しるべにねがうは

Open App
8/7/2024, 9:15:56 PM

お祭り

「神様なくして祭りなし、と古来から定まっていますわ」
「………そうか?」

焼きそば唐揚げりんご飴。サメ釣りクレープかき氷。ベビーカステラに綿飴、お好み焼き。きゅうりの浅漬けタピオカドリンク。昨今屋台も色々ある。

両腕に数多の戦利品を提げ、参道を行く。これはその最中あまりに暇だったのでせがんだ雑談のうちのひとつだ。
吊るされた提灯の灯りに赤く照らされた横顔、笹本が丁寧に結った編み込み。何個目かのりんご飴を齧りながらお嬢は雑談を続ける。長い長い階段をいく。数えるのもやめた何本目かの鳥居を潜る。銀色の髪が揺れる。簪についた酸漿の飾りが揺れる。

「地鎮祭に納涼祭や奉納祭、いつも神様と一緒ですわ。縁日だって神社でやるでしょう」
「……そうだな」
「日本国技のお相撲も起源は神事ですし」

コイツ俺が無知だと思って適当いってんじゃねぇのか、と疑ったがそういえば始まる前に塩を撒いていた気がする。
清めの塩、審判は着物、土俵を囲む縄。言われてみればまぁわからんでもない。

「ローマも似たような話あったよな」
「オリンピックの話ですわね……なんてタイムリーな…」
「たまたまだがな」
「………昔より、神様から遠くなっていると感じる事が多い気もしますけど。悪いとこばかりではないのでしょう」
「人がどうこうできる範囲が広がってっからな。人がどうこうしなきゃいけない事が多いと言ってもいいが」
「軽犯罪が増えた気が……いえ重犯罪も増えましたわね。ネット犯罪、詐欺……憂鬱ですわ……」
「神様に頼む事案とは違うわな……つか人災じゃねぇかよ」

事前にある程度の予測が立てられる気象も、神様に頼るものではなくなってきた。だって準備できるし。台風が何日に来るとか、1時間以内に雨が降ってきますとかアプリでわかるし。人為的に雨を降らせることはできずとも、ダムで水を溜めておくなり水道を引くなり、水源の確保はできる。神様を頼らずとも、神様に縋らずとも。
大昔は神様と崇められた獣も。家畜化されたり銃殺されたり。自然を敬えと声がしたが、敬ったところで給料がでたり宝くじに当たったりしないので、多分科学技術を崇め奉る時代になってきたという事だろう。

それとも、自然より科学より、人間による災害の方が厄介で粘着質で、終わりがないという事か。
人生は続いていく。人間は生きていく。
地震や大雨、災害時にだって、盗みや性加害をする奴が、いる。蛆のように湧いて終わらない悪意が、恐ろしい。

