上手くできなくたっていい」、だったじゃないか。生きてりゃどこかしら病むわ。7割元気ならそれで良くないか?だめか。
逆に体がダメでも気力、精神面は元気なんだからいいだろ?病は気からって言うじゃないか。気が元気なら病にはならないだろ?ダメ?そこをなんとか。

「矢車殿、その辺で。看護師さんが困っていますわ」
「柳谷のお嬢じゃねぇの、奇遇だなこんな所で」

ここらじゃ見ない制服は隣の県の私立のでかい学校のものである。
幼稚園から高校までエスカレーター式、日本中のお嬢様が集う女子校。編入組がちらほら。彼女の潜入先である。
ラノベでしか見たことねぇぞこういうシルエットのヤツ。
いかにもお嬢様、といったそれは彼女によく似合う。
奇遇、のあたりで不服です、と言いたげに頬を膨らませる。
童顔も相まって完全にガキである。中学生はガキだが。

「明日付で出さなければいけない書類がありまして。ハンコと署名をいただきに」
「はぁん。学校お疲れチャンだな」
「…………普通の学校って初めてですので。大変興味深く」

通常の教育機関に通ったことのない彼女である。今回のそれは通常じゃねぇのよ。俺も保護者役で一回入ったけどあれは普通じゃねぇんだよ。俺が中学生の時なんか校舎のガラス全部割れてたし。
落書きし過ぎて壁の色わからんレベルだったし。
それはそれでだいぶ普通からかけ離れてる?ははは、まさか。
免許取り立てのバイクで走り回って、ツーリング中迷い込んだ森で助けてくれたのが俺の師匠である。
それはそれとして。

「本音は?」
「常時帯刀は出来ませんし周囲の目線がうるさいですしこの口調をからかってくる人は後を立ちませんし!興味深いのも嘘ではありませんけれど!精神的苦痛の方が!100倍はありますわー!!」

ワ!と両手で顔を覆って俯く彼女だったが泣きはしない様だった。疲れてんな。疲れ過ぎると泣けなくなるよな。

「たまには休めよ、石蕗にも言われてんだろ」
「だからこそ、ですわ。甘えてばかりはいられませんもの」
「……常時帯刀ってのは?」
「あの学校、の。澱みですわ。いけないものが湧いて、湧いて」

のみこまれて、しまいそうで。
言えなかった、言わなかった言葉の先は想像がつく。
言わないように必死なのも。
言葉にしたら、誤魔化せない。

「見えるか」
「…………はっきりとは。でも、感じます。」
「出来るか?」
「その為の私です」
「うし、頼んだ」
「ただ、やはり刀の持ち込みが難しいのではないでしょうか」
「ん?その為に剣道部入ってたんじゃなかったか?」
「去年で廃部になってましたわよ」
「…………マジで?」

完全に当てが外れた。いやだって去年まではあったじゃん。
この間の土砂崩れで剣道場が埋もれた?顧問のじいちゃん先生も腰を悪くして教員を辞めた?部員が他の部に取られて立ちいかなくなった?厄日かよ。日って言うか年。
顧問の爺さん無念だったろうな。ああ俺あの爺さんと面識あるから。いやまて。

「もう立ち上げちまうか、新生剣道部」
「……いえ、無理なのでは…」
「同好会からでもいいだろうし。お前の同年代2人ぶっ込めば人数自体は確保できるだろ」
「…………てっきり、あの……自分で友人を作って剣道同好会を作れ、と指示されるのかと」
「本命は澱みの解消だからな。帯刀の言い訳を現地調達できれば幸運だったがそんだけだ。わざわざいらん所に労力割いてられるかよ」
「一刻も早くあれをどうにかしなければいけませんものね……私、頑張りますので」
「それも間違いじゃねぇけど。お前は明日から休み。ちょっと遠出しなきゃなんだけど俺の足がコレなもんで。石蕗連れて来てくれよ、あいつあれでやっぱ寂しがってるから」
「……それ私いります?」
「当たり前だろ、アイツお前の世話すんのが生きがいみたいな所あるから。石蕗を介助役って事で医者の先生説得しようと思ってんだけどさ、あいつはお前以外の世話すんの断るから」
「もう諦めて入院なさった方が良いのでは……?」
「病院って退屈なンだよ。ゲーム持ってきて盗難に遭うの嫌だし」
「どこに行くご予定ですの」
「北海道までウニ食いに」
「仕事ではありませんの!?」
「書類ちゃちゃっと書くから明日の朝ガッコ寄って出して、そのまま寝台列車のんだよ、そしたら昼間から酒飲めるし」
「…………お、お仕事なら付き添いもしましたのに!完全に観光ですの、いけないんですのよそんな、学校がある日に、病気でも無いのに休むだなんて」
「そ、俺はいけない大人だからそう言うこともやる。そして俺はお前の上司。上司命令は?」
「時と場合により拒否できますのよ」
「最近の奴はその辺しっかりしてんね」


加筆します

8/13/2024, 4:24:30 PM