何処にも、俺を…いかないで、ください、ああ、そんな…!なぜ、何故…?!
嘘だ、こんなの、嘘だ…ッ!!
否定出来なかった、尊敬してた、大好きだった、
【先生】が、此処で
死んでる…だと、ああ、
……っ、ちくしょう、あの時、手を、離さなかったら、生きてたはずなのに…!!
俺は、俺は……
誰かの記憶は、まず先に声から失われるらしい。
たしかに、随分と前に会ったきりの人の声を思い出すのが難しい。
昨日かかって来た電話で、ようやく久しぶりに昔の友人の声を聞いた。
「元気にしてたか?」
なんて事の無い会話だ、そこからお互いの近況報告になっていった。
中学校のよく話してたクラスメイトは、二人居た。
その二人のうち、片方は病気で亡くなってしまっている。
そのクラスメイトの話題になって、少し歯切れの悪い会話になった。
「…もうあいつの声、思い出せないよな」
あんなに笑いあっていた友達の声を、二人とも忘れていた。
春の花が咲く季節、暮れゆく茜色の空を君と見ていた。
季節は過ぎ去ってゆく、駆け足で。
そんな慌ただしい季節の移り変わりを、君と眺める日々。
時の針は元に戻りはしないけど、君と共に過ごす時間が進むのを嫌だと思ったりはしない。
こぼれ落ちてくる桜の花弁を手で掴んだ、それを君に渡したら、綺麗だねなんて言葉を返して笑う。
散りゆく桜の花吹雪に、君の後ろ姿を見ている。
その手を取ったのは、君がその桜の花吹雪に消えてしまいそうだったから。
孤独だった私の手は、空を掴むばかりだった。
そんな私に、大切な人ができた。
その人の手は暖かくて、私より一回り大きな手。
その手と自分の手を繋いで、変わらない街の風景を歩いて楽しんでいた。
繋いだ手を離したくない、このままでいたい。
このまま、一緒に歳をとって
しわくちゃになっても、同じように手を繋いでいたい。
貴方の手は、私の日常に優しい温もりを添えてくれる。
その手を私の両手で包み込んで、伝える言葉は
「ありがとう」「愛してる」のありふれた言葉。
それを何度でも、貴方と繋いだ手を通して伝えてく。
始まりがあるものには、なんであれどんなものにも終わりがある。
人々の人生も、そんなものだろう。
終わりがあるから、始まる物語。
人の一生は、いつか来る終わりを飾る彩だ。
終わりのない物語には、始まりなんてない。
終わるからこそ、始まり、その物語が深いものになるんだ。