そうして湧いた悪意の吹き溜まりが。
そうして脅かされた安寧が。
濁り滞り淀み雑り溶け、形を成して災になる。

「カミ様から距離取り続けた結果、ヒトが最後に対峙するのが神様より恐ろしい人災って皮肉か何かか?」
「人災から遠ざかる為に神様を見ていたのですわよ」
「……そうだったのか?」
「隣の畑の方が実りが良い、日照り続きで水田が枯れた、地震でみんな家がなくなったのにあいつの家だけ無事だった。全部神様の思し召しだと思えば。ね、仕方ありませんでしょう?」
「そんで『神様が見ているから善行を積みましょう』に繋げるのか?」
「悪行為すものにとって都合が良すぎるところはありますけれど。その為に考え続ける人がいますから」
「はん、ご苦労なこった」
「何を他人事みたいな顔していますの、それこそ私達陰陽師ですわよ」
「………………いやお前らの領分って一般的な動物とかと外れた化け物だとか霊的存在とかだけじゃねぇの?」
「もちろんソレらも。まず調査の段階でそこまではっきりわかるものが少ないのですわ。結局微妙なものから精査するところから始めます」
ぱきりぱきりとりんご飴がどんどん削られていく。消化されていく。
「犯罪が増えてきた分その調査も増えましたわね…5年前と思うと桁違いだと思いますわよ」
「科学技術が進歩してこんだけ夜が明るくなってんのに?いや調査だけか増えてんの。陰陽師の出る幕自体は減ってんだよな?」
「何言ってるんです?夜が明るかろうと暗かろうとお化けにも妖怪にも関係ありませんわよ」
「んなわけねぇだろ、何のために俺が電気全部つけっぱでトイレ行ってると思ってんだよ」
「あれやめていただけます?電気代が勿体無い」
「鬼かお前」
ばきん。林檎飴は無惨に砕かれた。次は唐揚げだ。こいつ割と大食いだよな。食い過ぎたって寝てるところよく見るけど。
「見えにくいだけですわ。真昼の星と同じ考え方で良いです。見えていようがいまいがそこにあるものはそこにあります。そこにあればありますし、なければないですわ」
「…………今、お前には見えてんのかよ」
「多分聞かない方が幸せだと思いますけれど」
「一生答えなくて良い、ありがとう」
「見えていません」
「今の流れなんだったんだよ!?!?」

でも今お前に見えてないならここは安全なんだろうな、と一息つく。俺の恐怖を弄んだ罪は重いが。
「私に見えてないから安全だとは限りませんわよ」
「何でそういう事言うんだお前」
「私に見えないだけかもしれませんし、貴方には見えているものが私には見えないかもしれない、逆も然り」
「……勿体つけんな」
「昔はみんな暗闇を怖がりましたから。その感覚も鋭敏だったのでしょう。でも現代は明るい。明るければ暗い場所より安全だと思い込むでしょう?一理ありますけれど、結局この世に絶対なんてありませんでしょう?」

唐揚げは既に平らげられた。次は焼きそばに手を伸ばす。パックタイプの屋台飯って立ったままだと食いづらいよな。ハンカチを広げて座るよう促す。おい驚いた顔すんな。この間「淑女の洋服を地面につけさせるような男はマジで気が利きませんわよ」って凄んだのお前だろ。
気を取り直して。

「明るくても暗くても。嫉妬も憎悪も存在するでしょう?朝でも夜でも災いは災いとしてそこにあるでしょう?」

見えにくいだけですのよ。焼きそばを食べながらコイツは微笑う。物分かりの良くない子供に言い聞かせるように。どう足掻こうと現実は変わらない事を言い聞かせるように。

「だから諦めてトイレ行く時電気消してくださいな」
「人には気休めが必要なんだよ」
「大体電気ついてるくらいでどうにかなるなら私達の武器はサーチライトか高性能懐中電灯になってますわよ」
「やめろやめろ真実を突きつけるな」

焼きそばを食い切って次に手を伸ばしたのはベビーカステラ。うまいよなソレ。最近小麦が値上がりしたせいか高いけど。口の中の水分全部持っていかれるけど。
近くの屋台で出ていたのでタピオカジュースを追加する。ついでにゴミを捨てる。俺カフェオレ派だけどコイツミルクティー派なんだよな。

「月明かりで十分でしょうに……」
「うるせぇお前にはわからんわ怖がりの気持ちが!」
「怖がると寄ってきますからね」
「更に怖い事いってんじゃねぇよ泣くぞ」
「寄ってきますわよ」
「追い討ちすんなァ!!」

カステラを一つ食べ、タピオカジュースを飲み、またカステラを食べる。美味そうだな。買ってくるわ。お前から食いもん盗ろうとすると碌な目に遭わないから。
自分の分のカステラを食べながらタピオカ入りのカフェオレを飲む。美味い。

「何をしていてもいるものはいますわ。だから大事なのは意識しないこと。そこにいると思わないこと。意識して関わりを断つ意思。」
「………………なぁやっぱりお前今日もなんか見えて」
「聞かない方が幸せだと思いますけれど。見えていませんわよ」
「……………………はい。」

