菜な子

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ほんの少し近づいただけ。
わかっている。
それでも、不意に包まれた彼の匂いと、
直接触れずとも感じる体温に
どうしても胸が高まってしまう。

もう少し、触れてみたい。
もう少し、そばに居たい。
そんな思いが膨れてゆく。

膨れた思いの核はせり上がり、
喉の奥まで上り詰める。

「もうすこし」

そう言いたいのに、上った思いが息を裂く。
か細い糸のような声は、彼の耳に入る前に、
溶けるように切れて、聞こえない。

だから、神さま、もう少し。

もう少しだけ、私を彼に、近づけて。

「胸が高まる」

3/19/2024, 4:00:39 PM