「月夜」
3月7日
月があまりに明るいので、パジャマのまま庭へ出た。
光を浴びた庭の桜の木は、まだ蕾だというのに、
どこか遠い星の植物のように銀色に発光している。
足元では、黒い影のようなクロが
鼻先をひそめて、夜の匂いを丹念に追いかけている。
クロの背中にも月光が降り積もり、
その毛並みは、まるで静かな夜の海みたいに波打っていた。
「ねぇ、クロ。私たちは今、宇宙の真ん中にいるみたいだね」
独り言は、冷たい空気に溶けて透明になる。
言葉にならない感情を、月だけが知っているような夜。
私たちはただ、銀色の静寂の一部になって、
しばらくそこに立っていた。
3/7/2026, 4:04:23 PM