その後お参りを済ませた俺たちは何事もなく柳谷邸に帰れたのであった。電気代が上がった。

——————————————————————————-

だいぶ前のお題ですがやっと描き切れたので載せます

お嬢→そこそこ長いベテラン風味陰陽師
怖がり→見習いぴよぴよ陰陽師

8/6/2024, 12:41:05 PM

眩しく。
華々しく。
この世ただ一つの輝き。

そんな人間が生まれた時から隣にいたなら、
きっと人生はどんな誰より暗いだろう。

己がどれだけ劣っているのか。
己がどれだけ出来損ないか。
一生かかっても届かない場所にそいつがいる。

自分の不得意なものはあいつが10倍上手い。
自分の得意だろうものを見つけてもそいつの方が100倍上手い。

何をやっても上手くいかないわけじゃない。
上手くいってもあいつの方が上手くやる。

いつも出来損ないが隣にあるから、完璧に輪をかけてあいつが輝く。惨めだなあ。いつも失敗作だ。
どんなに頑張っても「成功した例」が隣にある。
「〇〇の劣化品」てラベルが俺の背中にあるみたいだ。
そんなことないけど。たぶん。


後日加筆します

7/21/2024, 1:52:32 PM

たんじょうび。たった今目の前の人物から発せられた言葉を脳内でなぞる。いや流石に意味くらいは知っている。

「欲しいものとかありませんの?」
「だからなんでそうなるんだ」
「誕生日と言ったらプレゼントですもの」
「なんで」
「一年元気で生き延びたのですからお祝いですのよ」
「いやそんなん言ってたらキリがないだろ」
「来年生きてる保証はありませんですのよこの仕事」
「若年層をもっと大事にしろ」
「してるから私たちの年まで回ってきましたわ」

以前は15まで生存していた陰陽師は稀だったとか。
そう続いた言葉に背筋が冷える。改善されてこれかよ。
呪いも祟りも続いていますし。表立って言えませんが今年で卒寮する子達は過去最多だとか。白咲も安泰ですわね、油断はできませんけれど。

「とにかく誕生日を迎えるんですからプレゼントを用意しなければいけなくて、それは貴方が喜ぶものでなくてはいけませんのよ」
「はぁん…?」
「手っ取り早くお金でもと思ったのですけれど」
「5000兆円ほしい」
「未成年が受け取るプレゼントとして不健全だとご指摘を頂きまして」
「誰だ余計な事言った奴はよぉ…」
「我らが上司の矢ツ宮殿が」
「流石矢ツ宮殿ご慧眼!惚れる痺れる憧れる!」
「とりあえずもう本人に聞いてしまえと」
「5000兆円ほしい」
「却下ですわ不健全なので」

学校帰り。下校中の生徒や帰宅途中のサラリーマン、買い物帰りの主婦や主夫。ありふれた風景の中紛れる会話は微妙に非日常だ。言い切れないのは知らなかっただけでずっとそこにあったのを知ってしまったからなのか、非日常だと思っているだけで自分の中の日常に組み込まれてしまったからなのかはわからない。
現代まで続く陰陽師の系譜に自分が組み込まれてしまったなんて話、去年の自分にしたら笑われるだろうなとは思うが。

「健全なプレゼントってなんだよ…」
「レースのハンカチーフとかでしょうか…?」
「お前も分かってねぇんか」
「私がいただいて嬉しかったものなら沢山ありますわ、でも貴方が喜ぶイメージが全く浮かびませんの」
「5000兆円くれ」
「もう喜ぶならそれでいいとすら思えてきますけれど、ダメですわ不健全なので」

だいたいそれで何をしますの、と聞かれたのでガチャで溶かすと伝える。経済回すんだぞその顔をやめろ。不健全でNG入ってるだけなら用意はできんの??5000兆円用意まではいけんの??したところで何?って感じではあるよな。コイツが用意したわけではないし。つまり俺はコイツがなんか苦労しながら用意したものがほしいのか。はん。

「……お前、バク転できる?」
「できますわ」
「バク宙は?」
「できますわ」
「ムーンサルトキックは?」
「なんですのそれ」
「矢ツ宮殿から組み手で一本取れるか」
「無理ですわ」
「じゃあそれ」

