誰かの記憶は、まず先に声から失われるらしい。
たしかに、随分と前に会ったきりの人の声を思い出すのが難しい。
昨日かかって来た電話で、ようやく久しぶりに昔の友人の声を聞いた。
「元気にしてたか?」
なんて事の無い会話だ、そこからお互いの近況報告になっていった。
中学校のよく話してたクラスメイトは、二人居た。
その二人のうち、片方は病気で亡くなってしまっている。
そのクラスメイトの話題になって、少し歯切れの悪い会話になった。
「…もうあいつの声、思い出せないよな」
あんなに笑いあっていた友達の声を、二人とも忘れていた。
春の花が咲く季節、暮れゆく茜色の空を君と見ていた。
季節は過ぎ去ってゆく、駆け足で。
そんな慌ただしい季節の移り変わりを、君と眺める日々。
時の針は元に戻りはしないけど、君と共に過ごす時間が進むのを嫌だと思ったりはしない。
こぼれ落ちてくる桜の花弁を手で掴んだ、それを君に渡したら、綺麗だねなんて言葉を返して笑う。
散りゆく桜の花吹雪に、君の後ろ姿を見ている。
その手を取ったのは、君がその桜の花吹雪に消えてしまいそうだったから。
孤独だった私の手は、空を掴むばかりだった。
そんな私に、大切な人ができた。
その人の手は暖かくて、私より一回り大きな手。
その手と自分の手を繋いで、変わらない街の風景を歩いて楽しんでいた。
繋いだ手を離したくない、このままでいたい。
このまま、一緒に歳をとって
しわくちゃになっても、同じように手を繋いでいたい。
貴方の手は、私の日常に優しい温もりを添えてくれる。
その手を私の両手で包み込んで、伝える言葉は
「ありがとう」「愛してる」のありふれた言葉。
それを何度でも、貴方と繋いだ手を通して伝えてく。
始まりがあるものには、なんであれどんなものにも終わりがある。
人々の人生も、そんなものだろう。
終わりがあるから、始まる物語。
人の一生は、いつか来る終わりを飾る彩だ。
終わりのない物語には、始まりなんてない。
終わるからこそ、始まり、その物語が深いものになるんだ。
雨上がり、陽の光が雲間から差し込む。
今、新しい葉が芽吹く。
枯れた大地に、小さな芽がひとつ。
やがて、その小さな芽は大きな森を築くだろう。
その芽吹きは命の始まり、誰も知りえぬ芽吹きは、
やがて人々の憩いの場として、知れ渡ってゆく。