花とコトリ

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3/12/2026, 4:55:10 AM

「平穏な日常」

3月12日、光の粒。
朝の光が、カーテンの隙間から細い階段を作っている。

お気に入りのカップに注いだコーヒーからは、まっすぐな湯気が立ちのぼる。苦みの奥にある微かな甘みを探る、この静かな数分間が私の贅沢だ。

足元では、黒い塊がふにゃふにゃと寝返りを打った。愛犬のクロ。彼の短い寝息は、この部屋の湿度をちょうどよく保ってくれている。

特別なことは何も起きない。けれど、この「何事もなさ」が、薄い硝子細工のように尊いのだと知っている。

世界は今日も、私とクロのまわりで、穏やかに呼吸を続けている。

3/7/2026, 4:04:23 PM

「月夜」

3月7日

月があまりに明るいので、パジャマのまま庭へ出た。
光を浴びた庭の桜の木は、まだ蕾だというのに、
どこか遠い星の植物のように銀色に発光している。

足元では、黒い影のようなクロが
鼻先をひそめて、夜の匂いを丹念に追いかけている。
クロの背中にも月光が降り積もり、
その毛並みは、まるで静かな夜の海みたいに波打っていた。

「ねぇ、クロ。私たちは今、宇宙の真ん中にいるみたいだね」

独り言は、冷たい空気に溶けて透明になる。
言葉にならない感情を、月だけが知っているような夜。

私たちはただ、銀色の静寂の一部になって、
しばらくそこに立っていた。

3/5/2026, 3:13:17 PM

「たまには」

3月5日、光のなかで。
三月にしては、あまりに柔らかな日差し。
春が少しだけフライングして届いたような、そんな午後。
たまには、あてもなく歩いてみよう。

黒い塊のようなクロが、私の数歩先を弾むように駆けていく。
時折立ち止まっては、「来てる?」とでも言うように振り返るその瞳。
私たちは海を目指す。

岬の端っこ、真っ白な灯台が見えてきた。
空の青に吸い込まれそうな白。
何年もそこに立っている、静かな記号。

風はまだ少し冷たいけれど、
クロの背中を撫でると、陽だまりの匂いがした。
日常の隙間に落ちている、こういう静かな時間が
きっと、明日を少しだけ軽くしてくれる。

3/4/2026, 1:38:11 PM

「大好きな君に」

三月の柔らかな光のなかで、君はいつだって僕の足元にいる。

07:30
「ごはんだよ」
袋を揺らす音に、君は世界で一番幸せなニュースを聞いたような顔をする。
器に落ちるドッグフードの、乾いた、けれど確かな音。
待ちきれなくて、君の前足がフローリングを「タカタカ」と小さく鳴らす。

15:00
黒い毛並みに指を沈めると、春の陽だまりの匂いがした。
「クロ」
名前を呼ぶと、君は首をかしげて僕をのぞき込み、濡れた鼻先を僕の手のひらにぐいっと押しつける。

君の瞳に映る僕は、君が思っているよりもずっと不完全で。
それでも、お腹を見せて無防備に眠る君の姿を見ていると、僕の心も少しだけ透き通るような気がするんだ。


✦・┈┈┈┈┈┈┈┈┈ ・✦


「大好きな君に」(クロの視点から)

06:00
まぶたをひらくと、大好きな人の匂いがした。
まだ夢のなかにいるあの人の、規則正しい呼吸の音。
僕はそっと、布団から出ているその手首に、冷たい鼻先を押しあててみる。

07:30
「ごはんだよ」
あの人が袋を揺らす。魔法の合図だ。
カサカサ、カラカラ。
器に落ちるドッグフードの音を聞きながら、僕は嬉しくて、足にうまく力が入らなくなる。
しっぽが勝手に、床をパタパタと叩いてしまうんだ。

15:00
あの人はときどき、少しだけ寂しそうな顔をして僕を見る。
そんなときは、わざと力いっぱい体を寄せて、あごを膝に乗せてみる。
「クロ」
名前を呼ぶ声が、僕の黒い毛並みに溶けていく。

あの人が笑ってくれるなら、僕は何度でも、この春の陽だまりのなかで踊ってみせるよ。


☻••┈┈ᵀᴴᴬᴺᴷ ᵞᴼᵁ ┈┈••☻

3/3/2026, 3:05:34 PM

「ひなまつり」

三月三日。
春の光が、部屋の隅にある埃を静かに照らしている。

今日はひなまつり。
大きなボウルに、彩り豊かなちらし寿司を作る。
酢飯の匂いがツンと鼻を抜けて、なんだか遠い記憶の扉を叩く。
特別な日の、あの落ち着かない、でも少しだけ誇らしい気持ち。

足元では、愛犬のクロが「自分も混ぜて」という顔をして見上げている。
黒い鼻をひくひくさせて、春の匂いを確認しているみたい。
幸せは、きっとこういう、なんてことない瞬間の積み重ねだ。

ひな人形は出さなかったけれど、
クロと、この鮮やかなお寿司があれば、
私の心には十分、静かな春の風が吹いている。

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