あ、初めて見るな、その表情。

「矢ツ宮殿から一本とったお前みたい」
「……………………承りましたわ」
「なーんて、いやマジかお前」
「二言はありませんの」
「流石に冗談だよな…?」
「ふ。自分で言い出しておいて怖気付いてませんか貴方。目の前にいる私を一体なんだと思っていらっしゃるのかしら」
「猪突猛進狂戦士似非お嬢様」
「拳を一発プレゼントするのが先になりそうですわね」
「そういうところだぞお前」
「現金よりは健全でしょうし。それに私も見てみたくなりました」

私の誕生日には貴方にも用意してもらうとしますから。
自分が貰っておいて出来ません、なんて言いませんわよね?

にこり、と。自分がとんでもない事を言ってしまったと気づいたが後の祭り。

「さぁ善は急げといいますもの、早速予定を汲みますわよ」
「おいまてやっぱさっきのナシ!!飴ちゃんとかにしようぜ!!」
「何を仰います、自分の発言には責任をおもちなさいな」
「つか本当にとんの!?とれんの!?」
「取れるかどうかではなくとるのですわ」
「…………………マジで?」

この後、本当に何の仕込みも作戦もなく実力真っ向勝負の324戦目で矢ツ宮殿から見事一本とってみせたお嬢様から、やはり同じように矢ツ宮殿から一本とってみせろと言われる俺なのであった。
口は災いのもとである。南無南無。

————————————————————————

一番ほしいもの 値千金の。すこし解説するなら、自分でもいつのまにか諦めていた壁を越えようとする意思と、ひねくれつつも婉曲的でも、自分と共に壁を乗り越えようとしてくれたその心。

7/16/2024, 1:30:25 PM

「七夕って梅雨ど真ん中だけどよ」
「天の川が氾濫してお二人が会えなくなる話ですの?」
「ちげぇよ。彦星も織姫も星の話だろ?じゃ日本の天気なんか関係ないって思ったんだが」
「宇宙では晴れ説ですわね」
「俺もそれならハッピーエンドじゃんって思ったんだが」
「毎年普通に会えるなら…いえ愛し合う2人、一年に一度の逢瀬ですもの、ロマンチックは変わりませんわ!」
「星換算すると一年てのは体感3秒程度らしいんだよな」
「めちゃくちゃばかっぷるですわ」
「2秒離れてるの辛い…って言ってんだよな」
「…………結婚した後仕事に影響が、の所の説得力が…!」
「そんなに思い合える相手と結ばれたんならまぁ、スゲーよな」
「どう転がってもロマンチックと奇跡になりますわね」
「巡り合わせと時の運、そのものだな」

7/15/2024, 12:15:31 PM

執着というのは、どうにもこうにも、面倒だ。
諦められず。手放せず。前を向けず。
どこにも行けなくなってしまう。

どこにも行けないものたちは。
どこにも行けず、滞る。

濁って、沈殿して、留められる。
泥の様に沼の様に、新たに落ちてきたものを呑み込んでいく。

どろどろとでろでろとしたモノが、べたべたとぐちゃぐちゃと混ざっていく。

「なぁ、きっとこんな所にいてはいけない」

知ってるよ。

「明るい場所にいこう?最初は慣れないかもしれないがいつかきっと、大丈夫になる日がくるから」

それっていつだよ。

「きみは綺麗だ、美しい。君は私の言葉を否定するだろうけれども、」

わかってるなら言うなよ。

「私は君を尊いと思う」

お前に何がわかるんだよ。

「君の優しさが君をこんなふうにするのなら、私はその優しさを否定しよう。意味が自己犠牲を続けるならそんなのは間違っていると断罪しよう。君が他人に許しを得たくてそうしているなら、他ならぬ君自身が君の生存を守りなさい」

生きている事を許されたいと思うようになったのはいつからだろうか。
生きていてごめんなさいと思うようになったのはいつからだったろうか。

Next