菜な子

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3/19/2024, 4:00:39 PM

ほんの少し近づいただけ。
わかっている。
それでも、不意に包まれた彼の匂いと、
直接触れずとも感じる体温に
どうしても胸が高まってしまう。

もう少し、触れてみたい。
もう少し、そばに居たい。
そんな思いが膨れてゆく。

膨れた思いの核はせり上がり、
喉の奥まで上り詰める。

「もうすこし」

そう言いたいのに、上った思いが息を裂く。
か細い糸のような声は、彼の耳に入る前に、
溶けるように切れて、聞こえない。

だから、神さま、もう少し。

もう少しだけ、私を彼に、近づけて。

「胸が高まる」

3/18/2024, 7:55:05 AM

泣いたりなんて、しませんよ。
どれだけ辛く、恐ろしい場所に居ようとも
あなたは生きているのでしょう?

泣いたりなんて、しませんよ。
いつか帰ってくるあなたを信じて
笑顔を絶やさず生きていくから。


泣いたりなんて、しませんよ。
優しく大きなあなたの背中が
小さな箱に収まって
何一つ喋らぬ人になったとしても

泣いたりなんて、しませんよ。
だから大丈夫。
私のことは何も心配しないで
ただあなたのやらねばならないことを果たしてきて。





「泣かないよ」

3/16/2024, 3:47:31 PM

私はいつも
恐れている。
もし、彼が
私に出会わなかったなら、
彼は幸せだったかと。
不幸にならなかったのかもなど。
彼を悲しませることは
何一つない、
美しく、
優しい人がいるのに、と。

そんなこと考えた夜は、
月の光が刺すように痛い。
私の恐れに賛同しているのか
そんな事言うんじゃないと怒っているのか。
どちらなのかなど知る由もない。


彼の寝顔がまた、私の胸を締め付ける。
こんなにも優しい。
こんなにも美しい。
そんな人。
私には到底釣り合わない人。

彼はこんなにも美しい。
こんなにも穏やかな月光に照らされて。

あぁ、月の光がびりびりと痛い。
こんなにも痛い激しい月の矢に刺されて。

落とした涙の歪な丸
彼が美しい月ならば
私は醜い涙の跡。

早く乾いて消えたいわ。
優しい光に照らされて。



「怖がり」

3/10/2024, 10:01:01 AM

過ぎ去った日々を思い返す
隣にいた貴方の、頬の赤み
隣にいた貴方の、深いため息

過ぎ去った日々を思い返す
隣にいた貴方の、石鹸の匂い
隣にいた貴方の、確かな体温

過ぎ去った日々を思い返す
隣にいた貴方の、立ち上がる瞬間
扉の向こうの、貴方の気配

そしてまた、過ぎ去った日々を思い返す
思いの外広い、一つの部屋
一人では冷たい、部屋の中

過ぎ去った日々を思い返す
過ぎ去った日々を思い返した、あの日
過ぎ去った日々を思い返した、その日

過ぎ去った日々を思い返す
大好きな貴方が、確かにここにいた日々を。

そして、来るのであろう未来に思いを馳せる
大好きな貴方が、確かにここにいる日々を。





「過ぎ去った日々」

3/8/2024, 9:43:52 AM

月夜
これでもかという程に金色に輝く月
貴方の希望

月夜
雲から光をもらす月
暗闇に照らされた夢

月夜
貴方を照らす月
私の愛

月夜
何も見えない新月の月夜
断ち切られた赤い糸

月夜
まろやかな形を成して霞む月夜
潤んだ瞳







「月夜」

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