花とコトリ

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9/18/2025, 1:08:14 PM

「もしも世界が終わるなら」

もしも、今日が世界最後の日だとしたら。

朝起きて、クロの顔を見る。
いつものように、嬉しそうに尻尾を振ってくれる。

コーヒーを淹れて、マグカップに注ぐ。
その湯気は、ふわりと立ちのぼって、消えていく。

いつもと何も変わらない、ごく普通の朝。
ただひとつだけ違うのは、
今日という日が、永遠に終わらない、
永遠に続く一日であること。

そんなふうに想像すると、
世界が終わるって、
案外、静かで、
そして、とても優しいことなのかもしれない。

なぜなら、
クロのぬくもりも、
窓から差し込む光も、
コーヒーの香りも、
ぜんぶ、ぜんぶ、
永遠に、そこに、あるのだから。

9/17/2025, 1:05:08 PM

靴紐のこと

靴紐は、
ときに、私を惑わせる。
ちゃんと結んだはずなのに、
気づけば、ほどけている。

それは、まるで、
心の中の、
整理しきれない感情みたいだ。
突然、ほどけて、
地面に、だらりと、垂れ下がる。

朝、急いでいるときほど、
なぜか、うまく結べない。
焦れば焦るほど、
指はもつれて、
結び目は、かたくなになる。

けれど、
それでも、私は、
毎日、靴紐を結ぶ。
一歩、踏み出すために。

旅に出るときも、
新しい場所へ向かうときも、
足元には、いつも、靴紐がある。
それは、
私が、私であるための、
小さな、印。

ほどけても、いい。
また、結び直せば、いい。
何度でも。
そうやって、
私たちは、
今日を、
明日を、
生きていく。

靴紐は、
きっと、
そんなことを、
教えてくれている。

9/16/2025, 2:01:13 PM

答えは、まだ

クロと散歩に出る。
いつも行く公園。
同じ道。
クロは草の匂いを嗅ぎながら、一歩一歩、確かめるように進む。
私の中に、答えは、まだ、ない。

子どもの頃は、きっと答えがあると思っていた。
大人になれば、わかることばかりだと思っていた。
でも、大人になった今も、わからないことだらけ。

たとえば、この道が、どこに続いているのか。
どこへ向かっているのか。
いや、そういうことじゃなくて。
人生とか、そういう、漠然としたこと。
でも、そんな大げさなことじゃなくてもいい。
今日のごはんとか。
明日の予定とか。
そういう、些細なこと。

クロは、そんなこと、考えてないんだろうな。
ただ、今、この瞬間を生きている。
草の匂いを嗅いで、
土の感触を足で感じて、
風の音を聞いて。

「答えは、まだ」

そう呟いたら、クロが、こっちを向いて、
首をかしげた。
その目が、キラキラと光っている。
まるで、「それでいいんじゃない?」って言っているみたいに。
答えは、きっと、見つけるものじゃなくて、
感じていくものなんだろう。
クロと一緒に、こうして歩く日々が、
いつか、その答えになるのかもしれない。
そう思ったら、少しだけ、心が軽くなった。
歩きながら、クロの頭を撫でる。
今日も、明日も、
私たちは、答えを探す旅の途中。
でも、急ぐ必要はない。
ゆっくりで、いい。
それで、いい。

9/15/2025, 3:25:19 PM

センチメンタル・ジャーニー

古い雑誌をめくる。
ぱらぱらと、乾いた音がする。
ふわりと、埃っぽい匂いがする。

この雑誌の発売日、どこにいて、何をしていたっけ。
そんなことを、ひとつひとつ思い出す。
記憶の中の私は、いつも髪が長くて、少し疲れた顔をしている。
それでも笑っている。
その笑顔は、なんだか切なくて、懐かしくて、まぶしい。

あの頃好きだった歌を、静かに聴く。
遠い昔の景色が、目の前に広がっていく。
変わらないものなんて、ひとつもない。
わかってはいるけれど、それでも、変わってほしくないものが、
たしかにあったような気がする。

淹れたてのコーヒーから、白い湯気が立ちのぼる。
その湯気越しに、窓の外をぼんやりと眺める。
雨上がりのアスファルトは、濡れて、黒く光っている。
空は、まだ少し灰色だ。

胸の奥が、ぎゅっと締めつけられる。
それは、痛みじゃなくて、
でも、幸せでもなくて。
たぶん、ただの「きもち」。
名前のない、かたちのない「きもち」。

センチメンタル・ジャーニー。
終わりのない、私の旅。
もうすぐ、夜が来る。
そして、また、朝が来る。

そうして、また、旅は続く。
何も変わらない、それでいて、すべてが変わっていく。
それで、いいんだ。
たぶん。

9/13/2025, 3:05:36 PM

空白

窓から空を眺める時間。
ぼんやりと、ただ、そこにある雲のかたちを追う。
何も考えない、何も生み出さない、そんな時間が好きだ。

空白は、ただ虚しいだけじゃない。
何かが始まる前の、静かな予感のようなもの。
新しい言葉が生まれる前の、ページの余白。
誰かの声を聞く前の、心の沈黙。

私たちは、いつも何かで埋めようとする。
スケジュール、仕事、誰かとの約束。
でも、本当に大切なことは、その埋められた隙間ではなく、
その間にある、何もない場所で、ひっそりと育つ。

空白は、自分に戻るための場所。
すべてを脱ぎ捨てて、ただ呼吸する。
そうすることで、本当の自分が見えてくる。
だから、もっと空白を大切にしようと思う。
大丈夫、そこにちゃんと、わたしはいる。

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